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EVOLVE〜エヴォルブ〜Season4 ― 信じる力 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜Season4 ― 信じる力 ―
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第3章 数字の外側にある真実

再びつながった“灯”の声。

彼女の推理が導くのは、数字ではなく“心”の動き。


画面越しに映るあかりの姿に、たまきは思わず息をのんだ。

柔らかな笑顔。けれど、どこか以前よりも凛として見える。


「灯さん……お久しぶりです!」

「ふふ。環ちゃん、元気そうね。ここでまた会えるなんて嬉しいわ。」


ビデオ会議の空気が、穏やかな陽だまりのように温かくなる。

しゅうも軽く会釈した。

「今回は協力会社のデータ監査、よろしくお願いします。」

「こちらこそ。しばらく現場から離れていたけれど、やっぱり仕事は楽しいわ。」


その一言に、なぎが小さく笑う。

「灯さんの分析、環さんがすごく勉強になったって言ってました。」

「まぁ、そうなの? 嬉しいわね。環ちゃん、相変わらずExcelが得意そうね。」

「はい、灯さんに教えていただいたおかげです。」


――昔の職場、あの温かな日々がふとよみがえる。

環の胸の奥に、懐かしい記憶のぬくもりが広がっていた。



◇◇◇



会議室のモニターに、無数の数字とグラフが映し出されていた。

静寂を破るように、灯がゆっくりと口を開く。


「数字は嘘をつかない。

 嘘つきは数字を使う……

 嘘をつくのは、いつでも人間よ。」


その声に、誰も言葉を返せなかった。

キーボードの音だけが、硬い空気を切り裂くように響く。


「数字の違いは、すぐに見つかるわ。

 でも、その違いこそ“本当に見つけるべきもの”じゃない。

 それは――手がかり。」


凪:「手がかり……?」


灯:「そう。悪質な人ほど、自分のやることに自信がある。

 だからこそ“見せたい真実”を作るの。

 その中に、“見つけられたい嘘”を混ぜてね。」


空気がぴんと張り詰めた。


「追えば追うほど、また別の手がかりにたどり着く。

 そして、やっと真実に届いたと思った瞬間――

 それはフェイクやトラップ。

 自分の手を誇示するための、ね。」


環:「……じゃあ、本当の真実はどこに?」


灯:「真実はね、見えない場所に隠すか、

 わかりやすい場所に堂々と置くの。

 人は難しいものほど真実だと思い込む。

 でも、本当は“気づかれないくらい普通の中”にあるの。」


凪:「それも計算のうち……?」


永峰ながみね:「つまり、“数字の外側”を見ろと?」


灯:「そう。

 さらに深いところには、

 “絶対に見つけられないもの”を仕込む信念がある。

 そこにこそ、その人の本音が隠れているの。


 でも――

 数字にばかり目を奪われると、

 本当に見るべき“人の動き”や“癖”を見逃す。

 数字は事実を語るけれど、動機までは語らない。


 ただし皮肉なことに、

 信じる力が強いほど、人は“外が見えなくなる”。

 自分の信念の外にある現実を、見失ってしまうのよ。


 もしその“見失ったもの”を見つけ出せたとき、

 初めて正義はほんとうの意味で正しくなるのよ。」


永峰:「……“信じる力”を取り戻すことが、真実への鍵……か。」


灯:「“信念”を積み上げると、必ず“間違い”が浮かび上がるのよ。」


柊:「間違いが……真実を照らす、ってことか。」


灯:「ええ。

 嘘を見抜きたいなら、一度“信じてみる”こと。

 信じることでしか、矛盾は見えない。

 人はね、疑っている時よりも、信じている時のほうが、

 本当の違和感に気づけるものなのよ。


 ――それが、人間のパラドックス。」


柊の視線が鋭く変わる。


柊:「……つまり俺たちは、“数字の裏にある動機”を探るべきってことか。」


灯:「そう。

 ――これは手がかりを追う者。

 見つけやすい違いを見つける者。

 見つけにくい嘘を探す者。

 その3方向から進めば、必ず真実は姿を現す。」


そして灯は、いつもの穏やかな微笑みを浮かべた。


「さぁ、3手に分かれて始めましょう。

 数字は嘘をつかないけれど――

 “嘘つきの手跡”は、きっとどこかに残っているはずよ。」



◇◇◇



灯の言葉が静かに空気を揺らした。

しばしの沈黙のあと、柊が小さく息をついた。


「……3方向から、だな。」


灯は軽く頷いた。

「ええ。手分けして探りましょう。」


永峰がモニター越しに全体のデータ構造を呼び出す。

「それなら、俺は全体の俯瞰を担当する。

 データの流れ、アクセス権限、更新履歴……すべての繋がりを見てみよう。」


灯:「そうね。全体を見られる視点は永峰さんが一番適しているわ。」


凪はすでにノートPCを開いていた。

「僕と灯さんは、数値そのものを洗います。

 関数、更新タイミング、上書き履歴――

 不自然な痕跡を全部拾ってみます。」


灯:「ええ、数字は嘘をつかない。

 でも、“誰が嘘をついたか”は数字の中に残る。」


柊がゆっくりと環のほうを向く。

「俺たちは――数字の外側、だな。」


環:「人の心理、ですね。」


柊:「ああ。操作ログの動き、書き込みのクセ、

 時間帯の偏り……そういう“人の気配”を拾っていこう。」


灯:「それでいいわ。

 ――数字を徹底的に洗う者。

 数字の外側で“心”を探る者。

 そして、全体を俯瞰する者。

 3つの視点が重なれば、必ず真実は姿を現す。」


永峰:「了解。」

凪:「了解です!」

柊:「行こう。」


その瞬間、静かな会議室に緊張が満ちた。

まるで見えない糸で繋がれた3方向が、

同じ一点――“真実”へ向かって動き出す。


モニターの数字が淡く光り、

灯の瞳にその光が映る。


「――数字は嘘をつかない。

 けれど、人は嘘を隠すために数字を使う。」


その言葉が、作戦開始の合図のように響いた。


信じる力が試されるとき、真実は姿を変える。

灯の言葉が、再び環の未来を照らし始めた。

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