⑤正直に教えてね
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「……ねぇ、こっちの部屋、空いてるって」
結芽は二人に導かれるようにして、集会場の奥にある小さな和室へと入った。
障子が閉められ、外の喧騒が一気に遠のく。
畳の匂いと、静けさがやけに濃い。
「久しぶりだねぇ、こうやってちゃんと話すの。」
美幸が柔らかく笑い、座布団を勧める。
結芽も座り、当たり障りのない近況をぽつぽつと話す。
仕事のこと、東京での暮らし、通勤電車の混み具合……話題は他愛もないもので埋まっていく。
しかし、ふいに美幸が首を傾げ、唇の端を上げた。
「で――恋愛の方は?」
「え?」
「こんなに可愛くなったのに、何もないわけないでしょ?」
美幸はくすくすと笑い、和香も口元を緩める。
「東京なんて、出会いの宝庫じゃない。ねぇ、誰かいるんでしょ。」
結芽は視線を逸らし、苦笑いでかわす。
「……別に、そういうのは――」
なぜか遊梨のことを言ってはいけない気がした
「はぐらかさないの。」
美幸がそっと身を乗り出し、指先で結芽の顎をクイと持ち上げる。
「ねぇ、私を見て答えて。」
至近距離に迫る艶やかな瞳。
背後からは和香の声が、耳朶すれすれに落ちてくる。
「正直に、ね?」
気づけば、和香の吐息が首筋にかかり、長い髪の先が頬をかすめる。
二人の距離は狭まり、結芽の周囲の空気がじわじわと熱を帯びていく。
正面からの視線と、背後からの囁き――逃げ場はない。
(……近い、近すぎる。)
目の奥が獣のように輝く二人。
その美しさは、恐ろしいほど魅力的で、同時に圧迫感を伴っていた。
「や、やめて……」
顔を赤くし、身を捩る結芽。
すると二人は、名残惜しそうに手を離し、同時に柔らかな笑みを浮かべた。
――まるで、獲物を逃がすのもまた遊びの一部だと言わんばかりに。