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紅百合の咲く森  作者: 琲音
帰郷
6/12

⑤正直に教えてね


_______


「……ねぇ、こっちの部屋、空いてるって」


結芽は二人に導かれるようにして、集会場の奥にある小さな和室へと入った。

障子が閉められ、外の喧騒が一気に遠のく。

畳の匂いと、静けさがやけに濃い。


「久しぶりだねぇ、こうやってちゃんと話すの。」

美幸が柔らかく笑い、座布団を勧める。

結芽も座り、当たり障りのない近況をぽつぽつと話す。

仕事のこと、東京での暮らし、通勤電車の混み具合……話題は他愛もないもので埋まっていく。


しかし、ふいに美幸が首を傾げ、唇の端を上げた。

「で――恋愛の方は?」


「え?」


「こんなに可愛くなったのに、何もないわけないでしょ?」


美幸はくすくすと笑い、和香も口元を緩める。

「東京なんて、出会いの宝庫じゃない。ねぇ、誰かいるんでしょ。」


結芽は視線を逸らし、苦笑いでかわす。

「……別に、そういうのは――」


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「はぐらかさないの。」

美幸がそっと身を乗り出し、指先で結芽の顎をクイと持ち上げる。

「ねぇ、私を見て答えて。」


至近距離に迫る艶やかな瞳。

背後からは和香の声が、耳朶すれすれに落ちてくる。

「正直に、ね?」


気づけば、和香の吐息が首筋にかかり、長い髪の先が頬をかすめる。

二人の距離は狭まり、結芽の周囲の空気がじわじわと熱を帯びていく。

正面からの視線と、背後からの囁き――逃げ場はない。


(……近い、近すぎる。)


目の奥が獣のように輝く二人。

その美しさは、恐ろしいほど魅力的で、同時に圧迫感を伴っていた。


「や、やめて……」

顔を赤くし、身を捩る結芽。


すると二人は、名残惜しそうに手を離し、同時に柔らかな笑みを浮かべた。


――まるで、獲物を逃がすのもまた遊びの一部だと言わんばかりに。



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