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第37話 GISと選挙と地震と

 危機管理室は、伊豆南市庁舎最上階フロアにある会議室を一時的に占有していた。

 急ごしらえで庁内ネットワークが引かれ、全庁型GISシステム対応パソコンがずらっと並べられた。


 全庁型GISシステムとは、自治体管内の基本地図の上に、道路・都市計画・河川・固定資産・上下水道・文化財などの各局所管のデータを載せて、統一的に管理する全庁横断システムのことである。

 カーナビを高機能化したものと思えばよい。


 危機管理室では、基本地図の上に地震に関するデータを大急ぎで入力し、各局から来ている職員は、地震のデータと自分のところのデータとを突き合わせ、防災計画をチェック・修正する作業を行っている。


 防災計画を立てる際、地震や高潮・津波がどの程度、どの範囲に及ぶのかが分からないと対策は漠然としたものになってしまうので、少しでも地震の規模や被害が予想できるデータがほしい。


 その一つに、航空機に搭載した合成開口レーダーによって地表面の微細な変化をキャッチしたデータがある。

 地震学研究所から提供されていて、基本地図の上にSAR干渉画像の縞模様によって地表の変化が一目でわかる。今は石廊島南部の変動が著しい。


 危機管理室は地震に関係することなら、どんな種類の情報でも重要視している。

 丸山が提案した重機による掘削・土層観察案は、室長によってただちに承認された。

 必要な予算は、危機管理室の地震対策費から充てるので、ただちに着手するよう、漆原に命じられた。




 7月も半ばを過ぎて、石廊島民の間では、こんな会話が現れて始めていた。


 ――最近、やっぱり小さい地震が多いよな。伝説の100年周期の地震、本当に来るのかな?

 ――岡部市長が、地震への対策を強力に押し進めているらしいぞ。

 ――岡部市長の例の暴言も、何やら本当は道路局長の怠慢が原因らしい。市長は強く注意しただけなのに、メディアが首をとったような大げさな見出しをつけただけなようだ。


 小さな地震が起こるたびに島民は不安となり、最近急ピッチで進められている市役所の地震対策に好感を持ち始め、その好感がさらに岡部市長の評価を変える方向に働いている。


 ――危機管理室の地震対策が、このごろ頻発してきた小さな地震によって、好感を市民に与えつつあるようだ。


 岡部は、一時期の絶望から徐々に立ち直りつつある。

 もしかしたら大きな地震が来なくとも選挙に勝てるくらいまで回復するかもしれない、などと思い始めている。


 一方、市長選の対立候補は、頻発している小さな地震のせいで、岡部市長の人気が徐々に回復しつつあることに、次第に焦りを覚えるようになってきている。


 9月に大地震が起こるというのは本当なのであろうか?

 文化振興課長が持ってくる発掘の情報は本人もきちんと理解しておらず、ただ現場の報告を自分に伝えているだけである。


 ……このままではマズい。何かの手を打たなければ。それにしても石廊島の発掘の件は相変わらず要領を得ない。やっぱり文化振興課長は使えないバカものだな。


 そう思いつつ道路局長に電話をして、下田のいつものクラブで会う約束をした。




 漆原が中心となって、石廊島内の数か所に重機で小規模な穴を掘って、土層観察を行っている。

 穴を掘る場所については漆原と丸山が選定し、前もって地主に協力を要請して許可を得ている。


 重機は、トラックに積み込める小さなバックホー(パワーシャベル)を新たにレンタルし、大型免許を持つ源さんがバックホーを乗せたトラックを運転する。

 助手席には川口が測量機器を持って一緒に移動する。


 目的地に着くと重機を下ろし、掘削し、断面観察をして、写真と図面を取り、また埋め戻す、という作業を繰り返している。

 しかし発掘現場の方の測量が回らなくなってしまうので、毎日はできない。


 それでも徐々に成果が出つつあった。

 漆原と丸山が土層を観察しながら話をしている。


「江戸時代以降は、耕作で撹乱されてしまってますから、それより下層しか観察できませんね」と、漆原。


「でも中世から下は良く残っています。このサンドイッチのような薄い層は津波の痕跡でしょう。でも意外に厚くないので、津波の規模はそれほど大きくはなかったと考えてよさそうですな」と、特徴的な層を指して丸山が言う。


「全般的にみて島の南側は津波は到達したものの、それほどの規模ではなかったと言えそうですね。トン袋を並べれば防げる程度かもしれません」と、漆原。


 トン袋とは、土木工事などで、一時的な土留めに使用される大きな土のう袋のことである。


「次は、島の北側を何か所か掘ってみましょう。そうすれば津波の程度や到達範囲がだいたい分かってくるでしょう」と、丸山。


「そうですね。そしてすぐにデータを危機管理室に送ってGISシステムに反映させます。危機管理室は対策を立てる根拠を少しでも早くほしいようですから」


 と言いつつ、漆原は本物の地震が来たら、自分の実家は大丈夫だろうかと少し不安に思っていた。


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