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99.やっぱりあなたは最強です

田舎暮らしを始めて109日目。




シュナッピー達と畑から帰って来ると……

縁側に2つの小さい影が見えた。


「ん?」


凛桜達の姿が見えたのだろう、その2つの物体は

転がる様に急いで駆け寄ってきた。


「凛桜おねえさん!!」


「おねえさん!!」


そう言いながら、ぎゅっと凛桜の腰に抱き着いた。


その必死な様子に少し驚きながらも

優しくぎゅっと抱きしめながら頭を撫でた。


「2人とも久しぶり!

また随分な歓迎ぶりだね、どうしたの?」


リス獣人の兄妹が、うるうるの瞳で凛桜を見上げていた。


「…………っ」


お兄ちゃんは何か言いたげに口を開きかけたが

またすぐに口をつぐんだ。


何かあったのかな?


2人の縋るような視線に、凛桜は困ったように眉尻をさげた。


「キューン……」


黒豆達も心配そうに鼻を鳴らした。


「とりあえず、上がって。

何か美味しいものでも食べようか」


2人は無言で頷くと、縁側から家の中へと上がった。




目の前には、ふかふかのホットケーキとココア。

しかしなかなか2人はてをつけない。


どうしたもんかな……。

無理やり聞き出すのもあれだしな……。


と、横からガツガツとなにか凄い音がする。


「ギャローグルルルル……」


どうやら、もきゅもきゅ言いながらシュナッピーが

踊りながらホットケーキを貪り食べているようだ。


「…………」


あんたは本当にマイペースだな……。

この雰囲気の中、よく食べられるな、おい。


「ギュ?ギャロ?」


どうした?

と言わんばかり首を傾げるシュナッピー。


そして、何かが閃いたのだろう。

急に激しく動き出した。


葉っぱを揺らしながらリス獣人の兄妹に

何やらジェスチャーで伝えているようだった。


見ていると、ぱくりとホットケーキを食べてから

嬉しそうに踊りだした。


それを何度か繰り返してみせた。


「フフフ……。

シュナッピーもこう言っているよ。

ホットケーキ美味しいよ、一緒に食べようよって」


凛桜がそう言うと、シュナッピーはそうだと言わんばかり

頭を縦に何度もふった。


「シュナちゃん……」


妹のルルちゃんが涙ぐんだ。


それをみたお兄ちゃんが、涙をこらえながらフォークを持つと

ぱくりと一口ホットケーキを口に運んだ。


「……美味しいです……っ」


そう言って、泣きながら微笑んだ。


(ああ……もう、なんて健気なの)


凛桜までもらい泣きしそうになったが、そこは意地で耐えた。



おやつも食べ終わったので、ソファーに移動をして

2人が話出すのを辛抱強く待ってみた。


相変わらず2人の表情は暗い。


「…………」


2人を挟むようにきなこと黒豆が横に座った。

どうやら2匹なりに慰めようとしているようだ。


凛桜は思い切って聞いてみることにした。


「違っていたらごめんね。

何か大変な事があった?」


2人は無言で頷いた。


「それは……お母さんの事?」


2人は首を横に振った。


「じゃあお父さんの事?」


2人はまたふるふると首を横にふった。


家族の事ではないか……。

そうすると何がある?


凛桜はしばし手を額にあてて考えた。


「あっ!もしかしてお店の事?」


2人は首を縦にふった。


「それはお店のメニューの事?」


2人は首を横にふった。


考えたくはないが、もっと深刻な事かな……。


「その問題を解決しないとお店が続けられなく

なっちゃうことがあった?」


そう質問すると2人の瞳がカッと見開いた。

そして、悲しそうに頷いた。


やっぱり、そうか……。

資金繰りなのか、それとも何か他の要因なのか?


ノアムさんの話だと、繁盛店のように聞こえたけどな。


騎士団の皆さんも、よくランチで立ち寄る店だって

言っていたし……。


騎士団が御贔屓の店ならば……

嫌がらせ的な事をされるとは思えないし。


くるみの値段が劇的に高騰したとか?


店の立ち退きの危機にあっているとか?


うーん、どちらにしろやはり話して貰わないと

埒があかないな。


「わかる範囲でいいから、お話してくれる?」


凛桜が優しくそう言うと……

お兄ちゃんがようやく重い口を開いた。


「実は……」



数十分後……。

凛桜は、怒りに震えていた。

が、同時に困惑もしていた。


これは、かなり大事だわ。

もう少し詳しくご両親からお話を聞かないと

なんとも言えないけれども、事案です。


結論から言ってしまおう。


“権力をかざした、店の乗っ取り案件です!”


恐らくだが……

人気店のクルミのお店を自分の店の傘下に

おさめたいという魂胆のようだ。


その後は、きっとレシピやノウハウを盗んだ後

追い出すつもりなのが目に見えているよ。



「そうか、そんな事があったんだ」


「はい、相手が貴族様なので両親も困っています」


「そういうことを訴えるところはないの?」


「ありますが、言っても何も変わらないと思います」


悲しそうにお兄ちゃんは目を伏せた。


相手が貴族じゃなぁ……。

どこの世界もそんなもんよね……。


一般市民VS貴族じゃ、分が悪いよね。


クロノスさんに相談する?

それともルナルドさんの方がいいのかな?

あの人、貴族なうえに商人だし、顔が広そうだ。


でも……まてよ……。


貴族の争いに、関係のないもっと位の高い貴族が

口を出してもいいのかな?


それこそ、権力を振りかざした事にならないかな?


「うーん……」


凛桜は唸っていた。


と、そこにあの眩しい程のご婦人が降臨した。


「凛桜~いるんでしょ?

時間が出来たから来ちゃった」


総レースの日傘っぽいものをさしながら

レオナが中庭に立っていた。


「レオナさん!?」


リス獣人の兄妹が、レオナをみて固まっていた。


「あらん……。

随分可愛らしいお客さが来ているのね。

こんにちは」


レオナは傘をたたみながら、縁側から上がってきた。


そこに嬉しそうにきなこ達が飛びついて

キュンキュンいって甘えていた。


「フフフ……相変わらず可愛いわね」


そう言って……

イッヌと戯れているあなたが、一番可愛いです。


美少女(※注 本当は男ですが)と犬って危険だな。

ああ……この一瞬を切り取って保存したいわ。


ふと視線を感じたので、横を向くとシュナッピーが

困惑した様子でレオナを凝視していた。


「…………」


攻撃しようか?

いや、ダメなんじゃないか?


そういう葛藤が見て取れた。


()()()2()()()()()()レオナさんって

最強だと思う……。


ですよねぇ……。


見た目は可憐な美少女だけれども、きっと実力は

男性のように高くみえるんでしょうね、シュナッピーには。

そりゃあ、困惑するわ……。


クロノスさんの親戚だもの……

魔力は相当高いはず。


シュナッピーが、困ったように凛桜の顔をみたので

若干半笑い気味で、攻撃は駄目だよという意味合いで

首を横にふった。



我に返ったのだろう。

ルルちゃんが震えた声で言った。


「レオナちゃんだ……かわいい……」


リス獣人のお兄ちゃんに至っては顔が真っ赤だ。


「あら、私の事知っているの?」


レオナは、そのままルルちゃんの横に座った。


「はい、今月号のシャルロット買いました。

緑のドレスがとっても可愛かったです」


シャルロットってなんだ?

少女たちが読む雑誌なのか?


凛桜はツッコミたい気持ちをグッと堪えて

2人のやり取りを見守っていた。


未だに目の前に本物がいるのが信じられないのか

何度も目を瞬きながらレオナを見つめるルルちゃん。


憧れています!!

が、全身からあふれ出ちゃっているよ。


「ありがとう、嬉しいわ」


レオナさんも嬉しそうに笑顔で優しく答えていた。

さすが一流モデル。


お兄ちゃんは相変わらずぽーっと見惚れていた。


それに気がついた、レオナは軽くウィンクをなげた。


「ひやぁ……」


可愛い声をあげて、お兄ちゃんは獣耳と尻尾の先まで

ピンと立たせて固まった。


あーあ……

いたいけな少年が犠牲に……。


凛桜は遠い目になった。



「ところで、君たちはあのクルミ料理が美味しいお店

“ノワイエ亭”の子達よね?」


「うちのお店をご存じなのですか?」


お兄ちゃんは驚いたように尻尾を揺らした。


「もちろん!

お店で売っているクルミのキャラメリーゼは大好物よ。

お忍びで何回も買っているわ」


「嬉しいです。

あれはうちの看板商品です!」


ルルちゃんも満面の笑みだ。


「まさか、凛桜の知り合いだったとはね」


「偶然なんだけどね、家族ぐるみのお付き合いがあるのよ」


「そうなの?

意外と世間って、狭いのねぇ」


「本当ね」


「ところで何を話していたの?

随分と重苦しい雰囲気だったけれど」


レオナが急に真面目な顔になった。


「…………」


レオナさんに話をしてもいいのだろうか?


凛桜はリス獣人兄弟の顔を見た。


2人は目を見合わせて悩んでいるようだったが

やがて、凛桜の目をみて大きく頷いた。


「実はね……」


凛桜はざっくりと店の現状を話した。





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