時間を考察
アスファルトにはいくつか雨の証として水で濡れた部分が西陽にさらされて落ちついている。
加藤くんは今は付き合っているのではない男のことを振り返らない日はない。そして傘を左手に提げながら「橋だ」とつぶやく。
あの子は橋が好きだった。加藤くんは抱っこされながら共有した景色に照準を合わせてみる。
風がさらさらと右から前に流れては渦巻く。
川面の波形は数学のサイクロイド状にふくれてはじけて空気に溶けた。
ここで夢を語り合ったとき、お前のは夢じゃなくて理想だよと言われてしまったあのとき。心臓が飛び出るくらい加藤くんは喜びに満ちていた。あの子の口ぶりや仕種なんかはっきり言ってどうでも良くって、確かなこと、大切なことは加藤くんとあの子がぴたりと寄り添ってそこに立っていたこと。
チリンチリンと自転車が通り過ぎていく。
その反射板を加藤くんは見送る。
お腹が空いてきたらどうしようかな。アパートの冷蔵庫には豚の小間切れ。安いんだけど、たらふく食べた感じがしないのは、なぜ?
くるくる丸めて小麦粉をつけてみても、オイスターソースで味付けてみてもしっくりこないのはどうして。
綺麗な青い縁取りの平皿に盛りつけてみても、サラダにそっとパクチーを忍び込ませても日々を彩るアクセントにならないの。
パタパタとスリッパの音がする。
「おうい、加藤待った?」
ううん、と首を振る。そして傘を持ったまま抱きとめる分厚いからだに顔をうずめる。
「なに考えてたんだよ」
と訊かれて加藤くんは曖昧に微笑んでみせる。
それが一番好きと言われたからではなくて、それが一番好きだと知っているから。
ねえ、もしも二人の間に命が宿ったとして
おろしてなんて言わないでほしいな
でもそれを言ったら気まずいから加藤くんは黙ったまま
「ううん、なんでもないよ」
「やっぱりなんでもないや」
並んで歩き出す影には3つのシルエットが重なって揺れる。
それがメタなのか加藤くんには分からない。
そうでなくてはあらない理由もあらないのだから




