ネクストステージ
何度生まれ変わったって変わらないものがあるってことだけは変わらないってわからない?
そう言われましても、わたしがいつからこんなにグズでノロマでサイテーなやつなんだって
責任の所在は前世の前世の前世の責任でした
めぐりめぐってそれはあなたのせいでしょう
と神に言われた。
ーー
洗面器に水がはられている。
そうだ、シャワーを浴びたんだ。
わたしは下着をつけて立ち上がる。
脱衣場で眠りこけるなんて珍しい。
ここがソファの上だったなら納得がいく。
「お味噌汁から飲みなさいよ」
姉が背中で語る。目は料理本を、手はお玉に向けられている。
「箸をしめらせるのよ」
無視して卵焼きを頬張る。甘い汁がほとばしる。
父が歯を磨いたあとにはどうして口をゆすいだ泡がかたまりとなって残っているのだろうか。
不潔だなと思うものの、そんな不潔な人間からわたしは生み出されたのだとも気づかされる。
「高野くん待っているわよ玄関でたところ」
「それは知ってる、通知きたから」
スマホを振ってみせ、姉の背中に話しかける。
白と黒の靴で悩んだ。
黒いスカートだから黒か。
いつも悩むわりに黒と決めている。決めているのはわたしなのかわたしの無意識に影響されたわたしなのか。
よう。
姉に高野のこと喋った記憶がない。
でも目の前にいるのは高野に違いない。
「なに?」
怪訝な顔で高野は顎をしゃくる。
「なにも」
わたしは車のキーをバッグから取り出しながらそっけない感じで笑う。
助手席に男を乗せるのは慣れているはずなのに、高野の吸うタバコが臭くて何度も窓を開けしめする。
冷たい空気が鼻腔に吸いついて離れない。
無音は嫌いだからと、高野はアプリのプレイリストを奏で始める。
アニメの曲と思しきアップテンポが車内に蔓延る。
「親と喧嘩した」
疑問とも独り言ともつかない微妙な響きが高野から漏れる。
うん?
わたしも賛同ともつかない相づちを打つ。
「犬のお巡りさんに見つかった話したじゃん」
いつの間にかアイピーエーの缶に口をつけて頬を赤く染めている。
「おい、飲むなよ」
高野はへらへらしてわたしの怒気を受け流す。
わたしは運転してんのに、こいつは酒かよ。
急カーブで思いきりアクセルを踏んでやると、隣の高野がビクッと腰を震わせた。
「このままトンネル越えたらさ、城が見えるよな」
鳥肌をたてた腕は生白い。高野、女みたいだな。
「城には売春婦がいてさ、親の敵討ちを狙ってるんだよ。ゼゲンってやつか?全然知らないんだけどさ。アグレッシブなのかパッシブなのか、それともパッシブアグレッシブなのか。ねえ、どう思うよ。フツーに冬のダウンジャケットがさ、半額だったら買ってくれってねだるよな。なんで買ってくれないんだろうな。お小遣いないわけだし、お年玉も使いきっただろうから。一輪車でも嬉しかったのは本当のこと。でも真実が正しいとは限らないよ」
そう言って缶を飲み干すと窓から投げ飛ばした。
フロントガラスに高野の投げた缶が当たった気がした。
今朝の味噌汁は、ナスとベーコンが浮かんでいた。
わざわざ姉はナスを炒めてから味噌汁に入れる。
料理本にそう書いてあるからといって、わざわざナスを買ってこなくても、キュウリやキャベツがあるのだが。
「キュウリはアスコルビナーゼが入っているから」
なんてそれっぽいこと言って聞かない。
どうせわたしの意見なんて誰も耳を傾けてくれないんだからさ。
そんな風に悲哀に満ちた幻想が破られると、わたしは肌が冷たさにやられている。
目を覚ますとまた脱衣場の床に寝転がっていた。
シャワーは止めたばかりのようにポタポタとしずくを垂らしている。
濡れたままのからだに下着をつける。
ひたひたとフローリングと足の表面がくっつく。
「お味噌汁飲んでみてよ」
姉が小皿にとった味噌汁を手渡ししてくる。
カールした長い茶髪が味噌汁に浮かんでいる。
わたしはそれを口に含む。
ざらりとしたケラチンの食感はどこか新しい国の空港土産のような懐かしさを覚えた。
あのさお姉ちゃん。
なに?
わたし結婚しようかな。
生まれ変わってもそう言うに決まってるから




