第30話 石廊寺での五輪塔調査
6月第2週の週末土曜日。
天気は久しぶりに晴れた。
梅雨の合間の貴重な晴れであるものの、朝から蒸して暑い。昼頃には気温30度ぐらいになる予報である。
朝9時半、丸山・摩耶・中野・川口・源さんの5名が、民宿いろうを出て、石廊寺に歩いて向かう。
10分ほどで、石廊港近くの少し小高くなったところにある寺に着いた。
石廊寺は明治の初めころに火災で焼失し、その後再建されている。
一行は石廊寺の住職にあいさつする。
丸山から事前に墓石調査の話はしてあった。
「ご苦労様です。朝から暑いのに大変ですね。古い墓石は奥の方にありますから」と、住職。
「それじゃ早速始めさせてもらいますね」と、丸山。
一行は寺の裏に回った。
墓地は、寺の建物に近い方は整然と区画され、墓石も新しそうなものばかりであったが、寺から離れるとだんだん古い感じの墓石になってくる。
丸山はフィールドワークで何回も来ているので、墓の間をすいすいと歩いていく。
「あれです」と、丸山が指さした。
そこは寺の境界付近にあたり、丈の低い斜面があって、墓石がまとめて置かれている。
まるで、ちょっとした石垣のように、五輪塔の各部が乱雑に積み重ねられていて、本来の五輪塔の姿ではなくなってしまっている。
「あらー、片づけられちゃってますね」と、少しがっかりしたように摩耶が言った。
「中世ですので、造られてから何百年も経っていますから、地震で崩れたり、整地する時に移動されたりを繰り返されて、あそこの斜面に押し付けられるように、片づけられてしまったのでしょう」と、丸山が言った。
見たところ、板碑や庚申塔や道祖神もあるが、五輪塔が最も多い。
五輪塔は、いくつかの石の部品から成る石造物である。
地輪が土台の四角い石、水輪がその上の丸い石、火輪がその上の笠状の石、風輪がその上の半球形の石、空輪が宝珠形の石で一番上に置かれる。
この中で、最も形の変化が早いのが火輪である。
変化が早い方が年代を絞り込みやすい。
それにすべての石を調べるには大変なので、火輪を主なターゲットにすることにした。
丸山と中野が軍手をして、乱雑に積んである石から、火輪だけを脇にだしていく。
石垣状のところから火輪だけをピックアップしていくので、その上にある別の部位もいったんどかさねばならない。
暑くて蒸しているので二人とも汗だくである。
休み休みでないと、重いものを持つのでかなり腰に負担がくる。
摩耶と源さんは、ピックアップされた火輪を掃除してきれいにする。
コケの固まりや泥を落としておかないと、正確な年代判定ができないからである。
川口は、きれいになった火輪を次々にスマホで撮影してはサーバに送り、返ってきた結果をメモしている。
「丸山さん、中野さん、腰、大丈夫ですか? 代わりましょうか?」と、摩耶が声をかける。
いや、大丈夫、と二人とも返事をして作業しているが、何となく腰がふらついている。
合計100個近くを調べ終わったのは午後になってからだった。
「川口、どんな感じ?」と、摩耶。
想定が正しいとしたら、1219年、1319年、1419年、1519年付近に墓石の数が集中するはずである。
「五輪塔の場合は、陶磁器など比べてピンポイントで年代を特定するのは難しいですね。せいぜい25年単位ぐらいでしか追えません」と川口は言いつつ、集計結果を記したメモ帳をみんなに見せた。
1200年代第1四半期(1201-1225) 11
1200年代第2四半期(1226-1250) 1
1200年代第3四半期(1251-1275) 3
1200年代第4四半期(1276-1300) 1
1300年代第1四半期(1301-1325) 14
1300年代第2四半期(1326-1350) 6
1300年代第3四半期(1351-1375) 3
1300年代第4四半期(1376-1400) 8
1400年代第1四半期(1401-1425) 16
1400年代第2四半期(1426-1450) 2
1400年代第3四半期(1451-1475) 4
1400年代第4四半期(1476-1500) 3
1500年代第1四半期(1501-1525) 12
1500年代第2四半期(1526-1550) 3
1500年代第3四半期(1551-1575) 5
1500年代第4四半期(1576-1600) 2
みんなメモ帳を食い入るように見ている。
そして同じことを思っている。
どの世紀も第1四半期に死者が集中している。
間違いない。過去も100年ごとに地震が来ていたのだ。
島の言い伝えは、恐ろしいほど正確だったのだ。
それと……
……大地震が迫っている。しかも今年中に起こる可能性が極めて高い……
「驚きました。100年周期の地震の言い伝えが、これほど正確だったとは」と、丸山。心の中では経営している民宿への影響のことを思っていた。
「今日は休日ですが、伊豆南市の漆原さんに連絡しておきます」と、摩耶。市役所では具体的な地震対策が早急に求められるだろう。
「摩耶ちゃん、加藤には俺から話しておくよ。アジ文としても対応を考える必要があるだろうからな」と、中野。
これから極めて近い将来、大変なことが起こる。
ここにいる者すべて、その予感に震えていた。




