ティータイム
夕食後に訪れる、ほんの少しの口直しから紅茶を心待つ自分がいる。
紅茶にする?と半同棲中の彼女に伝えてお互いの意思を確認してから準備は始まる。一日の仕上げとも思える時間に意識を向ける。
彼女は誠意をもって紅茶を淹れる準備を手際よく、だが時には繊細な手つきで進めていくのを、僕は素人である立場から手伝うという、結果として邪魔になりかねない行為には毎回自重してしまう。
何か手伝えるのではと思いつつも、真剣な表情を横目に立ち入る隙はない。いつも感心の気持ちでその場にいるのだ。
紅茶を知りたいという意欲はあるものの、自主的に学ぶというほどではなく、彼女との紅茶を飲むタイミングに、何かの拍子で知識を拾っていければば良いという思いがある。
そんな考えを巡らせている頃には、銀色の匙がシャリシャリと黒い茶葉を拾い上げて鍋へと舞い降ろされていく。タイマーをかけて待つ時間には溶け出す紅茶の香りとともに心も一日の着地点へと近づいていく。
毎回、紅茶を飲むタイミングでは組み合わせのお菓子が選定されてある。日中に買いに行ったラズベリーのケーキが冷蔵庫に控えている。
彼女の紅茶を淹れるという役割に対し、私のできることは、紅茶を生かす舞台作りだ。テーブル整理をして、お気に入りのティーポット用の敷物がそこに敷かれ、白湯に温められたティーカップは紅茶を迎える準備を済ましている。
テーブルに役者が揃ったのを見て、ホッと息をつきつつも、彼女が最後の行程を遂行するために丁寧な手つきでティーポットをカップへと差し向けるのをじっと見つめる。澄んだセピア色はゆっくりと正円に収まっていく。その行程に立ち会う時、私たちは静かに一日の終わりを確かめ合うのだ。