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97.そんなに貴重なものなの!?

田舎暮らしを始めて107日目。




可愛らしいピンクの蕾をつけた植物の前で

凛桜は物思いに耽っていた。


みればみるほど、普通の可愛らしい可憐な小花だ。

1つもおかしな所はない。


トゲトゲなどもついていないし、やばい配色でもない。

危険な粘液も飛ばさないし、もちろん喋ったりもしない。


(この花が、本当に幻の魔界植物なのだろうか?)


まぁ……危険な花ならば、コウモリさんが渡す訳がないし。

どうしたもんかなぁ……。


凛桜はそっと蕾を指で突いた。



昨日のルナルドさんはヤバかった……

人ってあんなにも、好きなものを前にすると

はしゃいで興奮するものなのね。


黄金のふさふさの尻尾が、信じられない位

高速回転で振られていたよ。


頼むから1株譲ってくれないかと言って

土下座する勢いで頭を下げてきた。


なんならお礼にこの先ずっと、無償で魔法の土を

毎月10袋届けるとまで言い出す始末。


いや、その……ガチすぎて怖い。

それ以上に、アメリーニャの価値が怖い。


あのいつも飄々として掴みどころのないルナルドさんを

ここまで骨抜きにして、信じられないくらいの条件を

提示させちゃうくらいの品物よ。


貴族といえども商人のあの人が、そこまで言うのよ。

アメリーニャ最強すぎやしませんか?


なんの効力がある花なの?

ただ美しいとかじゃないよね。


不老不死の薬の原料なのか?

それとも逆に、死者を甦らせられるとか?


コレクター魂に火がついちゃったにしても

度がすぎやしませんか?


ひとまずあの後、なんとか宥めすかして帰って頂いた。


ルナルドさんの人柄を考えた時に、悪いことに使う

心配はないと思う。


が、しかし……

そんなにも貴重な花ならば、一応は魔王様に伺ってから

返事するのがいいかなって。


「はぁ……どうしよう」


凛桜がため息をつきながら、更に蕾を突いていると

背後がら何かがのしかかってきた。


「へ?ひゃぁ!」


驚いて振り返ると、満面の笑みを浮かべたきなこと黒豆だった。


「きなこ?黒豆」


「キューン、ワンワンワン!!」


2匹がそれは嬉しそうに飛びついてきて

凛桜の顔を舐めまくった。


「おかえり~いいこにしてた?」


「きゅーん、きゅーん」


凛桜は2匹をぎゅっと抱きしめながら、体の至る所を

わしゃわしゃと撫でながら再会を喜んだ。


と、すぐにまた上から声が降って来た。


「ハハハハハ、やっぱり寂しかったんだな。

きなこ達は、凄くいいこに過ごしていたぞ」


きなこ達のおもちゃセットを持ちながら

クロノスが笑いながら凛桜達を見下ろしていた。


「クロノスさん、この度はきなこ達がお世話になり

ありがとうございました」


「気にするな。

俺は2匹と一緒にすごせて、とても楽しかった」


「ワンワン!!」


きなこ達もその言葉に同意するように、尻尾を左右に

ブンブンふりながら嬉しそうに吠えた。


「顔色を見る限り、大分よくなっているようだな」


「はい、ゆっくりと休めたおかげで

かなりよくなりました」



と、そこにシュナッピーも駆け寄ってきた。


「ギューン、グルルルル」


「ワンワンワン!!」


どうやら2匹と1体は、再会を喜んでいるようだ。


「グル!」


「ワフ!」


久しぶりに再会したからか、もう遊びたくてうずうずした様子で

2匹と1体は、キラキラした瞳で凛桜達をみつめた。


「フフフフ……いいわよ。

好きなだけ遊んできなさい」


その言葉を聞くや否や、きなこ達は一目散に畑へと走り出した。


「元気がいいな」


「本当ね」


凛桜達は、微笑ましい光景に目を合わせて笑った。


「ところで凛桜さん」


「ん?」


急にクロノスがソワソワし始めた。


「その……勘違いかもしれないが……」


「はい」


「もしかして、その目の前にある花は“アメリーニャ”か?」


「へ?」


(クロノスさんまで、見抜いちゃう?)


凛桜は思わず、目を剥いた。


「…………」


「ハハハハ、やっぱり違うよな」


そう言いながら、クロノスは恥ずかしそうに頭をかいた。


「いや、そうです」


「え?」


「これは、アメリーニャです」


今度はクロノスが目を剥く番だった。


「やっぱりそうか……」


興奮しているのか、少し声が上擦っていた。


すると今度は、獣耳をへにゃっと後ろまで下げて

凛桜の顔色を伺うようにこう言った。


「もしよかったら、1株譲ってくれないか?」


(お前もかぁぁぁぁぁ!!)


凛桜は心の中で思いっきり叫んだ。



ここではなんなので……

家に上がってもらい、紅茶とアップルパイを出した。


「…………」


何故か微妙な空気が流れている。


久しぶりの2人っきりだからとかいう甘酸っぱい理由ではない。


先ほどの質問のせいだろうか?


「クロノスさん、アメリーニャって

一体どういう花なのですか?

魔界城にしか生息しない貴重な花だというのは

わかっているのですが?」


「あぁ、とても貴重な花だ。

きっと獣人の男なら誰でも喉から手が出るくらい

欲しい花だと思う……」


「え?それはどういう事ですか?

何かとんでもない効力をもった花なのですか?」


「あ……その、そうだな……」


何故か歯切れの悪い返事だ。


「クロノスさんは、どうしてアメリーニャが

必要なのですか?

やっぱり、その効力の恩恵にあずかろうという感じ?」


「まあ……できれば……今後の為に……」


クロノスはバツが悪そうに目をそらした。


まったく話が見えてこないんだけど?

なんでさっきから挙動不審なのさ?


「その効力とは一体なんなのですか?」


「そうだな、色々だ」


更に顔色が悪くなり、獣耳がこれでもかと後ろに倒れた。


「女の私にはいえないことだったりして?」


凛桜が冗談めかして笑いながらそう言うと


「ゴフゥ……ッ」


クロノスはアップルパイを喉に詰まらせそうになった。


え?やだ、図星だった?

冗談で言ったのに、当たってしまった感じ?


「…………」


凛桜のなにか言いたげな視線に堪えられなくなったのか

急にクロノスは、椅子から立ちあがった。


「いや、決してやましいものではない……。

俺にはまだ必要がないのだが、違うな。

その、出来れば……欲しい……。

あー、その、もう忘れてくれ。

不躾なお願いだったな、出直す、失礼!!」


顔を真っ赤にしながら早口で捲し立てながら

一気にそういうと、ぺこりと頭を下げてそのまま

縁側から中庭の奥へと走り去った。


あまりの勢いに、凛桜は呆気に取られていた。


一体なんだったの!?

慌てて帰るほど狼狽するってどんな効力よ!!


なんだかよくわからないが、獣人の男性にとって

この上なく魅力的なものらしい。


ますます謎だよ、アメリーニャ。


(魔王様、近いうちに来てくれないかな

気になって眠れないわ)


そう思いながら、紅茶を一口飲んだ。




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