2.夢オチは回避しました
爽やかイケメン後輩こと一橋光汰くんと付き合うことになった翌朝。
私、森永ももは、未だ疑心暗鬼だ。
まさか私が年下イケメンと付き合うことになっちゃうとは。
もしかして夢オチかなって思いながら電車に乗ったら、ひとつ後の駅から乗車してきた光汰くんがポッと頬を染めて「おはようございます、先輩」なんて言ってきた。
イケメンの照れ顔、ありがとうございます。
近くに乗っていたサラリーマンが「おいおい、王子! 男らしくないぞ」なんてちゃちゃを入れてきた。このリーマン、分かってないね。後輩男子がちょっと恥ずかしそうに先輩女子(彼女確定)に挨拶してきたんだよ?
あなたのお宅で飼っているワンちゃん(予想)より可愛いに決まってるでしょ?
そんなわけで、夢オチではなく現実の出来事なのは間違いない。
「先輩、今日はカバーをかけてるんですね」
「あ、うん。やっぱり表紙が丸見えなのはどうなのかと思ってね……」
さすがに王子やら姫やらが載ったキラキラ表紙を堂々と晒してラッシュの電車の中で読み続けられるほど、私のメンタルは強くない。
数日間読み続けてただろってツッコミはなしで。
それから車内で何てことない話をしている間、私はピンときてしまった。
……もしかして、乗客全員を巻き込んだ壮大なドッキリなんてことはないよね?
オリエント急行的な手口でみんなで口裏を合わせて私を陥れようとしてない?
いや、オリエント急行は全く関係ないんだけども。何かふっと頭の中に単語が過ぎったから言ってみたくなっただけ。
そろそろ異世界スパダリ王子の溺愛から本格推理ものへと移行して、先輩としての面目を保ちたいだなんて、思ってないよ?
思ってないけど、明日はアガサ・クリスティの本をカバーをかけずに持ってくるかもしれないなぁ。何かそういう気分なんだよね。
そして翌朝。
「先輩、推理小説も好きなんですか?」
「え! まあ、ね。知的好奇心がくすぐられるというか」
「やっぱり先輩は凄いです。色々なジャンルの本を嗜んでるんですね。……毎朝熱心に量子力学の本を読んでいる姿、本当に素敵だなって思って……それでいつの間にか好きになったんです」
心にグサッとナイフが突き刺さった。
私の良心は、瀕死のダメージを受けている。
オリエント急行の被害者も刺殺されるんだよね。1回だけでも瀕死なのに、あと11回もトドメを刺されちゃうの?
純粋青年を図らずとも姑息な手口で騙してしまった罪深さを身をもって思い知った。