5.そうして、私の生活も変化する
大体、文庫本のサイズで50~60Pほどの文量になると思います。
一週間で3000~4000文字前後で毎週金曜日に更新する予定となります。
※次回作も合わせて準備中のため多少1-2日ほどずれる可能性があります。
しばし、お付き合いいただければ幸いです。
佐藤の家を訪問した後、帰宅しなんとなしにTVの電源をつけた。
佐藤のことをこれ以上、あれこれと考えるようなことがないよう、静かな状況を嫌ってのことであって、目当ての番組があったというわけでもない。ニュース番組が映り、先ほどまでトピックとして詳細を伝えていただろう、テロップには『違法薬物検挙率が増大』との文字を一瞬目にとらえて、次の話題に変わっていった。
そこで飛び込んで来たのが、『米国、二都市、pixel"i"プライス系サービスを利用した、罰則金開始』という内容だった。
ニュースの内容は少し多めの時間を割きながら報じられたが簡潔にまとめるとこういうことだ。
米国の二つの都市における試験的な罰金制度の導入は、SNS上での激しい議論と公論の結果、政策に反映されたものである。この画期的な制度は、pixel"i"プライス系サービスに基づき、個人の社会福祉や公共サービスにおける幸福感や満足度を金銭価値に換算し、それを罰金の基準とするものとのことだ。
この提案は、当初テクノロジー愛好家や未来派の間で議論されていた。彼らは、現在の一律の罰金制度が、社会的・経済的・文化的背景が異なる人々に対して公平でないと主張していた。高所得者にとっては罰金が軽微な影響しかない一方で、低所得者にとっては生活に大きな影響を及ぼす可能性がある。
さらに、違反の状況にもより、例えば同じ速度違反であっても、配送業者がやむを得ずやるのと、個人の暴走行為ではその背後にある事情は大きく異なる。このような個々の状況を詳細に検討するには、事務作業が膨大になるため、これまでは対応が難しかったのである。
そこで、pixel"i"プライス系サービスの提案がなされた。このサービスは、個々の事情を考慮しつつ、多少の不正確さはあったにしても一定の精度で罰金を定めることができるため、スケールメリットが期待される。
この制度により、罰金は個人の社会に対する幸福感や満足度、経済的状況に基づいてより適切に決定されるようになる。これにより、社会システムに対する不満が軽減されることが期待された。また行政にとってはこれらを発展させれば収集された満足度のデータが今後の事業で何を優先にすべきかの検討材料になるという考え方ができるとのことだ。
この革新的なアプローチは、社会的公平性を重んじる動きとして、特に若い世代からの大きな支持を得た。SNSを通じて、この制度がもたらすポジティブな変化に対する期待が支援者からの声となったのだ。人々は、自分の社会的・経済的立場に応じて、より公平な罰金が課されることを望んでいたと言える。
精度の問題や個人のプライバシーに対する懸念から制度には批判も存在するものの、若者や未来派の意思は強く、システムの改善に取り組む動きは円滑に働いたとのことだった。
それぞれの市長は報道陣のインタビューにてどちらも似たような感想を述べ、「批判には誠実に耳を傾け、市民との対話を重視し、システムの透明性と信頼性を高める努力を続けることを約束する」とのことだ。
「なるほどな…」
帰りがけに近所のスーパーで買った半額弁当を電子レンジで温めながら、そうつぶやいた。この小さな日常の一コマも、時代の変化の中で生まれたものだ。自分たちの生活が、いつの間にか新しい技術や制度によって豊かにされていることを実感する。
こういう小さい変化が、やがて大きな変化へとつながっていくことは、思い返してみればインターネットの普及やスマートフォンの普及でも私自身が何度か経験したものだった。
罰金制度も初めは抵抗感はあるかもしれないが、徐々に社会に受け入れられ、生活の一部となっていくのかもしれない。変化の中でそうやって今日も含めて日々は終わっていくものだ。
5月以降、佐藤が抜けた仕事の穴を埋める人材は見つからず、派遣会社にも即戦力となる募集をかけてはいるが当面は自分で仕事を回すしかない状況になった。自身の仕事量が激増し、日々の業務に追われる毎日を否応なしに覚悟することにした。
長時間労働は常態化し、プライベートな時間はほとんど取れず、ストレスが溜まる一方であった。佐藤がいた時はうっすらとしか気づかなかったが、彼の存在がいかに大きかったか、今更ながら痛感していた。
慌ただしく時間だけが溶けるなかでお昼に見るTVのニュースだけで季節や時間を移り変わりを感じていた。
米国ではあれから罰金制度がほかの州、都市にも導入されはじめただの、日本でもポジティブにとらえる意見が多くなって財政状況が芳しくない地方自治体がまずは導入検討を政府に打診しているとの話が、夏頃にはされはじめていた。社会の流れは速く、新しい制度がどのような影響を社会に及ぼすのか日本の社会でも興味深く注目していた。
暦の上では秋が近づいてきたころ、ようやく佐藤の後任として新たな人材が見つかった。彼女は若いが、意欲的で学ぶ姿勢が素晴らしかった。彼女の加入により、少しずつだが私の業務の負担が軽減し、チーム内の雰囲気も明るくなってきている。
徐々に自分の時間を取り戻しつつある、自身の生活を過ごしながら、朝のニュースではどっかの麻薬カルテルがここ数か月で勢力が増してるなど軽く触れた後、pixel"i"プライス系サービスを利用した政治的な動きが報じられたりするのは変わらずで、サンドウィッチとお気に入りマンデリンのコーヒーを口に入れ今日も今日とて会社へと向かう。
ここ数か月の間で、私とは別の部署ではpixel"i"プライス系サービスを自治体や企業にシステム導入するための新しいチームが立ち上がっている。似たようなシステム会社ではやはり似たような組織を新たに新設し、多くのITエンジニアが次の飯のタネにしようとせっせと種をまき花を咲かせようとしているのが業界内では流行っていた。
そんな折りクライアントの『擬音』はITシステムの導入に関してもpixel"i"プライス系サービスによる適正価格を求めてきたのである。
それは事前連絡もなしに急遽会議中に先方から告げられたものだった。
私はその日プレゼン資料の説明を一通り終え、質疑応答の時間へと移った。その内容を告げてきたのはこれまで会議に姿を見せたことはない人物で営業企画本部とシステム本部の部長代理というそれぞれ似たような肩書きを会議冒頭の挨拶の場で名乗っていた。
質問という体をなぞらえた、要望を訴えてきたのは営業企画本部の有本と名乗る人物だ。
「営業企画本部の有本です。プレゼン資料の説明、ありがとうございます。直接的な質問で失礼しますが、pixel"i"プライス系サービスをレジシステムやネットスーパー等でこれから利用導入を検討していただくことは可能でしょうか」
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