第22話 第1面の調査開始
翌日の午前8時半の発掘調査現場。
20名の発掘作業員は、続々と集まり始めた。
車で来る者、バイクや自転車で来る者などさまざまで、男性10名、女性10名である。
大半が60歳を過ぎた農家の者たちで、全員丸山と知り合いである。
摩耶が島に来た後、丸山に頼んで数人ずつ民宿いろうに来てもらって、面接と雇用契約をスムーズに進めることができた。
今日は、作業員の初日なので、伊豆南市の漆原から挨拶があった。
まずは事務所内の椅子に座ってもらい、事故やけがの無いよう仲良くやりましょうという内容である。
その後、摩耶がアジ文のメンバーを紹介し、作業場の注意点を説明する。
発掘調査の場合、作業員に口頭で説明することはそれほど多くない。
主に、安全上の注意が主となる。
具体的な作業については、現場に出て実際自分で掘って、経験を重ねるしか本当に理解するすべはないのだ。
摩耶は、15分ほどで説明を切り上げて、20名の作業員を現場に出し、まずは調査面の精査から開始する。
ジョレンと呼ばれる半円形の鍬で地面を切るようにして平らにし、土の違いを確認する作業である。
地面を掘り下げて、調査面を平らに整えると、そこが遺跡の場合、四角い住居址や細長い溝や楕円形の土坑などの土色が違うところが出てくる。
昔の人が住居や溝をつくる際には、当然、地面を掘り込んでそれらを造る。
そして住居や溝はいつしか使われなくなると、風などによって土が次第に溜まっていく。
現在でも庭に掘ったゴミ穴はしばらく放っておくと、かなり埋まってしまうことがよくある。
これと同じ原理で、廃絶された遺構は外部から土が運ばれて自然と埋まってしまう。
もちろん意図的に埋める場合もある。
墓などはそうであろう。
この埋まった土と元からの地山の土とは、色も質感も異なる。
だから当時の地表面付近をきれいに均せば、埋まった遺構を発見できることとなる。
これを発掘していくわけである。
考古学的な呼び名として、遺構を埋めている土のことを覆土とか埋土と言っている。
関東地方では、前者が一般的である。
摩耶は、最初、ジョレンの使い方を作業員に教え、その動作をしばらく見て、ひとりひとりにアドバイスする。
作業員は農家の人ばかりなので、もともと鍬の使い方などには慣れているから、すぐにコツをのみこんだようで、作業はスムーズに進む。
「小泉さん」
と、丸山が呼び、たった今、レンタル屋から連絡あったことを告げる。
「川口、ちょっと作業みてて」
と言って、摩耶が丸山のところへ行く。
「小泉さん、レンタル屋が、いま貸しているバックホーですけど、そちらの発掘現場に置いてもらって構わない。動かした時だけ料金はいただきますから、と言ってきてるのですがどうします?」
昨日、表土除去が終わったので本日返却し、また第2面まで下げる時に再度搬入することにしている。
重機レンタルは、借りているだけで料金が発生するが、使わなければ請求しないと言う。
「こちらにとってはありがたいお話ですけど、何かあったのですか?」と、摩耶。
発掘現場に重機を置いておければ、ちょっと土をはねたりするのに便利である。
それができないのは毎日高い料金がかかるからである。
「レンタル屋が言うには、貸したくないところがあって、今は貸し出しているからという理由で断ったので、今戻してもらうとちょっと困るから、と言ってました」と、丸谷。
「ありがたいお話ですけど、丸山さんのお話がよくわからないのですが? レンタルが商売なのに貸したくないって、どういうことなんでしょう?」と、摩耶。
「レンタル屋が言うには、嫌な客がいるんだそうですよ。アジア建設サービスって言ってましたけど、ひょっとして小泉さんのところの系列会社ですか? そこの現場代理人がなんだか強引なんですって。借りてやるからまけろって頭ごなしに言ってくるので、貸出中ですって断っちゃったんだそうですよ」と、丸山。
摩耶は先日、現場で漆原と打ち合わせをした時に、早く現場を終わらせろと横柄に言っていた男を思い出した。
確か、村本とか言ってたな……
「こんな島ですから、レンタル屋の品ぞろえは農業用や漁業用が多いんですよ。建設の現場で使うから貸せと言われても品物が少ないし、一見の客に見下される筋合いはないって怒ってましたよ」と、丸山。
「いいじゃないか、摩耶ちゃん。それなら借りておこうよ」と、いつの間にやら、となりに来ていた源さんが言った。
「そうね。あった方が便利ですものね。それじゃ、丸山さん、お言葉に甘えてそのようにさせてください」と、摩耶。
「じゃあ、レンタル屋には、そのように伝えておきます」と、丸山。
「ぼちぼち、ジョレン作業がひと段落しますが、どうしますか?」と、川口から摩耶に声がかかった。
……よし、いよいよ遺構を掘り始めるか。
摩耶は、作業員の方に歩いて行った。




