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第40話 川口の彼女2

「地割れを修復した溝以外には、第2面では地割れと重複関係にある遺構は今のところ検出されていません。調査自体は計画通り順調に進んでいます」


「なかなか地震痕跡と遺構が絡むなんていうのは、そうそうないのが普通だよ。これまでがよく検出できたって感じだよ。俺から言わせれば」


 と、電話で加藤は摩耶からの報告を聞いて言った。

 7月も後半を迎え、第2面の調査も佳境に入っている。


「ところで市役所の地震対策はどうなっている? 漆原さんは、まだ危機管理室と連絡を取っているんだろ?」


 加藤は、地震と選挙との関係を摩耶には言っていない。


「近頃は地震と関係する遺構がないので、あまり連絡はしていないようですよ。丸山さんが提案した重機で地面に穴を空けて津波堆積層を観察する作業も終わって、早くも島の南側には津波防止用のトン袋を置き始めています。迅速な対応ですね」


「9月に伊豆南市の市長選挙があるらしいが?」と、加藤がそれとなく聞く。


「そちらの方は特に何も聞いていませんけど?」と、摩耶。


 加藤が、わざとらしく咳を一つして話を変えた。


「ところで小泉。川口の彼女の件は、その後何か聞いているか?」


「特に聞いては、いませんけど?」


 摩耶は、電話の向こうの加藤がニヤけているのを感じた。


「何かあったんですか?」


「どーしよーかなー、教えよーかなー」と、加藤が焦らす。


「えー、何ですかー、教えてくださいよ」と、摩耶。


「小百合ちゃん、海鮮居酒屋を辞めちゃったみたいだぞ」と、加藤。


「えー、そうなんですか?」


「それで、何日か前に小百合ちゃんが、ホスト風の男と腕を組んで駅の北口を出て、西側に向かって歩いて行ったらしい。会社の人間が見たと言っていた」


 摩耶は、加藤が何を言いたいのかすぐに分かった。

 そのあたりはラブホテル街になっている。


「ということは、川口はフラれちゃったんですね。でもそんな様子には見えなかったな」と、摩耶。


「川口を良く見ておいてくれ。まあ暴発することはないだろうが、まだ若いから適当なケアを頼む」


 ……まったくまあ、都合のいいことを押し付けてくるんだから。


 と、思いつつ、


「やけ酒ぐらいなら、付き合ってやりますよ」と、摩耶。


「あはは。頼んだぞ」




 7月20日を過ぎると学校が夏休みに入るので、観光地はハイシーズンを迎える。

 石廊島は他の伊豆の地域と異なって、あまり観光業に力を入れていないが、それでも旅行者は多くなる。民宿などは稼ぎ時を迎える。

 観光客からは、地震の件はあまり心配されていないようであった。


「丸山さん、夏休みシーズンになって、民宿いろうも忙しくなるのではないですか?」と、摩耶が夕食の給仕している丸山に聞いた。


「ウチは夏場は、ほとんど常連さんで予約が満杯になるんですよね。常連はあまり手間がかからないんですよ。ご飯も朝晩用意しておけば好きな時に済ませますし、うるさいこともいいませんから」と、丸山。


「あたしたちは、本当はお邪魔じゃないんですか?」


「いや、常連はだいたいグループで来るので家族用の部屋で大丈夫です。小泉さんたちは一人用の個室ですから問題ありません」


 民宿いろうは、一人用の個室エリアと家族用エリアがある。

 このようなタイプの民宿は珍しい、と摩耶は思った。

 普通なら団体客優先で、個人客は歓迎されないだろう。


 目の前で我関(われかん)せずと、川口がもくもくと夕食を食べている。

 相変わらずの食べっぷりである。

 源さんは、食事を終えてすでに部屋に引き上げている。


「川口、そう言えば小百合ちゃんと連絡を取っているの?」と、摩耶がさりげなく聞く。


 川口は、口の横にご飯粒をつけて、


「ええ、取り合っていますよ。それが何か?」


 ……えっ、どういうこと? フラれたんじゃないの?


 と、摩耶が疑問に思ったが、表情には出さなかった。


「へえー、ラブラブなんだ。しばらく会ってないだろうから、小百合ちゃんも寂しいんじゃない?」


 と、摩耶は慎重に探りを入れる。


「そうなんですよ。早く会いたいなーっていつもメッセージアプリで言ってきますよ」


 摩耶をそれを聞いて、確信した。


 ……こいつ、やっぱり(だま)されている……


「いーわねー、うらやましーわー」


 と言いつつ、真相はいったいどうなっているのか、俄然興味が湧いてきた。

 もうあまり悠長に構えず、聞きたいことは聞こうと思い、日本酒でのどを湿してから、


「川口、彼女とはどこまで行ったのよ?」


「どこまでって?」


「するべきことはしたんでしょ?」


 するべきことって一体なんだ? と自分で言っておいて可笑しかった。


 川口が、箸を止めて下を向いている。


 ……なんだ。もしかしたら何もしていないのかな?


 摩耶は少しじれったくなって、誘い水をかける。


「手ぐらいは握ったんでしょ?」


 それでも何も言わない。摩耶が口を開こうした時、川口がボソッと言った。


「僕、結婚前にそういうのするのは嫌なんですよね」


 ……マジか。こいつ。男として絶滅危惧種じゃない? と言うことは何もしていないということか。それじゃ女の方は違和感持つかも……


 などと思っていると川口が、ごちそうさまでした、それではまた明日、おやすみなさい、と誰ともなく言って部屋に引き上げた。


 摩耶は、川口と小百合ちゃんがこの先どうなるのか、少し心配になった。


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