第9章 再び、光の舞台へ
真実の最後のピースが、静かに姿を現す。
焦りと自信――その狭間で、見えなくなった“光”。
夜のオフィス。
蛍光灯を落とした室内に、モニターの青白い光だけが残っていた。
永峰は静かに車椅子を進め、
デスクの向こうで立ち尽くす男を見つめた。
「……来たな、西野。」
西野は視線を落としたまま、
「……俺に話すことなんて、ないでしょう。」と低く言った。
「あるさ。」
永峰は淡々と答えた。
「どうして、あんなことをした。」
「……仕方なかった。遅延すれば契約も信用も失う。
俺は、チームを守るためにやっただけです。」
「チームを守るために、改ざんか。」
永峰の声は静かだった。
「それを“信じること”と呼ぶのか?」
西野は顔を上げた。
「信じたって、何も変わらない!
あなたみたいに、人から信頼される立場じゃない俺には……!」
永峰の目が、一瞬だけ揺れた。
「俺みたいに?」
「そうですよ! あなただけが特別だ。
障がいがあっても周囲に認められて、また戻ってこれた。
……俺なんか、最初から誰にも必要とされてなかった!」
空気が震えた。
沈黙のあと、永峰はゆっくりと息を吐いた。
「俺が特別……か。
違うよ、西野。
俺だって、あの事故のあと何もできなくなった。
もう“舞台”には戻れないと思った。」
永峰はモニターの光を見つめながら続けた。
「でもな、柊に言われたんだ。
“椅子の高さが違っても、同じ舞台に立ってる”って。
その言葉で、またキーを叩けるようになった。
できるかどうかじゃない。――やるかやらないか、だ。」
西野は拳を握りしめた。
その指が震えている。
「……俺は、間違えた。
怖かったんです。永峰さんみたいにはなれないと思った。
でも……どうしても認められたかった。」
永峰は、わずかに微笑んだ。
「数字は嘘をつかない。
人間は――間違う生き物だ。
でも、何度でもやり直せるのが、人間なんだ。」
その言葉に、西野の肩から力が抜けていく。
長い間、張り詰めていた糸が切れたようだった。
「……やり直せる、か。」
「ああ。人は“もう一度正しく生きる”ことができる。」
永峰は差し出した手を静かに伸ばした。
西野はその手を見つめ、ためらいながらも握り返した。
モニターの光が2人の顔を照らす。
外では夜明け前の風が、カーテンをやさしく揺らしていた。
「さあ、行こう。
もう一度、この舞台に立とうじゃないか。」
「……はい。」
――見失った光は、もう一度、手の中に戻ってきていた。
数字は嘘をつかない。
けれど、人は何度でも“正直”になれる。
それこそが、人の進化。




