3.後輩のお願いは断れません
最近、光汰くんがやや強引系王子風を吹かせてくる。
きっかけは、私の愛読本を貸してほしいと光汰くんからお願いされたことから始まった。
私が読んでいた異世界系の物語が気になっていたらしく、自分もそういった話を読んでみたいと言われたのだ。さすがにそれは恥ずかしいからとお断りしたけど、お願いしますと何度も頼み込まれたから渋々数冊貸してしまった。
「僕は先輩が好きな本を読みたいんです。先輩がいつも眺めている世界を僕も一緒に覗いてみたいんです!」
キラキラと瞳を輝かせた爽やかイケメン後輩に懇願されて、断れる先輩女子なんている?
ちなみに、以前光汰くんの目の前で読んでいた異世界スパダリ王子溺愛本のタイトルはしっかりと覚えていて、既に購入し読破済みだそうだ。
何それ! お母さんに勝手に部屋の片付けをされた上、ライトノベルをきっちりジャンル分けされて整頓されてた時以来の恥ずかしさなんですけど!!
「先輩ってやっぱり王子様が好きなんですね! 微妙な違いはありますが、クールな佇まいながらやや強引にお姫様に愛情を注ぐようなタイプが多いですね。それと、一貫した身体的特徴は背丈が高いことでしょうか。それと……」
やめて!! 私をあの世送りにしたいの!?
何でこんな辱めを受けなくてはいけないの? 冷静に分析するなんて酷いよ……。
それから彼の言動がおかしくなった。
「先輩……、通学で疲れただろう? 水だ。さぁ、飲め……飲んでください! あ、僕の飲みかけじゃなくてちゃんと新品です」
役を演じ切れないのか、素直系爽やかイケメンの本性が垣間見えてしまう。あと、先輩呼びだけは絶対変わらない。
電車の中で色々かましてくるから見ていられない。周りから感じる視線も気になって仕方がない。
私は決心した。これ以上の暴走は大事故を引き起こしてしまう。私が責任を持って止めなくてはいけない。
「光汰くん、もうやめて! 無理しないで。私はありのままの光汰くんが好きだから」
「先輩……! 僕もありのままの先輩のことが大好きです!!」
いつも同じ車内に乗車している40代課長(仮)のサラリーマンがチッと舌打ちをしたのが聞こえた。
あなた、「よっ、姫様! 王子とお幸せに」って言ってた人ですよね? ついでに言うと「おいおい、王子! 男らしくないぞ」って言ってきた人でもありますよね?
そんな器じゃ次長にはなれませんよ。
少しはこの99%が素直さでできているイケメン後輩を見習ってみたらどうです?