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紅百合の咲く森  作者: 琲音
帰郷
8/12

⑥冗談

_______


畳の上――

緊張と熱が重なる空間で、結芽は小さく震えるように声を漏らした。


「……もう」


はっきりとした拒絶ではなかった。

でも、そこには確かな“意志”がこもっていた。


それを聞いた瞬間、空気が変わる。


押し寄せていた2人の身体が、すっと離れていく。


「ごめん、ごめん。びっくりした?」


美幸が柔らかく笑いながら、結芽の顎から手を離す。

その仕草には、どこか小動物をあやすような甘さがあった。


「……ちょっと、冗談が過ぎたね」


和香もまた、結芽の背からそっと手を離し、座り直す。


「ごめん、嫌だったよね。無理に触ったわけじゃないから……怒らないで」


2人とも、声色は優しい。

目も細め、微笑をたたえている。


けれど、その“引き際の潔さ”が――

逆に、結芽の胸に妙なざらつきを残した。


(……あの目)


(まるで、まだ終わってないって――言ってるみたいな)


「だって、ゆめが、かわいすぎるのが悪いんだもん」


そう言いながら、美幸が冗談めかして肩をすくめた。


「ね、和香?」


「……うん。ほんとに、()()()()()()()()()()()()


静かに答えた和香の声は、どこか終わりの見えない執着を孕んでいた。


(……なに、この空気)


結芽は喉が渇くのを感じた。


「……そろそろ戻ろっか。みんな、心配するかも」


そう言って立ち上がろうとすると、和香がさっと手を差し出してきた。


「気をつけてね。足元、暗いから」


自然な動き。優しい言葉。

でも、その手を取ることが、どこか“契約”のようなものに思えて――

結芽は一瞬、ためらってから自分で立ち上がった。


2人は何も言わず、ただ穏やかにその様子を見つめていた。


その目は、まるで――

狩りの途中で一旦、遊びを止めただけの、獣のように。

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