表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビーンワイル  作者: シュルレアリスム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/34

ネコ権

猫好きなら読んで

おい


タカシはネコに呼び止められた。


「なに?」


お前ネコの前を横切っただろニャ


たしかにタカシはタカナシ薬局の前でうずくまるネコの真横を通り過ぎようとしていた。


「うん、そうだね」


チッチッチ


ちゅ~るをむさぼり食うネコはチッチッチとまた言った。


「なんか文句あるのかい」


パチンカスのタカシには金がない。金がないと腹が立つ。


それは違法だニャ


「へえ、一体全体なにが違法だって?」


人語を操るネコを怪訝に思わないでもないけれど、焼酎をひっかけたタカシにはそんなことどうでも良かった。


ネコ法第十九条、むやみにうたた寝を邪魔するべからず!


「は?」


前足で頭をこするネコ目がけてタカシはその辺の石でも投げつけてやろうかと思った。


にゃに?ネコ法を知らんのか


「普通の法律もよく分かんねえよ」


タカシはふてくされて答えた。


ニャハ、お前面白いヤツ。名は何という?


「タカシ」


そうかタカシ、宜しくな


それがゴンザレスとの初めての会話だった。



ーーーーーーーーーー


おい


「なんだよ」


それはなんだ、いやニャンだ


「むりしてネコ語やらなくていいから」


タカシは七輪に火をくべている。


目を輝かせたゴンザレスは網に飛び乗った。


「おい」


にゃんにゃ?


「燃えてしまうぞ」


うちわで扇ぐと庭に灰神楽が舞った。


アチチ!


ゴンザレスは網から離れてタカシの背中にしがみついた。


「くはははは」


ネコの不幸を嘲笑うとは、タカシは悪魔だにゃ


冷蔵庫から出して常温近くなった秋刀魚を並べていく。


青い小さな鱗が、良く見ると体表にひしめき合っているのが分かる。


その得も言われぬ美しさをしばらくゴンザレスと眺める。


適宜ひっくり返して塩を振りかけたら皿に移す。


ポタポタとはらわたから溢れる脂が香ばしい。


「うむ」


ひとくち頬張るとジュワっと秋の味覚が口腔に広がる。


タカシだけずるいぞ


「ああ」


口を開けて待っていたゴンザレスにほぐした身を分けてあげた。


くはは、うまいにゃー


夕暮れの彼方に鈴虫が鳴いている。


誰かと食う飯はなんだかいつもよりも美味しく感じると、タカシは西の空を飛んでいく鳥たちを見て思う。


ーーーーー


それは突然の出来事だった。


「おい」


ベッドのそばで仰向けになったままゴンザレスは目を閉じている。


「おいって」


何度揺すっても、いつものようにちゅ~るをねだったりしない。


肌をさす冷え込みの朝だった。


動物病院に連れていくと、息はあるもののそう長くはないとのことだった。


タカシはアパートに戻って入院するゴンザレスのために玩具を準備していた。


転がるぬいぐるみが好きなゴンザレスは、ぬいぐるみの形がこわれるほど遊んでいた。


黄色のリボンがついた怪獣のぬいぐるみ。それを腕に抱いて立ち上がったとき目眩がした。


「うん?」


タカシはそのまま膝からくずおれた。


何が起きたのか判断がつく余裕もなく、タカシの視界は真っ暗になった。


ーーーーー


おい


おい


タカシ!


「んん?」


名前を呼ばれて目を覚ますと、背中がゴツゴツした感触に覆われていた。


サーっという爽やかな音が耳に心地よい。


首を傾げると垂直に昇る水の流れが見えた。

ゴツゴツした背中の石に当たって腰を痛めないようにしながら、タカシは横になっていた上体を起こす。


白いモヤが辺りを漂う。


「なんだ、ここ」


河原は灰色の石で満ちていた。

白い水は速すぎて逆に止まって見える不思議な流れ方をしていた。


おい


また声が聞こえた。タカシを起こしたあの声が。


おい!


キィキィと船の舟の櫓を漕ぐ気配と共に、川向うの霧の中から見覚えのある姿が認められた。


「ゴンザレス…」


頭に四角い布をつけているものの、それは間違いなくゴンザレスだった。


「ここでなにを」


タカシこそそこでボサッと突っ立ってないで、ほらこっちに来い!


ゴンザレスが狭苦しい舟の後方を譲ろうとしている。


タカシがボケーッと佇んでいると、ゴンザレスは慌て始める。


魔が来るにゃ!


とか


帰れなくなる!


とか


しきりに喚いている。


そのうちに川の勢いが増してきて、揺れる舟にゴンザレスがたじろぐ。


早くするニャ、手遅れになるぞ


「え?」


ふいにタカシの首筋にヒヤリとした感触がまとわりついた。


その気味の悪い感触は圧力を増してタカシの首をきつく締め上げようとしている。


ほら、言わんこっちゃない。しょうがないニャア


舟からひょうと飛び降りたゴンザレスがタカシの首の怪異に挑む。


ゴンザレスの勢いに圧された怪異が怯んだすきに、タカシは舟にしがみついた。


ヨシ、そのまま行くにゃ!


「イテッ」


ゴンザレスに蹴飛ばされてタカシは前のめりになりつつ舟に乗り込んだ。


タカシを乗せた舟は川の流れに従わずに真っ直ぐに進んでいく。


「ゴンザレス!」


振り返って向こう岸を見るころにはゴンザレスの影はなかった。


それから気を失ったタカシが覚えているのは、なぜか病院に自分が運ばれていて、近所の方の通報がなければ命はなかったということ。


そして黄色のリボンがついた怪獣のぬいぐるみにずっと「ゴンザレス」と語りかけうなされていたこと。


医師が驚くほどの回復力で退院した足でそのままゴンザレスを迎えに行ったが、獣医はそんなネコ知らないという。


タカシはパチンコを打ちながら表の通りを見つめる。

またいつかネコ法第何条だのと言って、ふらりとネコが現れやしないかと。

ネコの権化、略してネコ権

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ