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「ん」と突き出された小さな唇に、
「ちゅ」
と唇でお応えする。
キスしてもらえたスズは「えへへ」と満足げにはにかんだ。
キスしてあげた優花は「はいはい」と追加でスズの頭を撫でてあげる。
可愛らしい女の子同士の微笑ましいワンシーンだったが、
「二人とも。TPOって知ってる? TIMEも、PLACEも、OCCASIONも合ってないから。三戦全滅で間違ってるから。0点だから」
京子はご立腹。今は三日後に迫っていた期末試験の為の放課後勉強会中だった。
会の参加人数は三名。クラスメイトでもあるスズと優花と京子だ。
場所は校内の図書室。彼女達が教科書とノートを広げている六人掛けの大きな机にはスズ、優花、京子の三人しか座っていなかったが別の机には他の生徒も居たし、席を取らずに図書室を利用している生徒の姿もちらほらとあった。
「まったく。キスなんて他人の目があるところでするものじゃないでしょう」
「えー。別に隠れてしなくちゃいけないようなことじゃないよう」
溜め息の京子にスズがちっちゃな声で反論をする。優花はふふふと微笑んでいた。
スズと優花は恋人関係ではなかった。放課後に勉強会を開くくらいには仲良しだが肩書きとしてはただの友達同士だ。
スズは優花が好きだし、優花もスズの事は好きだったがそれは恋愛感情とは確実に別のものだった。
スズは優花以外にも好きだと思った女の子にはちょいちょいとキスをねだるし、優花も優花でスズが他の女の子とキスをしてる場面を目撃しても怒ったり悲しんだり、嫉妬したりもしない。不機嫌にはならない。むしろ優花はそんなスズのキスシーンを微笑ましいと好意的に捉えてしまうのだった。
「公序良俗に反する。漢字で書ける? 『公序良俗』よ。これはダメってハッキリと言われてるものじゃなくても社会的にダメって思われているものは駄目なのよ」
「チュウってしたらダメなの?」
「人前でするものじゃないの」
「外国だったら挨拶なのに」
「ここは日本よ。スズも日本人でしょう。加えて此処は学校で今は勉強中なのよ」
「お勉強を頑張ってるご褒美ってことで」
「テストの点数が上がる事、もっと言えば知識が身に付く事が御褒美でしょうよ」
「もー。京子ちゃんてば、あー言えばこー言うんだから」
「こっちの台詞よ」
喧嘩にまでは至らない京子とスズの掛け合いを優花はにこにこと眺めていた。
この一分後、段々と声の大きくなっていっていた二人を見兼ねた図書委員から「お静かにお願いします。おしゃべりでしたら廊下でどうぞ」と注意を受けて、京子とスズの即興漫才は一応の幕を閉じるのであった。
ちなみに。結果として京子とスズと優花の三人が揃って図書室を追い出される事となる第二幕の始まりはその五分後であった。
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