表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/50

第26話 地割れの下限時期

 翌日、摩耶は、現場の報告をしておこうと思って、加藤部長に電話を入れた。

 現場の起ち上げは一応順調であることを告げた後、例の地割れのことについて話をした。


「面白いな。その地割れが1719年に起こった可能性があるのだな。そして記録に残る1819年と1919年には、すでに地震が起きたことが判っている。すると100年後の2019年、つまり今年、大きな地震がくるというわけか」


「一応そうなのですが、川口が特定した遺物の時期1717年プラマイ1年という数字は、地割れの上限時期にしか過ぎません。これをもって確実に1719年とは言えません。1730年かもしれないし、1750年かもしれない。土坑を引き裂いているだけで下限時期はわからないのです」と、摩耶は慎重に応えた。


「ふーむ。確かにそれだけでは何とも言えないな。だが小泉、これから地震に関して分かったことは、俺にリアルタイムに教えてくれ。それから話があまり大きく広がらないように注意してくれ。こういう情報が広がるとすぐに騒ぎ出す輩がいるからな」


 承知しました、という小泉の応答を聞いて電話を切った加藤は、椅子にもたれかかって、ちょっと考え込んだ。


 川口システムは、元々P大の三枝教授の下で進めてきたもので、信頼性については問題ない。

 それと発掘調査に関しては、小泉は慎重に判断するタイプだから事実誤認をする可能性は低い。

 地震に対する小泉の考え方は正しいだろう。


 小泉は、歴史地理に詳しい世話人の丸山氏と週末、中世の墓石を調査に行くという。

 今後の発掘調査の結果と合わせて、地震のサイクルがどのように判明するか興味深い。


 仮に、地震が一定サイクルで起きるとの裏付けが取れないのであれば、それはそれでよい。


 問題は、地震のサイクルが正確であるとしたら……それを示唆する根拠が集まったとしたら……どうすべきか?


 それが現在の建設計画にどう影響するだろうか?

 もしアジ建がこのことを知ったら計画通りに進めようとするだろうか?


 これをいったい誰に報告すればよい?

 それとも黙っているか?

 仕事として発掘調査を終わらせば、アジ文としての責任は果たされる。

それでよいとするのか?


 加藤は、いざという時どうするかは考えておかねばならないが、今は小泉の追加報告を待とうと思った。




 摩耶は、今の第1調査面上で拾える遺物は、ほぼ江戸時代の全時期を含んでいることに気が付いていた。


 このことから今の調査面で、1819年・1719年・1619年の地震に伴う地割れが検出できる可能性があると考えられる。

 それ以前の地震は、第2面より下になるはずだ。


 とは言っても、すべての地震が地割れを引き起こすわけでもないだろう。


 地割れと遺構が重なり合っていて、その遺構から遺物が出土してくれなければ、地割れの時期は特定できない。

 ただの地割れだけでは時期はわからない。とにかく地割れと重複(ちょうふく)している遺構には十分に気をつける必要がある、と思った。



「小泉さん、ちょっといいですか?」と、丸山が声をかける。


 摩耶が行ってみると、丸山が調査面の1か所を指さしている。

 そこには小さな土坑があり、摩耶はすぐに丸山が何を言いたいのかわかった。


 この土坑は地割れと重複している。

 しかも地割れが土坑を引き裂いているのではなく、逆に土坑が地割れを壊して造っている。

 つまり、地割れより新しい時期のものであることが分かる。


 しかもこの地割れの延長線上には、地割れに引き裂かれた土坑が存在しているのである。

 この土坑から遺物が出土すれば、地割れの下限時期を特定できるかもしれない。


「小泉さん、これ、掘ってもいいですか?」


「お願いします。地割れと直交方向に半分掘りましょう」


 しばらくして、丸山がまた声をかけてきた。行ってみると遺物の一部が見えている。


「川口、ちょっと」と、摩耶が呼ぶ。他の遺構の図面を取っていたが、すぐにやって来た。


「なんすか?」


「これ見て」


「おっ、地割れを切っている土坑じゃないすか。しかも遺物が出ている。摩耶先輩、うまくすれば地割れの下限時期がわかりますね」


「そういうこと。ちょっとこっちの方を優先でやるわよ」


「了解です」と、川口は測量中の図面を一旦途中で終わらせ、水を張ったバケツとカメラバッグを持って来る。


 なかなか気が利くじゃない、と摩耶は内心思いつつ、丸山の土坑のセクション分層と記帳をし、写真撮影を手早く行い、川口に図面をすぐ取らせ、丸山に完掘させた。


 遺物は、瀬戸美濃の徳利(とっくり)の破片のようだ。

 必要な写真と図面を終わらせたのち、摩耶は慎重に取り上げ、バケツの水で洗って、それを川口に手渡した。


 川口が、スマホで撮影を行い、サーバに送信する。

 そして電子音がして返信が来た。


「瀬戸美濃。徳利。時期は……」


「時期は?」


「1721年プラスマイナス1年」


 摩耶、川口、丸山の3人が顔を見合わせる。


 すでに分かっている上限時期は、1717年。


 今、分かった下限時期は、1721年。


 おそらく間違いない。

 1719年に地震が起こったのだ。


 やはり、100年間隔で発生していた……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ