猟奇
小説を書く傍ら配信者をしていると、無意味に知名度ばかり上がって、SNSで色々なDMを受け取る事がある
僕は基本的には「DMは仕事の依頼のみ」とプロフィールに書いているのだが、総ての者が従う訳では無い
それにしても、今回のメッセージは興味深かった
DMには「ぼくの話を小説として発表して下さい」と書かれていた
そこから先は病的な物語が綴られている
端的に要約すると、「不死の存在になってしまった弟を家に監禁していて、毎日それを切り刻んで暮らしている」という内容の話だ
題材として少し面白さを感じたが、それをプロットとして使用して、後から「盗作だ」と騒がれたくは無い
ネットの世界には異常な存在が幾らでも居る
まして、こんな文面を送る者は普通でない可能性も多分に予想された
アイデアとして少々の名残惜しさは有ったが、僕はそのDMをわざわざ削除した
実のところ、それは興味が湧いていたからだ
「簡単に相手にアクセス出来てしまうリンク」が手元に有ると、きっと僕はふとした瞬間に彼について調べてしまう
自分の好奇心について熟知しているからこそ、DMは消す他無かった
後日
DMの一覧の中に「信じていませんね」という文字が視えて、眼を引いた
中身を視る間でも無い
先日の彼だ
アイコンも見覚えのある物だった
心を落ち着かせるために煙草を吸ってくるかと思ったが、中身を視ないまま別の事を出来る気がしなかった
実のところ、僕は本当は彼と話したくて仕方が無かった
恐らく、話せば幾つでも小説のアイデアになる話が出て来る
ただ、それと並行して「やばそうな奴と関わりたくない」という気持ちも有った
残念な事にDMを開いた結果、その気持ちは更に強くなった
DMの「信じていませんね?」の後には画像が貼られていた
民家の食卓と思しき場所の写真で、ありふれたテーブルが写されている
その上に、血に濡れた眼球が無造作に置かれていた
僕はDMを開いたまま、腕組みをして瞼を下ろした
──これは、人間のものだろうか?
しかし、動物のものであると仮定しても異常だ
眼を開ける
その瞬間、次のDMが届いた
「今度、実物も贈りますね」
実際に後日、ポストに人間の指の様なものが入った封筒が投函されていた
本当は通報でもするべきなのかも知れなかったが、僕はしなかった
「この次は何が起こるのだろう」という好奇心が理性を押さえ付けていた
いずれにしても、通報しなかったため、それが本当に人間の指なのかは今でも解っていない
にも関わらず、僕は公開収録での配信の予定を組んでしまった
元々僕は顔出しをしていたし、幼い頃に躰が弱くて病院で暮らしていた時、ラジオだけが娯楽だった事が何年もあった
ラジオへの憧れが強かったからこそ、個人的に配信者としての最大のイベントは公開収録だと感じていた
あの後もDMは異常性を増していて、今では解剖された人躰の写真が届く事も珍しくなかった
考えたくない事だけど、写真の背景は総て同じ場所と思しき民家だった
多分それが、彼の家なんだと思う
予想してはいたけど、彼からも「公開収録、楽しみですね」とメッセージが来ていた
事ここに至っても、僕は通報はしていなかった
長く通報せずにいたせいで、精神的にも「それで普通だよね」という気持ちになっていた
一回そう思うと、次々と「やらない理由」が心の中から溢れ出してきた
その頃は結構忙しかったからかも知れない
収録の日が来た
場所は地域のサブカルチャーイベントの片隅に作られた、大きくないブースだ
客席は20くらいで…つまり、「彼」が来ていれば、眼と鼻の先の距離だった
恐怖は大きかったが、心の何処かに「彼と仲良くなりたい自分」が居る事も解っていた
本番が始まるまで、頭の中では彼が現れた場合のリハーサルだけが繰り返されていた
収録開始数分前になり、客席が埋まっていく
彼は、すぐに見付かった
中央最前列にワイシャツ姿の、人形の様に白い少年が座っている
その首からは、手芸用の革紐で心臓の様な物が下げられていた
周囲にはそれを気にする者は居ない
サブカルイベントには突飛な服装の人間は少なくない
まして、僕のようなホラー小説書きのファンには、変わった服装の人間など幾らでも居て当然だった
───気にしても仕方ないか
時間が来る
収録が始まる
客席の「彼」と眼が合う
首から下げられた心臓が、血を滲ませながらどくどくと脈打つのが視えた




