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春の斜陽に、四季を唄う  作者: 天の川 真夜


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四月二六日

 約二週間が経った頃。札幌の桜は、満開を迎えた。

 元宮さんの変わらない雰囲気も、クラスの一つの形として収まりつつある日の五、六時間目。


「二年生の総合探求も去年同様、チーム単位でやります。友達と組んでも構いませんが、しっかり活動するように――」


 今年も、総合探究の授業が始まった。


 去年のテーマは『地域活性化』。二年生のテーマは、『sdgs』。

 去年と比べても、取り組みやすそうな内容だ。

 世の中は問題でありふれているから、言葉だけなら何でも突っ込める。


 気がかりなのは去年同様、〝チーム単位〟という点。

 人に気を使ったり使わせてしまえば、思い通りの作品を作れないから。

 だから正直、僕としてはチームを組む意義すらよく分からないのだが。


 崎島はさっそく、去年と同じ調子で誘ってくる。


「咲苗、今年も一緒にやらないか?」


「うん、良いよ」――口にしようと一歩手前、躊躇った。


 チーム決めの時間なのにも関わらず、当たり前のように一人、本を読み続ける人物がいたからだ。


 元宮花梨だった。


「これは……どうしようかな」


 学級代表として、声をかけるべきだろうか。しかし、この二週間足らずで、彼女は噂の的。


「あれが転校生? めっちゃ美人じゃん」

「プロポーション高そうだけど、なんか近寄りがたいよね」


 だからこのまま変に介入せずに、無視をするのが一番楽だろう。ここで僕が手を差し伸べた場合の、男子からの反応は分かりきっている。


 ――「咲苗ってさ、意外としたたかな奴なんだな」


 多分、源田と同じ結果になる。

 特別、僕に下心がないとしても。

 そして、僕が頑張って作り上げた「優等生」な立場は、一気に崩れ去るだろう。


「なんて薄っぺらい『優等生』なんだろう……僕は」


 こんな自分が少女漫画に出てくる「できる男」のような立ち振る舞いはできない。


「本を読むなら、空気読もうぜ? 空気の読み方、教えてあげようか?」ーーみたいな。


 女性って……本当に強引な男性が好みなのかな? 僕が女性だったら、かなり引くと思うけど。


 でも、友達とか恋人関わらず、きっかけさえ作れない自分よりも、そう言う人間の方が人生は成功するような気がする。


 チンピラな僕だが、何もしないわけにもいかない。

 きっと元宮さんは、このまま一人を貫き通して活動するつもりだろう。


「誰も話しかけて来ないで」というオーラ全開だ。


「気持ちは分かるよ。僕もそうだから。でも、残念ながら……これは決まりなんだ」


 そう、ルールを守らない人に注意するのは、学級代表の仕事。

 そして、学級代表は自分。

 注意するのも自分。

 正しい仕事をしたい。

 間違いを気遣うような人物には、なりたくない。


 だからこそ、僕はクラスの模範になれた――でも。


「はぁ……。咲苗って、真面目過ぎ。空気読めねぇよな」


「い、いや、決まりだからさ……」


 自分を拒む態度を示されると、やはり傷つく。

 そんなんだから、悔しいけれど最近の僕は、完全にお人好しを貫くようになっている。


 ――放課後。


「やっぱり……声だけは、かけてみよう」


 それでもこの日、僕は踏み切った。

 放課後、元宮さんは誰よりも早く教室を後にする。僕は、その元宮さんよりも早く教室を出る。


 そう、二人揃って早めに玄関へ向かえば、僕が元宮さんに話しかける姿を比較的人目に晒さず済むからだ。


「急がないと……元宮さん、帰っちゃう」


 早足で学生玄関へ。足が重い。落ち着かない。でも……務めは果たしたい。


「もっと、無難な相手だったら良かったのになぁ……」


 小さくため息をつきながら、下駄箱から靴を取り出す。

 学生玄関を抜けて、あまり目立たない隅で元宮さんを待ち伏せる。


《ゴ、ゴ、ゴ……ゴン》


 約二分後、玄関扉の開閉音が響いた。目を向けると、やはり元宮さんだった。


「嗚呼……お腹、痛い」


 腹をくくり、物陰から一歩踏み出す。


 ――人の目ばかり気にするチンピラなくせに、自分に完璧を求める僕。それを嫌なくらい自覚するから、本当は学級代表なんて引き受けたくなかったのに。


「きっ……」


 僕が元宮さんの視界に入った途端、彼女は警戒態勢に入った。

 鋭い視線に、僕の心は串刺し状態。それでも、声を発する。


「あの……元宮さん。少し、良いかな?」


 彼女はイヤホンを外して、感情のない声で呟く。


「なに?」


「少し……良いですか?」

 

「良いけれど?」


「僕は咲苗 零って、言うんだけど――」


「知ってる。学級代表の人だよね。それで、なに?」


「総合のチーム決めの時、ずっと本読んでた姿が目に入って……チームには入れたのかなって」


「いいえ、まだ決まってない」


「そっか。もし困ってるなら……チームに入らない?」


 彼女は「またか」と悪態をつく。

 想定内の反応――のはずだった。しかしいざやられると、結構辛いものがある。


「それって、学級代表としての発言? それとも、個人的な理由?」


「学級代表として、しっかり仕事をしなきゃとは思ってる」


 沈黙が続く。元宮さんは、こちらの視線を注意深く窺っていた。

 僕はその隙に、次に何を言われても良いように心を身構える。


「そう。もしそれが本当だとするなら、しっかりと仕事をこなす姿勢を否定はしないけれど。でも、私のことは放っておいて良いから」


「でもさ――」


「それ以上詰め寄るようなら、この前のなんとかって男子みたいに、ウザいやつって思うことにするけれど?」


 そうか。

 

 源田は、既に元宮さんの『ウザいやつ認定』を食らってしまったみたいだ。できれば、僕は避けたい。


「わ、分かった。それは嫌だから、やめておくよ。余計なお世話だった、本当にごめん」


 再びイヤホンをつけて髪をなびかせながら、彼女は通り過ぎていく。正門を抜けて左に曲がると、その姿は見えなくなった。


《ゴ、ゴ、ゴ……ゴン》


 時を同じくして、玄関扉の開閉音が響く。生徒が次から次へと姿を現す。

 いつもの下校時間に聞く賑やかな雰囲気が、空っぽな空間を色づけてくれた。


「……帰らないと」


 雑踏に紛れながら、僕も帰路につく。


 ――自宅前のベンチに腰かけて、頭の中で日課の「一人反省会」を始める。


「まぁ……声をかけられただけでも、仕事は遂行できたってことにしておこう」


 必須事項を除き自分から声をかけない僕にとって、それに相手が元宮さんだったことも相まって、今日の試みは非常に大きなものだった。

 僕は頑張った。

 だから……自分を褒めたって良いんだ。たとえ、成果がゼロだとしても。


 沈みかけの夕焼けを仰ぎながら、そう思うことにした。

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