第1章 再会
春の光が差し込むオフィスで始まった、いつもと変わらない一日。
けれど、その“少しの違和感”が、すべての始まりだった。
― 再会の光 ―
アークシステムズの会議室。
ガラス越しに差し込む春の光が、テーブルの資料を白く照らしていた。
「今回の案件、外部の協力会社と連携して進めることになった。」
柊が静かに説明すると、凪が素早くメモを取り、環がうなずく。
「データベースとログ解析が中心になると思う。
環には分析の担当をお願いしたい。」
「はい、わかりました。」
「凪は、データ連携の部分をまとめてくれ。」
「了解です!」
柊は軽くうなずき、ホワイトボードに新しい案件の概要を書き出していく。
静かな会議室に、マーカーの擦れる音だけが響いた。
「今回の協力会社、前にも一度やり取りのあったところですか?」
環が尋ねる。
「いや、初めてだ。担当者は……たしかPMOの永峰さん、だったかな。」
「永峰さん?」
「名前だけは聞いたことあるが……。実務には強い人らしい。」
凪が顔を上げる。
「どんな方なんでしょうね。どんな人と一緒に仕事するかで、雰囲気って変わりますもんね。」
「そうだな。チームの空気は人で決まる。」
柊の言葉に、環がふっと笑う。
「……柊らしい言葉ですね。」
「そうか?」
「はい。なんだか、ぽかぽかします。」
「はは、そうか……ぽかぽか、か……環らしいな。」
柔らかなやり取りに、凪が苦笑しながらも空気を和ませるように言った。
「このチーム、ほんとに温度高いですよね。
仕事の話なのに、たまにカフェみたいな空気になりますよね。」
「じゃあ、そろそろ本題に戻ろうか。」
柊が咳払いをひとつして、モニターをつける。
その時、内線電話が鳴った。
環がすぐに受話器を取る。
「はい、アークシステムズです――あ、はい。お待ちしておりました。今、伺います。」
電話を切ると、柊のほうを見た。
「永峰さんがいらっしゃいました。」
「そうか。迎えに行ってもらえるか?」
「はい。」
環は軽くうなずき、ドアの向こうへ向かった。
エントランスには、春の光の中で一人の男性が待っていた。
車椅子に座りながらも、姿勢はまっすぐで、穏やかな表情を浮かべている。
「お待たせいたしました、永峰様。
私、事務担当の如月環と申します。」
「初めまして。永峰です。」
「このまま会議室へご案内させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、お願いします。」
環がうなずいたその瞬間、背後からゆっくりと近づく足音。
「……永峰?」
その声に、永峰は振り返り、柔らかく笑った。
「やあ、久しぶりだな、柊。」
――春の光が、ふたりの間を照らしていた。
◇◇◇
― 再会の会議室 ―
会議室に入ると、柔らかな春の光がガラス越しに差し込み、
テーブルの資料を淡く照らしていた。
永峰は静かに車椅子を進め、柊と向かい合う席へとついた。
「改めて――久しぶりだな、柊。」
「本当に、な。もう……何年ぶりだ?」
「五年。クロノスを辞めてからだからな。」
短い沈黙。
その空白を埋めるように、環がそっとお茶を置いた。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
永峰は軽く会釈をして、柊のほうを見た。
柊「まさか、ここ(アークシステムズ)で再会するとは思わなかったよ。」
永峰「俺もだ。聞いた時は少し驚いた。
けど、また一緒に仕事ができるのは……うれしい。」
凪が明るく口を挟む。
「クロノス時代の同僚なんですね! すごいなぁ。
どんな仕事をされてたんですか?」
永峰は少し笑った。
「プロジェクト開発部門だ。柊とはよく衝突していたけど、
目指すものは同じだった。」
「衝突?」
「そう。俺が理屈で、柊が感情派。
でも結果的に、いつも同じ結論にたどり着いてたよな?」
柊が苦笑する。
「まぁ……そうだったな。」
環が静かに見守る中、
懐かしさと新しい時間が、少しずつ混ざり合っていく。
永峰は手元のノートパソコンを開き、
画面に資料を映し出した。
「今回の案件、僕はPMOとして全体の管理を担当します。
システム開発の基幹部分は、そちらのアークシステムズにお願いしたい。」
「了解した。こっちは凪がプログラム、俺が設計。
環がデータの分析を担当する。」
永峰がうなずく。
「環さんの分析、楽しみにしています。」
環は少し緊張しながらも微笑んだ。
「ありがとうございます。全力で取り組ませていただきます。」
一瞬、永峰の表情がやわらいだ。
「……いいチームだな。
柊、おまえがうらやましいよ。
いい仲間に出会えたんだな。」
柊は何かを感じ取ったように視線を上げた。
「永峰……」
永峰は、淡い笑みを浮かべたまま続けた。
「俺はもう第一線ではやれなくなった。
でも――今の俺にできることを、やるだけだ。」
春の光が、ゆっくりと永峰の頬を照らす。
柊は深くうなずいた。
「そうか……」
静かな会議室の中で、
その言葉がしずかに響いた。
環はふと気づいたように、
パソコンの画面に映る永峰の横顔を見つめた。
そこには――諦めではなく、
再び“進もうとする光”が宿っていた。
気づいた瞬間、心の奥で何かが動き出す。
この章は、環たちが“真実”の扉に手をかけた瞬間を描いています。




