第36話 丸山の露頭調査計画
「そうか、その文化振興課長が、市長選の対立候補と繋がっているというのだな」
加藤が摩耶と電話で話している。
「対立候補も地震に関心を寄せているらしい、って漆原さんが言ってました」
……対立候補は、岡部市長の地震対策が、選挙に関係していると感づいている……
「明日から、第2面の調査だな。この面はいつの時代なんだ?」
「漆原さんの試掘では、戦国時代付近らしいですね」
「分かった。作業の方を頼む。地震の件は随時報告してくれ」と、加藤が言って電話が切れた。
現在、作業員たちは、第2面の精査作業を行っている。
摩耶は、作業を見つつ発見された遺構に白線マーキングをしていく。
また、調査面の上には点々と遺物があり、見てみると戦国時代が中心で室町時代ぐらいまでを含むと思われた。
100年周期の地震が、1519年、1419年に地割れを引き起こしていたなら、それを発見できる可能性がある。
とは言っても、毎度毎度、地震がこの場所に地割れをつくる保障はない。
とにかく注意して遺構を見つけるだけだと摩耶は思った。
すぐ近くで丸山が、摩耶の引いた遺構ラインを計測して、図面の作成作業をしている。
もう手慣れたもので川口からも太鼓判を押されて、ほとんど一人で作業を行うようになっている。
摩耶としては大助かりである。
「丸山さん、危機管理室の方への報告はすべて終わったのですか?」と、計測中の丸山に摩耶が聞く。
「ええ。必要な資料は送りました。でも宿題は残っているのですけどね」と、計測用タブレットから顔を上げて丸山が応える。
「宿題?」
「危機管理室が知りたいのは、これまで起こった地震によってどの程度の被害があったのか、と言うことなのです」
「被害の程度が分かるものなのですか? 史料は残っていないのですよね?」
「もちろん史料は残っていませんから、正確な被害実態は把握できません。危機管理室の方は、地震とは別に津波による被害が、どの程度だったかを知りたいようです。それによってどのような予防措置を講ずるかの参考にしたいようなのです」
「でも津波の被害をどのようにして知るのですか? そんな痕跡が残るものなのですか?」
丸山がニヤリとして、よくぞ聞いてくれましたという顔をした。
「分かるんですよ。露頭で」と、丸山が応えた。
「ああ、なるほど!」摩耶は、大きくうなずいた。
露頭とは、地層を観察できる崖や斜面を指す。
歴史地理学者たちは、露頭を観察して地層の成り立ちなどを研究するのである。
この場合、もし津波が島に及んでいれば、露頭の地層の中に津波堆積物が発見できるかもしれない。
実際、東日本大震災をきっかけに仙台湾周辺の地層を調べると、随所に津波堆積物が確認でき、津波の大きさや到達範囲が分かってきた。
「実はそれについて、小泉さんに相談したいことがあったのです。私はこれまで島の中はだいたいすべて歩き尽くして、地震の痕跡を調べてきたのですけど、やはり地上観察のみでの作業には限界があるのを痛感していました」
ここまで聞いて、摩耶は丸山の話がもう理解できた。
「丸山さん、重機で地面を掘って地層を観察したいのですね」
丸山は、我が意を得たりとうなずいた。
「その通りです。できれば島の何か所かに、重機で穴を掘って断面観察を行えば、津波の規模や到達範囲などが分かると思うのです」
「なるほど。いい考えだと思います」
「それを危機管理室に提案したいと思っているのですが、その作業に源さんと川口さんをお借りして、重機での掘削と計測、それと遺物が出て来た時の年代特定ができるといいかなと思ったのです。ですから危機管理室に提案する前に、小泉さんの許可を得ておかないと」
「お話は、よく分かりました。アジ文で協力できることはしたいと思いますが、あたしも上司に許可を得たいと思いますので、ちょっと待ってください」
摩耶はそう言って、スマホを取り出してその場で加藤部長に電話をかけた。
一通り説明をすると加藤がすぐに、できる協力は惜しむな、ただし使用する重機の費用と回送費のみは先方に支払ってもらえ、ということだった。
この旨を丸山に伝えると、そのように提案しますと応えた。
「いつから着手するつもりですかね?」と、摩耶。
「おそらくですが、危機管理室はできるだけ急いで対応してほしいと言うのではないでしょうか」
「とすると、今の現場と並行してということになりますね。まあでも1日1か所ぐらいで、数日に分けて行えば現場に支障が出ることはないでしょう」
「やっぱりご迷惑ですかね」
「いえ、部長から協力を惜しむな、との指示でしたので大丈夫ですよ」
「わかりました。ありがとうございます。早速、危機管理室に提案してみます」と、丸山は言った。




