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紅百合の咲く森  作者: 琲音
帰郷
7/12

⚫︎結芽の回想 : 思い出してしまった

_______

天ヶ女村の夜は、都会の夜とは違う。

静かで、暗くて、星が怖いほど近くに見える。

――その空の下で、彼女たちはいつも一緒にいた。



結芽は思い出していた。

大好きだった二人に迫られている今、あの頃の光景をなぞるように。


***

幼馴染の2人――和香と美幸は、小さい頃から結芽にとって特別だった。

同い年のはずなのに、和香は早熟でしっかりしていて、大人びていて。

美幸は柔らかくて、よく笑って、まるで姉のように世話を焼いて、構ってくれて。


___2人に囲まれると、まるで自分が大事な宝物になったみたいだった。


「ゆめちゃん、危ないから、こっちおいで」

私が川に落ちそうになってるとサッと手を引いてくれた和香。


「ゆめちゃんったら、もう、泣いてるじゃん。ほら、涙拭いてあげる。」

私が犬にほえられて、驚いて泣いてしまったとき、ハンカチでそっと涙を拭ってくれた美幸。


小さい頃は、それがただ嬉しくて、心地よくて。

…「守られている」という安心感に包まれていた。


けれど――


中学生、高校生のちょうど思春期に入る頃。

気づけば、二人は常に私のそばにいるようになっていた。

教室でも、廊下でも、通学路でも、2人は常に結芽の“隣”にいた。


「ねぇ、腕、組んで歩こ」


「えー? だって寒いもん、抱きついてもいいでしょ?」


「髪の毛、今日もいい匂い」


最初は女の子同士のただのじゃれ合い。

しかし、周りの同級生を見てみても、私たちの距離感はあまりにも近すぎるように感じていた。


私が周囲の男子に話しかけられると、2人のどちらかがすぐに割って入った。

誰かが好意を寄せていると分かれば、さりげなくけん制するように。


(あれ……なんか、違う)


そして_____高校2年の夏祭りの夜。


山の中腹、見晴らしのいい場所にある、私たちだけの“秘密基地”。

特別な時にだけ開かれるという祭具殿。

その軒下で、私たちはよく遊んでいた。


その夜、祭りの賑わいから抜け出して、3人だけで行ってみようと誘われた。


「ねぇ、覚えてる?ここ。小学校のとき、よくかくれんぼしたよね。」


「うん……懐かしい!ここに来るの久しぶりかも。」


懐かしさと同時に、胸の奥がざわついていた。

暗がりの中、かすかに見える2人の浴衣姿は――

あまりにも、艶やかで、美しかった。

ふたりとも、子どものころよりも背も伸び、胸も膨らんで、大人っぽく成長していた。

____それに比べて


(まだまだ子どもっぽいよなあ、私)


そんなことを考えていると

_________

____


「…ねえ、ゆめ」

「私たち、もう子どもじゃないんだし、さ……」


そう言って、美幸が肩を寄せた。


「……っ、え?」


次の瞬間、和香の手が背中に回る。

肩をなぞるように力が入り――


押し倒された。古い木板の上。


「きゃ……っ」


身体が押しつけられ、浴衣の胸元がずれる。


「いい身体……やっぱり、ゆめは可愛い」


「冗談、だよ。ね?」

問いかける結芽。

唇のすぐ近くに、美幸の囁きがあった。


けれど、その“冗談”には、笑いの余白が一切なかった。


「ゆめは、わたしたちの、だもんね」

「…ゆめ、本当に可愛くなったね」


そう言った2人の目が、狂おしいほど真剣だったことを、今でも忘れられない。


(――結局、ごめんね、冗談だよってあの後言われたけど……)


けど、どこかで、冗談で収まりきらない()()を感じた自分もいた。


(あのときから……二人のことが、少し怖くなった。)


思春期の曖昧な輪郭の中で、2人の“愛”は形を持たぬまま、確実に育っていた。


___私はその後、東京の大学に合格し、村を離れた。

スマホも入学前に買ってもらい、LINEやSNSは誰にも教えなかった。


***


そしていま――

その続きを、2人は“取り返しにきている”のだと、結芽は感じていた。


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