9.私って悪役令嬢枠でした?
昼休み、友達とお喋りをしていたところ。
「森永〜、1年のお客さんが来てるぞ」
クラスの男子から声を掛けられた。
まさか光汰くん? なんて思いながら教室のドアを見ると、見知らぬ女の子が立っていた。
誰だろう? 背が高くてスタイリッシュな美人さんだ。ロングヘアがとても似合っている。
「あなたが森永先輩ですか?」
第一声とともに、キツい視線が向けられる。吊り目がちなようで、キレイだけどちょっと怖いかも……。
「そうですけど……。どちら様ですか?」
「1年の東ルカです。一橋光汰と同じクラスです」
ああ、なるほど。何となく理解した。
この子は光汰くんのことが好きだけど、突然よく分からないぽっと出の年上女にとられてしまったから、苦情を言いに来たのかな?
「どうやって光汰を唆したんですか? 電車の中で、僕のお姫様になってくださいとか言い出して光汰が告白したって話聞きましたけど。光汰がそんな馬鹿げたこと言うはずないじゃないですか! っていうかそんなこと現実で言う人いるわけないじゃないですか! それと、電車の中でのおかしな言動を見たことがあるって情報も聞きましたけど……。全部あなたのせいなんでしょう!?」
「いやまぁ、それには深い事情が……」
きっぱり全否定できないのが切ない。
事の発端は私だとしても、光汰くんも異世界王子に取って代わるような素質があると思うんだよねぇ。
ふとそこで、私はとんでもない事実に気付いてしまった。
吊り目がちな美人……。ヒーローをかっさらっていくなろう系ヒロイン(他称)……。
これはつまり……、彼女は悪役令嬢という名の真正ヒロイン。そして私はヒロインという名の悪役令嬢……? ただの公務員の娘だけど。
そしてもしかしてこれは断罪されているのかな?
小説の表紙をちょっと小難しい表紙と入れ替えたことは大罪ですか……?
……悲しくなってきた。
「もう! そうやって儚げなふりして光汰の気を引いたってわけ? やだやだ小賢しい」
なかなかの言われよう……。傍から見たら私と光汰くんの関係はそう見えるのかな。うっ、涙が出そう。
「そのまま涙でも流すつもりですか? 良いですよねぇ、女の武器使えば楽ですもんね。優しい光汰なら手放しで慰めてくれるんでしょうねぇ」
それにしても、この悪役令嬢役のヒロイン、なかなか様になっているなぁなんて感心すら覚えはじめた時。
「先輩!! 大丈夫ですか!?」
「「光汰!!」くん!!」
息を切らしながら光汰くんがやって来た。