最終話 岡部市長からの……
内線電話が鳴った。
「小泉、ちょっと来てくれ。川口も一緒にな」
摩耶が川口に声をかける。
「川口、加藤部長が来いって」
机の下で、サンダルから靴に履き替えて、部長席がある3階に行く。
後から川口もついてくる。
加藤は、二人の姿を見ると、椅子から立ち上がり、自分の机の前に立った。
「何かありました?」と、加藤のいつにない動作を怪しんで、摩耶が声をかけた。
「二人とも、ちょっとそこに立て。小泉、一歩前へ」と、自分の前に摩耶を立たせ、3階にいる社員全員に聞こえるように、皆さん、静粛に願います、と言った。
フロアがすぐに静まった。
摩耶と川口は、顔を見合わせ、いったい何が始まるんだと怪訝な表情をしている。
加藤は、自分の机の上に伏せて置いてあった紙を取り上げ、恭しく両手で持って読みだした。
「感謝状 株式会社アジア文化財サービス 小泉摩耶殿」
「貴殿は、当市石廊島の発掘調査事業において、精密かつ最新の技術を持って臨み、先般発生した地震を正確に予見し、それによる被害を最小に抑えることに多大な貢献をした。よってその功績に対し感謝の意を表する。令和元年10月19日 伊豆南市長 岡部三郎」
加藤は読み上げた後、それを摩耶に手渡した。
摩耶は作法通りにそれを一礼して受け取った。
「川口、一歩前へ」と、加藤が言った。
川口が加藤の前に直立する。
「感謝状 株式会社アジア文化財サービス 川口雄二殿 以下、同文」
と、言って川口に手渡した。
川口は感激して目を潤ませ、一礼して受け取った。
フロアにいる人々から大きな拍手が上がった。
ひとしきり拍手が続いた後、加藤が聞いた。
「どうだ、気分は?」
「う、うれしいです。家に持って帰って早く母に見せたいです」と、川口が感無量に言った。
摩耶は、無言で笑顔を見せる。
心の中では、やっぱりこいつはマザコンだったのかと納得した。
「今夜は俺のおごりだ。飲みに行くぞ。終業時間になったら、すぐに出られるようにな。以上だ」
珍しく摩耶と川口は、加藤に一礼して、その場を離れようとした。
「ああ、そうだ。忘れていた。小泉と川口。この冬からなんだが、石廊島で外周道路の拡幅に伴う発掘調査が実施されるそうだ。伊豆南市では、川口システムの試験運用を理由に、アジ文と随意契約をしたいと言って来ている。どうだ?」
加藤は、また摩耶から、えーっ、という抵抗がでてくると予想したが、二人は顔を見合わせてから、加藤に向かって笑顔でうなずいた。
……うむ。これで、今年度も順調に利益を伸ばせそうだ。
俺のACH入りも近いな、と加藤は思った。
――完
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