第38話 地割れに押し込まれた白色粘土と遺物
第2面の調査を開始してしばらく経ったころ、地割れと重複する1本の溝が見つかった。
この地割れは未知のものである。
溝の地割れの幅は5センチ程度で、掘っていた作業員の一人が摩耶に声をかけた。
「地割れの中に遺物があります」
摩耶が見てみると、地割れのところだけ土の色が白色で、その中に陶器の欠片が混じっている。
――何だろう? この白色の粘土のようなものは……
摩耶は、ハッとした。
これは地震の直後に溝を修復した痕なのでは?
そう考えると地割れに押し込まれたように見える白色の粘土は、現代で言うならば水漏れを防ぐためのパテのような応急措置だったのでは?
この考えが正しければ、白色粘土の中に入っている陶器によって地震発生時期を正確に特定できるかもしれない……
今日は、漆原・川口・丸山・源さんの4名は、島の北側に穴を掘りに行っていて不在である。
すぐにも川口に陶器の時期判定をさせたいと思ったが、彼らの作業を邪魔するのもマズいと思い、気は急くものの彼らの帰りを待つことにした。
夕方早めに4人は現場に戻ってきた。
トラックと重機は、さすがに民宿いろうには駐められないので、現場に置いている。
摩耶が、お疲れさま、と言って声をかける。
「島の北側の方は、どうでしたか?」
「3か所開けてみましたけど、津波堆積物は確認できませんでした。どうやら津波は南からの小規模なものじゃないか、と丸山さんと話をしていました。データは早目に危機管理室に送ります」と、漆原。
「我々の調査に基づいて、島の南側には早速、トン袋を設置するそうですよ。危機管理室からトン袋の発注数量を教えてくれって言ってきてるんですが、北側は必要は無さそうですね」と、丸山。
「最近、市長選の対立候補を中心とした市議会議員連中が、いろいろ危機管理室に難癖をつけて予算の使い道を監視しているようですから、できる限り節約して、きちんとした理由を用意しておく必要があります」と、漆原。
「地震対策の活動そのものを非難するわけにはいかないでしょうからね」と、丸山。
「ところで漆原さん、現場でちょっと興味あるものが出てきました。もしかしたらピンポイントで地震の時期を特定できるかもしれません」と、摩耶。
「そんなのが出てきたんですか? 見ましょう」と、漆原。
他のメンバーも一緒に例の溝の地割れのところへ行き、摩耶が説明する。
「これを見てください。地割れを白色粘土で補修していて、その中に陶器の破片が混じっています」
漆原が、白色粘土を手で触りながら、
「そうですね。溝の補修と考えていいでしょう。おそらく水路として使用していた途中で地震が発生して地割れができてしまったので、地震がおさまった後にすぐ補修したのでしょう。この補修の白色粘土の中に含まれている陶器は、地震とほぼ同時期のものである可能性が高いでしょうね」と、少し興奮気味に言った。
「川口、急いで図面を取って」と、摩耶。
「了解です」と、川口が応えて丸山と二人で測量の準備を始めた。源さんはビニール袋とラベル、それから洗浄用のバケツと手ぬぐいを用意した。
川口が、近くの基準点杭に自動追尾の光波測距機をセットし、丸山はタブレットを起ち上げる。
手際よく必要な図面を取り終わった後、摩耶は白色粘土を掘り、遺物を丹念に露出させる。
それを見ていた漆原が言う。
「割れてしまった陶器をゴミとして白色粘土と一緒に押し込んだみたいですね」
「確かにそのような感じがします」と、摩耶が手を動かしながら応える。
再度、出土状況の写真と図面を終了させたのち、遺物の取り上げにかかった。
ひとつひとつ番号をつけて丁寧に取り上げていく。
川口は、例によって、その中の比較的大きな椀の破片を選び、バケツで汚れを落として雑巾で丁寧に拭いた後、スマホのカメラで2角度から撮影して、ACHのサーバに送った。
数秒後に着信音がして結果が送られてきた。
スマホを見た川口は、ちょっと驚いたような顔をしている。
他のメンバーは川口の言葉を待っている。
「遺物の時期は……西暦1519.75年プラスマイナス0.04年です」と、川口。
「1519.75年の端数の意味は何ですか?」と、漆原が川口に聞いた。
「1年が12か月ですから、12×0.75となります」と、川口。
「えーと、そうすると……」と、漆原が考えていると、川口が暗算して即答した
「9です。つまり1519年9月ということです」
……100年周期の地震は、やはりその年の9月に発生している……
「プラスマイナスの0.04は?」と、再び漆原が聞く。
川口が再び即答する。
「約0.5月、つまり半月のことです」
――1519年9月プラスマイナス半月!
皆、その数値に驚いた。




