第16話 石廊島の地震と怖い言い伝え
……断層の痕跡って、先日、中野さんと電話で話した時に言ってたヤツ? あの時は確か、50センチぐらいの断層があって、縄文時代の円形住居を切断していたって話だったけど、あれと同じなのかな? でもそんな段差は、ありそうもないけど?
と、摩耶は思った。
そして、丸山に言った。
「私には、地震の断層があるように見えないんですけど?」
「断層の上に土が乗っているので、分かりにくくなっているのですよ」
「そうなんですか。段差はそんなにあるようには見えないですけど」
摩耶の頭には、中野が言った50センチのイメージがある。
「段差はせいぜい数センチから10センチ程度でしょう。しかしそれでもすごい地震を引き起こしているはずです。そしてそれが1本だけでなく、数本はあると思います」
そう言って、丸谷は現場で、断層の痕跡らしき場所のところに摩耶を連れて行き、そのあたりを指さした。
摩耶は、その場所をよく見たが、少し段に近いゆるい傾斜があるのが分かる程度で半信半疑であった。
だが、東日本大震災の時の動画で、地面に割れ目ができて、激しくスライドする場面があったことを思い出し、確かに段差がなくともすごい揺れが起こることは理解できた。
「とりあえず、重機での表土除去作業の時に、段差に注意するよう、源さんに言っておきます」
と、摩耶は丸山に言った。
アジ文専属のバックホーオペレータの幸田源三の技術は神業に近い。
あのバカでかいアームとバケットで、ミリ単位の厚さで土を剥がしていける。
「それが、いいでしょう」
「丸山さんは、地震を調べていらっしゃるのですか?」
「そうなんです。ちょっと、説明しますとね。私はこの石廊島には、伊豆半島側とは異なる独自の震源域があって、定期的に地震を起こしているのではないかと思っているのです」
「独自の震源域?」
「はい。1974年に起こった伊豆半島沖地震はマグニチュード7クラスで、半島側の南伊豆町は、断層が出現して家屋が倒壊し、多くの方が亡くなったのです。私の親戚も被害を受けました」
摩耶は、自分が産まれる前の出来事だが、何かで読んだことがあったような気がした。
考古学の方でも、地震考古学という分野がある。
「その時の地震では、津波の被害はあまりなかったのです。主に断層の出現によるがけ崩れが発生し、建物を押しつぶしてしまう被害が中心でした。しかし、この石廊島の方では、揺れは激しかったものの、ほとんど被害がなかったのです」
「ちょっと不思議ですね。すぐ隣の南伊豆町で、すごい被害が出たのに、島の方ではそれがなかったということが」
「ええ、そうなんです。当時私は中学生でしたが、これに強く興味を持ちました。それで大学の専攻も歴史地理学を選んで、地震のことをもっと詳しく知りたいと思ったのです」
「それで、断層の痕跡などに、お詳しいわけですね」
「小泉さん、この島には、ちょっと怖い伝説があるのですよ」
「怖い伝説?」
「私も、祖父から聞いた話なんですが、この島では、ちょうど100年ごとに大きな地震が来るという言い伝えがあるのです」
「それは、記録上では明らかなのですか?」
「一部、明らかになっていますが、すべてではありません。また、いつからそれが始まったのかも、今のところわかりません。少なくとも古代以前に遡ると私は、考えているのですが」
「丸山さん、先ほど、半島側と石廊島側とは、地震のサイクルが違っているとおっしゃってましたね。それでしたら、逆に島側の方の被害は大きいのに、半島側では被害が小さいということがあったのですか?」
「あったと思っています。言い伝えの100年周期と半島側の地震の周期が一致しないのです。もちろんお互い何らかの影響を受けているとは思いますが、片方が甚大な被害を受けても、もう片方は軽微で済んでいる。そのため、石廊島側の被害が半島に伝わらないので、記録にも残りにくかったようなのです」
「なるほど。それで丸山さんは、今回の発掘で、何らかの地震の痕跡や100年周期の言い伝えを明らかにできる可能性を期待しているのですね」
「そうなのです。考古学の分野の一つに、地震考古学があることを承知しています。そして遺跡に地震が及ぼした影響を、考古学的な手法を用いて、その時期や被害の程度を明らかにできるということを、私は何冊か関係する本を読んで知りました。ですので、今回の発掘に参加したいと思ったのです」
「発掘調査を進めて行けば、それが分かっていくかもしれません。私もいろいろ教えていただきたいと思います」
「話が長くなって、すみませんでした。さあ、宿に戻りましょうか」
二人は、車に乗り込んで、宿に帰った。




