第5章 永峰の覚悟
朝の光の中、永峰は自分自身と向き合う。
焦りも、恐れも、もう背負うだけではない。
朝の光が、ゆっくりと部屋に差し込んでいた。
モニターの電源を入れると、
静かな電子音が空気の中に溶けていく。
永峰は指先でキーボードを叩いた。
ほんの少しの違和感。
それでも、リズムは確かにあった。
「……まだ、やれる。」
その言葉は、励ましでも虚勢でもなかった。
ただ“今”を生きる自分を確かめるための言葉。
デスクの端には、昨日のメモが残っている。
焦りと自信、どちらもミスを生む。
灯の言葉。
その一文が、彼の朝を引き戻した。
「焦りも自信も……結局は“生きてる証”か。」
そう呟いたとき、
通話の着信音が鳴った。
「……柊か。」
モニターに映った柊の顔が、穏やかに笑っていた。
「永峰。昨日のデータ、見たよ。」
「ああ、助かった。……もう少しで全体が見える。」
「焦らずいこう。
灯さんも言ってた、“焦るときほど見えなくなる”って。」
「……あの人の言葉、ほんとにみんなに浸透してるな。」
「ああ。でも、永峰の姿勢もだ。
俺たち、永峰を見て“やれる”って思ってる。」
永峰は、思わず苦笑した。
「……そんな大したもんじゃない。」
「いや。
椅子の高さや場所が違っても、
“同じ舞台に立ってる”ことに変わりはない。」
一瞬、言葉が出なかった。
その静けさの中で、永峰は深く息を吸い込んだ。
「……ありがとう。
じゃあもう一度、ステージに上がらせてもらうよ。」
モニターの光が、
再び彼の瞳を照らしていた。
“できるかどうか”じゃない。
“やるかやらないか”を、選ぶだけだ。
永峰は手を動かしはじめた。
春の光の中で、その背中は静かに輝いていた。
永峰は、画面に映るコードを見つめながら、
“これが俺の立っている舞台だ”と静かに思った。
彼の指先がキーボードを叩くたび、
朝の静けさに、微かなリズムが刻まれていった。
“できるかどうか”ではなく、“やるかどうか”。
永峰が再び舞台に立つ瞬間、それは全員の希望になる。




