表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

霞んだ名前

作者: 池上さゆり

こちらは初めて書いた三題噺です。


お題は「新型」「二者択一」「証拠」です。

それは教授である男の手に握られていた。世界人口を激減させてしまうであろう、新型ウイルス。治療法は既に確立してある。世界中への感染が確認された後、この論文を発表すればどれほどの注目が集まるだろうか。どこかでクラスターを発生させ、そこから世界各地に拡散する。自分が犯人だという証拠などどこにも残させやしない。確固たる自信のなか男は微笑む。

これは名誉に目が眩んだ男の物語である。


 大学卒業という肩書を手に入れるためだけに、授業を受けているくだらない学生。指導が緩いと言われているゼミに集まる馬鹿共。今日も中身のない卒業論文を提出してくる学生。中身が薄い、研究が足りていない、情報が少ない、情報元が書かれていない。指摘すると不細工を全面に出した表情で背中を見せていく。それが通常だった。

 学生たちが帰ったのを見計らって、教授室の奥に隠したもう一つの部屋に入る。新型ウイルスが凍結された試験管を覗き込んだ。

「これで世界を壊して俺は研究者としての地位を確立させる」

 口の端が吊り上がった。一年以内にこの世界は恐怖のどん底へ陥るだろう。気持ちが高揚していた。


 半年後、そのウイルスはアジアで流行していた。だが、一つ不測の事態が起きた。男の家族も感染者となったことだ。すぐさま隔離されたが、治療法が成立していないため既存の治療法を活用していくしかなかった。ここで男はある選択を迫られていた。今すぐ研究を公表し、家族を助けるか、それとも世界中にウイルスが拡大し、より注目を集められる時になるまで待つかのどちらかだった。悩む間はなく、二者択一だった。


 三年後、世界中で流行したそのウイルスは自分が発表した研究をもとに治療薬も作られ、感染者数はみるみる減っていった。家族を代償にして得た名誉は大きかった。だが、その後大きな成果を出せなかった男はときの人となり、あっという間にその名前は世界から忘れ去られた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ