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4.世界の構造が変わる日

 大体、文庫本のサイズで50~60Pほどの文量になると思います。

 一週間で3000~4000文字前後で毎週金曜日に随時更新する予定となります。

 しばし、お付き合いいただければ幸いです。


 ※先週は引っ越しやら、今週もごたごたしてたので少しばかり更新が遅れてしまいました。

  来週以降は正常に更新されます。

 後輩の佐藤の自宅は、外観から見ると新しい造りのアパートだった。白を基調としたまだくすみのない壁に、シンプルながらも洗練されたデザインのバルコニーが印象的で、都会的な雰囲気を醸し出していた。


 彼の部屋は、そのアパートの中でも特に日当たりがよく、明るい印象を受ける。以前、会社のプロジェクト成功を祝ってた飲み会の後、酔い潰れた彼を送り届けたことがある。


 あの晩、次第に盛り上がった気分で複数の店をはしごした。終電を逃し、佐藤が足元もおぼつかないほどに酔っ払ってしまったため、私が彼をタクシーに乗せてこの新しいアパートまで送り届けたのだ。


 その夜、彼の部屋のドアを開けた時、彼の生活感がほとんどない、まるでモデルルームのように整った室内だったことを記憶している。


 そして今、復帰が難しい状況を心配になって訪れた。インターホンのボタンを押すと、すぐに彼の声がドアホン越しに聞こえてきた。


 「はい」という返事の後、突然の「あっ…」という声が続き、彼が何かに気づいたのが伝わってきた。恐らくはカメラを通して訪問者が自分であることを確認したのだろう。


 「急に押しかけて申し訳ない。佐藤か?体調が心配で、何か困ったことになっていないかと思って来たんだ」


 と、私はできるだけ優しく、しかし心配の念を込めて簡潔な訪問理由を話した。ドアがゆっくりと開き、現れた佐藤の顔には疲れが見て取れたが、直感的に病気のそれらしい雰囲気を感じなかった。


 「先輩、どうしたんですか?」


 この場合は、どうして来たんですかの意味合いだろうっと察した。


 「体調不良報告からの、復帰が難しいとの報告を受ければ心配にはなるだろ?病気以外に何かあったんじゃないかって」


 佐藤はこちら目を見るため上げていた顔を、下げて何かを言いよどむ。その下げた頭の隙間から奥の様子が視界に入り込んだ。リビング部屋へと通じるドアの手前に大小様々な段ボール箱の山だった。


 「あれは…」と漏らしてしまった私に、佐藤は青ざめ、目を忙しく動かした。しばらく続く沈黙の中、私は彼に話さないかと提案した。体調はまだ万全ではないかもしれないが、喫茶店でもどこでもいいから、と。


 彼の目には再び意思が宿り、私の目を見た。そして何かを決意したようだ。「中でも構わないです。どうぞ、入ってください」と佐藤は言った。


 少し長めの廊下を抜けるとそこは異世界だった。


 リビングには以前のように整理されていた形跡はなく、段ボールが所狭しと積まれていた。その多くには「amasan」と書かれていた。日本でも人気のある米国のECサイトだ。

 

 最近、pixel"i"プライス系の決済サービスが開始されたばかりだ。質問したいことは山ほどあったが、その変わり果てた光景に目を奪われていた。佐藤が


 「先輩、どうぞそこに座ってください」


 と声をかけ、指し示されたソファに座った。彼が向かえに座り、「あの実は…体調についてはもう…」と話し始めたが、途中で言葉を失った。私は言い出しにくそうにする彼の様子を感じ取り核心をつくことにした。


 「もう、治ってはいたんだな?」


 と問うと、彼はかすかに「はい」と答えた。それにしてもこの段ボールの山々である。直感的に関係するとは思うもののこれらがそれと結び何を意味しているかまでは把握できなかった。


 「そうです、僕が体調を崩したのは事実です。それでこの段ボールの山は…」


 まだ、何から話していいかわからない様子で、ここまでの近況を彼は話し始めた。聞けば、偶然だったらしい。時系列はこうだ。インフルエンザによって体調を崩していた佐藤は、自宅療養中に以前から注文していたマッスル社のスマートフォンが届いた。


 その時には熱は幸いにも病院で処方された薬の効果で平熱近くまで下がっていた。それなりに元気だったため、新製品を触り始め気に入り始めた。彼はpixel"i"プライスの価格提示を求めたところ


 「価格が1500円で提示されていました」


 とのことだ。彼はそれなりに満足していた中で提示された値段が自分とは異なる何かを計測したのではないかと考えに至った。変化点と言えばインフルエンザの際にもらった薬だ。


 丁度そのころ、競合他社でも導入され始める類似サービスでも同様の結果が現れるのではないかと単純な興味を抱いた彼は同じく商品を低価格で購入することに成功してしまった。


 そうしてる内にこれらを自分で販売してしまえば、かなり利益なると考えた。そのさなかでamasanでもサービスしてからは彼はこの個人的ビジネスにのめり込んだという


 情熱を込めてビジネスプランを語り始めた。彼は段ボールの一つを開け、中からいかにも高級そうな腕時計を取り出し


 「これなんかは、15000円でした。普通は30万ぐらいするそうです」


 表情こそ困ったような顔を作っているが何かの自信のような、仄暗い嬉しさのようなものが話している言葉の雰囲気には帯びている。


 一つ気になることがあった。


 「それにしてもインフルエンザ薬はとうに切れているだろ?それはどうしたんだ?」


 曰く、彼は鬱病や不眠症を装い心療内科を受診することでそういった薬物の入手に成功したんだと言う。


 改めて、段ボール箱の山、佐藤のその姿を見ている中で生活に何が起きたのかを理解しようとした。彼のいつも整頓されていて、物の一つ一つの配置にはそれぞれ意味を持ち、きちんとした場所が過去にはあった。


 だが今、その秩序は崩れ去り、彼の人生がどれほど混乱しているかを物語っているようだった。


 「amasan」のロゴが印刷された箱は、ただの通販商品の容れ物ではなさそうだった。何かの始まりを告げるサインか、はたまた終わりの予感を漂わせるものか。いずれにせよ佐藤がそこからかつてとは違う意味でそれら置かれている。


 私は彼に目を向け、購入商品の購買価格を自慢げ話す彼に向けて、静かに言葉を選んだ。「これら全部、何のためのものなんだ?」と。彼は深く息を吸い込み、まるでこれから語ることが重大な秘密を明かすかのように口を開いた。


 「だから僕の副業というか、オンラインビジネスなんですよ。amasanで商品を仕入れて…」彼の声はわずかに震えていたが、目には何かを確信した不気味な輝きがあった。


 想像はついていた。早い話が彼の行っていることは転売だった。社会的な道徳こそ触れるものはあるが、決して誰かを酷く傷つけるような違法な犯罪という訳ではない。


 彼は引き続き言葉のような何かを話している音だけは耳に届きはするが、私にはそれを細かく砕いてこれ以上情報を得ることをやめてしまっていた。


 例え意味を理解したところでいかに安く品物を入手し、どれだけ自分が得をしたのかという、話題しかしていなかったんだと思う。


 もし、それ以外の何か別の価値観や物の見方を彼が話していれば、私はきっと記憶しているはずだから…


 いい加減雑音に似たそれが次の話題を取り出そうとする一瞬の間を見計らって、私は彼に最終確認をした。


 「もう、君は戻ってくることはないという理解でいいのかな」


 彼は私の目を見つめながら、静かに頷いた。「わかった」っとだけ短く私も返事をして佐藤の家を後にした。


 帰りの電車の中で、彼のことはちらちらと過るがそれはどれも会社の中で慌ただしく仕事をする姿であった。今さっきまで彼と会っていたはずだが、今日、彼がどんな服装をしていたのかを既に思い出せないでいる。


 現実のできごとありながらひどく色を失った記憶だ。


 「普通はどうするべきだったのだろうか」


 そうつぶやきながら、怒るべきだったのか、悲しむべきだったのか。どの感情を下地にして言葉を伝えるべきだったのかを改めて考えてみるが、どれも心に綺麗に収まるような形で加工するには難しく思えた。


 つまりはあそこにあったのは虚無だと思った。


 なんとなしに社内を見渡すと、相も変わらずマッスル製のスマートフォン、それから最近は競合他社でもpixel"i"プライスに類似したサービス始めたせいか、いずれにせよ他社の最新機種の画面を覗き込み操作する人達で溢れていた。

 

 たまにそれが以外の行動をする人は車内でひと時ばかりの仮眠をとるものぐらいだ。


 そろそろ、自分の自宅近くの駅だなと気づき出入口付近の線路図を見ようと目を移したところ、近くの電子案内板にニュースが流れていた。

 

 『米国、ミシガン州デトロイト、ニューメキシコ州アルバカーキにてpixel"i"プライス系サービスを利用した、罰則金支払いを開始』

 小説を読んで面白いと思った方は評価していただければ幸いです。


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