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96.おかえり!

田舎暮らしを始めて106日目。




ゆっくり休んだおかげなのか……

完全復活いたしました!!


これが現実世界だったとしたら

確実に長期の入院とリハビリがいっただろう。


巨大白蛇親子には、感謝しかない。

それにクロノスさんをはじめ、それに連なる方々にも

なにかお礼をしなくては。


そんな事を思いながら、凛桜は畑でジャガイモを

収穫していた。


すると遠くの方から、何か雄叫びが聞こえてきた。


「ん?」


顔をあげてみてみると……

遠くの方からシュナッピーが自分めがけて

駆けて来るのが見えた。


「シュナッピー!?」


「キュワーンンンンンン」


甘えた声をあげながら、突進する勢いだ。


「えっ!?」


その後ろから慌てたルナルドさんの声も聞こえる。


「まて、いきなり走りだしたら危ないやないか」


でもシュナッピーは止まらずに、凛桜に突進した。


「おうぁ……」


なんとか受け止めたが、結構な衝撃だったよ、うん。


一応、私が病人だったという事は……

認識しているのかね、君。


「ギューン、キューン、ギュルルル」


物凄い勢いで、頭を擦りつけてくる。


「おかえり、シュナッピー。

ルナルドさんのお家ではいいこにしてた?」


「キューン、キュワーンン」


激しく頷きながら、シュナッピーはなおも凛桜に

甘えまくっていた。


(フフフ……以外に可愛いな)


凛桜は抱きとめながら、頭を優しく撫でていたのだが……。


でもね、花弁が頬に刺さって若干痛いのよ。

それ以上に巻き付かれている蔓の力が強い。


植物の力をなめてはいけない。


あやつら……

コンクリートを突き破って生えてくる種族だからな。


ぎゅうぎゅうに巻き付かれながらも

冷静にそんな事を思っていた。


「シュナッピー、ひとまず落ち着こうか」


なんとか無理やり剥がして、シュナッピーの顔を

両手で挟みながらしっかりと瞳をみた。


「おかえり、シュナッピー」


「キューン」


嬉しくて、またさらにわしゃわしゃと頭をなでた。


それからルナルドの方に向き直ると、凛桜は頭を深々とさげた。


「ルナルドさん、ありがとうございました。

おかげさまでゆっくりと静養ができました」


「水臭いな、改めてお礼を言われるような事やない。

シュナッピー、いいこにしとったで」


照れたようにそう言った。


「それに、ときより寂しそうに空を見つめていたわ。

あれは完全に凛桜さんが恋しかったんやな」


そう言われたシュナッピーは、一瞬目をカッと見開き

プイッとそのまま明後日の方向をむいた。


“べつに寂しくなんかねぇし”


そう言っているかのようだった。


思春期の男子か!!


凛桜とルナルドは目を合わせて苦笑した。



そのまま、ルナルドさんに畑の野菜の収穫を手伝ってもらい

その流れでお昼ご飯を食べていってもらう事になった。



「まずは、万能ねぎと油揚げのザーサイ炒めです。

これを食べながら待っていてくださいね。

今からメインのご飯を作りますから」


そう言って、凛桜はキッチンに立った。


「おっ、また新しい油揚げ料理やな。

んー美味い、凛桜さんのご飯は本当に美味いな」


そう言いながら、ルナルドはパクパク口に運んでいた。


「ありがとうございます」


縁側では、シュナッピーがドーナツを齧っていた。

一心不乱にガツガツ食べていた。


「なんや、えらい食いつきやな。

これじゃあ、うちで何もあげてなかったみたいやんか」


ルナルドさんは困ったように頭をかいた。


「シュナッピーのドーナツ好きは異常ですからね」


「それな、本当にドーナツが好きみたいやな。

わいもたまに、あいつらに……

“ドーナツ、クダサーイ”って言われるわ」


ルナルドさんはキングパパの声真似をしながら

おどける様に言った。


「フフフ……今の凄く似ていました」


「うちのシェフはドーナツ作れんからな。

それに似たケーキをいつもあげるんやけど……

違うんやろな。

なんや、不満そうにもしゃもしゃ食うとるわ」


「あー、なんかすみません」


「いや、ええんや。

たまにあげるからこそ、価値があるんやから」


「確かにそうですね」


その後すぐに、メインのきつね丼をだした。

簡単なんだけれども、美味しい丼なのだ。


あぶら揚げを甘く炊いて、熱々のご飯の上にかける。

その上から、甘だれの煮汁をかけて

ネギと海苔を散らして出来上がりだ。


「美味い……。

ご飯を何杯でもいけそうやな」


ルナルドさんはぺろりと5杯おかわりをした。


あとは、油揚げとえのきと豆腐の味噌汁と

かぶと油揚げのさっと煮、白菜のお漬物を出した。


本当に油揚げづくしのランチになってしまった。


「ふぅ、ごちそうさまでした」


ルナルドさんは満足そうにそう言ってから

甘い瞳で凛桜をみつめた。


「えぅ?」


「凛桜さん……」


あまりにも真剣に見つめられたので、少しドキドキした。


「わい……」


凛桜の喉がごくりとなった。


()()()……」


「へ?」


凛桜は真っ赤になりながら固まった。


「………………」


確信犯なのだろう、そんな凛桜の様子を見ながら

ルナルドは口角をあげた。


そして何事もなかったかのように更に続けた。


「油揚げは確かに好きや。

でもな、べつに油揚げしばりで毎回料理しなくてもいいで」


「へっ?」


はー、びっくりした。

一瞬告白されたのかと思ったわ。


凛桜が赤くなったり、青くなったりするのを

一通り楽しんだルナルドは、更に爆弾発言をかました。


そっと立ち上がり、凛桜の耳元でそっと囁いた。


「まーでも、一番好きなのは、あんたの作る

“いなり寿司”やで」


「ひぃぃ……」


こんなイケボイスで言われたら……

惚れてまうやろぉぉぉ!!


と一人で悶絶してしまう凛桜であった。



ククククク……

本当にからかいがいのある嬢ちゃんやな。


あの男のものじゃなかったら……

本気で口説きおとしたんやけどな。


流石にわいも命は惜しい。


ルナルドはひとりごちた。



「名残惜しいが、そろそろ帰るわ」


「はい、本当にありがとうございました

これ、お土産です」


凛桜は、ドーナツ20個と冷凍保存をしておいた

いなり寿司を20個渡した。


「おおきに、帰ったらさっそく頂くわ。

シュナッピー、ほな、またな」


リナルドは、優しくシュナッピーの頭を撫でた。


「キューン」


庭の奥までシュナッピーと一緒に見送っている

途中の事だった。


いきなりルナルドが叫んだ。


「凛桜さん!!」


「はい!?」


あまりの声量に凛桜はビクついた。


「これ……、うそやろ……。

いや、でも、見間違えるはずはない……、いや……」


なにやら、庭の一画を見つめて、ぶつぶつ言い始めた。


「ルナルドさん?」


「なんで、ここに?

信じられへん……」


「ルナルドさん!!」


凛桜の問いかけに、ハッと我に返ったのだろう

ルナルドは、一瞬口を開きかけたが、またすぐ閉じた。


「あの?」


そして意を決したのか、目の前の淡いピンクの蕾がついた

花を震える手で指しながら、上擦った声で言った。


「この植物は、“アメリーニャ”か?」


ん?

アメリーニャ? アメリーニャ?


凛桜は腕を組みながらふと考えた。


確か、ここに植えたのはコウモリさんから

ホワイトデーに貰った花の種だった気がする。


そんな凛桜の顔色をよんだのだろう。


「そやな、違うよな。

魔界城にしか生息しない、幻の花な訳ない……」


がっくりと肩を落としながら、自分に言い聞かせるように

ルナルドさんは呟いていた。


幻の花なんだ……。

そんな貴重な物とは知らず、普通にシレっと植えちゃったわ。


「変な事きいてすまん、ほな帰るわ……」


あのキラキラしたルナルドが、萎れた花のようになっていた。


「あの……」


「ん?」


ルナルドさん、目が死んでるから……。


「この花なんですが、たぶん……

そのアメリーニャだとおもいますぅ」


そう凛桜が告げると……

信じられない速さでルナルドは凛桜に歩み寄り

両肩をガッと掴んだ。


「ほんまか!?」


目の血走り方がエグイ……。


「ほんまですぅ……」


凛桜はコクコクと首を縦にふった。


魔王様達の事を言っていいのかわからなかったが

ぼんやりと説明することにした。


「えっと、お菓子のお礼に……

魔族の方に頂いた種をここに植えました。

確か、名前をアメリーニャと言っていた気がします」


と、聞いた途端……

ルナルドさんは全身を震わせながら俯いた。


えっ?へ?大丈夫?

何か問題でも?


と、次の瞬間……

両手を天に突き上げて、叫んでいた。


「よしゃぁぁぁぁぁぁ!!

アメリーニャ、本物きたぁぁぁぁ!!」


渾身の魂の叫びだったのだろう。

今も感涙に浸っているようだった。


(んーと、こういう時はどうしたらいいのだろう)


凛桜は1人遠い目になっていた。





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