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3.私の生活2(水面下で日常は…)

大体、文庫本のサイズで50~60Pほどの文量になると思います。

一週間で3000~4000文字前後で毎週金曜日に随時更新する予定となります。

しばし、お付き合いいただければ幸いです。

 9時前の始業開始直前のことである。


 「しっかり休んでください。検査結果が出たら、時間に関係なく教えてくださいね。はい、分かりました。お大事に。」


 軽いやり取りで電話での会話を終えた。

 三年目に入る後輩の部下の彼からの急な欠勤連絡は、これが初めての出来事だ。幸いなことにプロジェクトの進捗が今はまだゆるやかで、スケジュールにも余裕はある。急な休みを取るなんて、彼にしてはめずらしいなと思いつつ、


 「まぁ、今は無理せず休んだ方がいいだろうな。」


 これから徐々に忙しくなることが予想されるので、後々、体調崩されるぐらいなら今休んでくれた方がいいというのが正直な感想だ。彼の心配はもちろんしてはいるが、仕事のことも気にしてしまうのが会社員という生き物なのかもしれない。


 私の勤め先はよくあるITシステム会社で、そこの営業職だ。現在メインで担当しているクライアントはかつて『擬音』という名を冠し、その名残で感嘆符と疑問符を組み合わせた「!?」を看板をトレードマークにしている国内最大手小売店のギオンだ。私なんかはこのマークをみるとマガジン系の暴走族漫画を連想させる。


 再来年には老朽化し始めた店舗のシステムの機器の更新と共に、現在抱える問題を改善するシステムを提案を行っていくのが今回のプロジェクトの内容だ。技術部門、マーケティング部門、さらにはサポート部門とも連携を取りながら、プロジェクトを予算等を組み立てる。


 朝の日課は多忙を極める。先方との10時の会議前のわずかな時間を利用して、メールを確認し、追加要望の内容や他部署との連携に問題がないかをチェックする。一つ一つのメールを丁寧に読み解き、項目をチェックリストに落とし込む。そんな集中的な作業の中で、時計の針は容赦なく進行し、10時の会議の時間は迫ってくる。


 ウェブ会議の画面には、参加者のアイコンが次々と表示され、全員が揃ったところでカメラ越しの挨拶から始まった。


 「おはようございます。先にお伝えすることがありまして、申し訳ありませんが、本日、佐藤が体調不良で参加できません。彼の分は私がフォローしますので、よろしくお願いします。」


 ミーティングはそのまま進行し、メールで得た情報を基にして、今後導入予定のシステムについての具体的な説明に移る。Web上の共有画面で資料を映しながら、機能や期待される効果、導入後の流れについて、一つ一つ丁寧に解説していく。画面の向こう側にいる参加者の表情も、画面を通じて、質問や意見が活発に交わされた。


 「このシステムの導入により、どの程度のコスト削減が見込まれますか?」


 「あ、私からも質問です。実際に導入する際のスケジュールはどのようになりますか?」


 「コスト削減につきましては、現行システムと比べて約20%の削減を見込んでいます。導入スケジュールに関しては、来月中には初期テストを開始し、順調に進めば第四四半期には全体への展開を予定しております。」


 「それでは、新システム導入後のサポート体制はどうなっていますか?」


 この件に関しては後輩に任せていたが、共有フォルダ内の個人フォルダで彼が作っていた資料の情報を漁ったものを資料として共有し、伝えた。


 「サポート体制については、導入後も継続的にサポートチームが対応します。また、ユーザー向けのトレーニングプログラムも用意しており、運用開始後もスムーズに利用いただけるようサポートいたします。」


 「ありがとうございます。トレーニングプログラムには興味があります。どのような内容になっているのでしょうか?」


 「トレーニングプログラムでは、基本操作から応用技術まで、段階的に学べるカリキュラムを用意しています。オンラインでのセルフトレーニング資料に加えて、Q&Aセッション等もサービス導入前に実施する予定で………」


 その後もいくつもの質疑応答が続き、会議が終わりを告げた時既に時計の針は12時を回っていた。腹の虚しさを埋めるため、しばし都会の狩人と化した私は、手っ取り早く獲物を求めて近くのコンビニへ


 カップ麺とおにぎりを捕獲し、レジで狩猟の成果を確定させる。これが私たちの都会のジャングル生存戦略だ、などと血の回らない頭でどうでもいいことを考えながら会社に戻ることにした。


 戻る途中、遠目に映るマッスルショップは、多少列が短くなっている様子だったが店内への入場制限をしているだろう、朝から変わらぬ様子だった。


 (技術革新ってやつは、まるでオフィスのエアコンみたいやつで、いつの間にか必要不可欠になってる。厄介な物だ。)


 私は自分の属する世界と何かが違う異次元のような感覚に襲われた。それでも足は自然と会社へと向かうのだが


 会社の休憩室に用意されたカフェテリアスペースで食事を始めようとしたその時、そこに置かれたテレビからニュースが流れていた。アメリカに本社を置くある大手インターネット関連企業の四色で塗られたカラフルなGのロゴ。


 彼らが発表したのは、週明け、他社にも提供しているOSやデバイス技術に「pixel"i"プライス」と酷似した新たなサービスの導入だ。彼らのテクノロジーはすでに市場に出回っているスマートフォン、イヤフォンやスマートウォッチにも応用される予定で、それによってユーザー体験が一層向上するという触れ込みだ。


 そうした中、世界的に展開する別のどっかのジャングルみたいな名前の米国のECサイトも、これらの決済手段を採用する方向で話し合いを進めていることも合わせて発表された。


 マッスル製品もそうだが、実際に購入までの手順はただ単に適正値段を計るための装置(デバイス)をつけるだけではない。まずはその製品を触れる時間をマッスルショップなどでは軽く設けている。ECサイトについてはまずは商品発送後、デバイスを装着の元、数日間商品に触れ体験をした上でその適正価格が伝えられる仕組みとなる予定だとのことだ。


 マッスル製品でもオンライン購入などの際は、明らかに商品に触れる時間が足りていないユーザーに対しては販売小売価格の定価が当然通知されることとなる。ECサイトでも同様の展開となることだろうとおもわれる。


 カップラーメンの湯気が立ちのぼる中、未来のことを考える。今だってスマートウォッチが私たちの脈を計り、イヤフォンが心の鼓動を聞き分ける。生活は、自分のことを自分よりも知っている機械たちに支えられ、時には支配されているのかもしれないな…


 「嫌な考えだ…そうはなりたくものだ…」


 昼休憩が終わり、午後の仕事は会議の内容を整理し、新しい資料を作成することに費やされた。ファイルを更新し保存する作業に没頭すると、時間はあっという間に過ぎていく。就業時間が迫る頃、後輩からの電話が入った。


 「お疲れ様です。今日はすいませんでした。それであの…」


 彼の声は咳き込みながらも、なんとか事情を伝えようとするものだった。彼の報告からは、明日の出社は難しいと直感的に理解した。インフルエンザとの診断だ。完治まで自宅療養し、二次感染を防ぐためにも、当面の出社は見合わせることになる。次回出社時には、診断書を持参するようにとお願いした。


 一週間は自分一人でプロジェクトを支えることになると心の準備をした。しかし一週間が過ぎ、さらに二週間が経っても、彼の席は空のままだった。そこにはいつもの彼の姿なく、彼特有の積極的な意見交換の声もない。ただひっそりと、彼のいない静けさがそこに満ちていた。

 

 先週には彼が肺炎になったとの報告を受けていた。毎朝、彼の机に新しいメモを置く。彼が戻ってきたときにすぐに状況を掴めるように、そして少しでも彼の負担を軽くできるようにとの思いからだ。チームメイトとして、そして後輩として、彼の回復を心から願っている。


 メッセージアプリでの連絡も試みたが、すぐに既読もつかない。彼の健康状態が気がかりで、会社のみならず私生活においてもその影響は少なからずあった。彼が担当していたクライアントからの問い合わせにも対応しなければならず、彼の不在が如実に私の業務に影響を及ぼしていた。


 三週間が経過し、その日は会社のパソコンでニュースをチェックしながら一際目立つ内容が飛び込んできた。マッスル社が音楽界やスポーツ界との提携を発表し、pixel"i"プライスをコンサートや試合のチケットにも応用するというのだ。


 「ずいぶんとまた…」


 と、感想を漏らしながらニュース記事を眺めていると、スマートフォンが震えた。彼からだ。通話で彼は、病床からの復帰が不確かな状況を伝えてきた。その言葉は彼の健康と未来に対する憂慮が増すばかりだった。彼の穴をどう埋めるかは後回しにし、まずは彼の安否確認が先決だと思った。


 仕事を早めに終えて、彼の自宅へ見舞いに行くことに決めた。チームとしての成果も重要だが、今は彼が一日も早く健康を取り戻し、私たちの中に戻ってくることもまた心から願っていることだ。


 就業後、彼の家に向かった。そこで知ったのは


 そうか、私たちはまた一つ、便利さの名のもとに魂を売り渡したのだ。彼の様子を見るとそう思わずにはいられなかった。

挿絵(By みてみん)

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