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92/219

92.それぞれのやり方で……

田舎暮らしを始めて102日目の続き。




2人目の訪問者がやってきた。


その人は、わき目も降らずに凛桜めがけて飛び込んで来た。


あまりの勢いにノアムが対処できずに……

ただあっけに取られていたくらいだ。


衝撃すぎて、お握りを1つ床に落とした。


そしてそれをすかさず見ていたシュナッピーが

拾って素早く食べた。


凛桜がその現場をみていたら

“拾い食いは駄目よ!!”

と、怒られていただろうが……

目にも止まらぬ速さの犯行だった。


「凛桜~大丈夫?

クソイノシシに傷つけられたって聞いた時には

僕……心臓が止まるかと思ったよ……」


そう言いながら、まあまあ大きな白い塊が気を遣う様に

凛桜の体に優しく巻き付いていた。


「…………!!」


白蛇族!?

襲われている……わけじゃないっスよね……。


相変わらずお握りをもったまま、ただ目を丸くして

見つめる事しかできなかったのだ。


凛桜さんにすごく巻き付いている白蛇が1匹……

俺は夢を見ているッスか?


状況がうまく呑み込めないノアムであった。


「白蛇ちゃん!!

どうしてそのことを……」


凛桜は驚きながらも、嬉しそうに白蛇をぎゅっと抱きしめていた。


「災難だったな、凛桜……」


また別の声が聞こえたので振り返ると……

巨大白蛇が中庭に佇んでいた。


「………………!!」


ノアムは声にならない叫び声をあげていた。


なんなんッスかこいつら!!

このデカさ!!

蛇族の族長ッスよね、こいつ……。


そんなノアムに気がついたのだろう

巨大白蛇さんは、楽し気に尻尾を揺らしながら言った。


「ん?

肉食獣のお供の1人か……」


肉食獣ってなんッスか……。

お供って、俺の事っスか?


上から下まで舐めるように見られて

気まずいノアムは、激しく狼狽えていた。


「フ……。

まだまだ青いが少しは役に立つようだな」


かなり上から目線の発言にムカついたが

力の差は歴然だったので黙っていた。


その間、相変わらず目の前では白蛇が凛桜に巻き付き

甘えながらも心配している様子だった。


「凛桜……大丈夫?

もう痛くない?」


本気でどういう状況なんッスか、これ……。


まあ1つだけはっきり言えることは

ここに団長がいなくてよかったッスっていうことだけだな。


ノアムは遠い目になりながら、無意識に何回も頷いていた。


そこで要約、凛桜がノアムに説明してくれた。


「巨大白蛇さんと息子の白蛇ちゃんです」


「…………ッス」


とりあえず、軽く頭を下げてみた。


「こちらは、ノアムさんです」


「…………」


2匹は無言でノアムを見下ろしていた。


凛桜さん、説明がざっくりしすぎッス。

みたまんまッスから……。


白蛇ちゃんは伺う様にノアムを見ていたが

自分の敵(恋敵)ではないと踏んだのだろう。


「肉食獣のお供か……」


興味なさそうにそう呟くと

すぐさままた凛桜に甘えだした。


だから~なんッスか!!

肉食獣って!!


それにいい加減、お前……

凛桜さんから離れろや!!


あいつ確信犯なんッスよ。

明らかに凛桜さんを狙っているッスよね、男として!!


ノアムは眉を顰めていた。


「クククク……

そんな仏頂面をするな」


「へ?」


いきなり横から話しかけられて、ノアムはビクついた。


「凛桜は息子の初恋なのだ」


「はぁ……」


「それに最終的に誰を選ぶのかは、凛桜次第だからな。

それこそ肉食獣ではなく、我が息子やもしれんぞ」


そう言ってニヤリと笑った。


そこで初めてノアムは理解した。

肉食獣=クロノスだという事を。


そんな中、急に巨大白蛇は真面目な声色で話し出した。


「かなり大掛かりな組織だったようだな。

あやつら、我が領土にも土足で踏み込んできたことが

あったのでな、いい機会だから……

本格的にお灸を据えてやったわ」


爬虫類特有の細長い瞳孔が、鋭くきらめいた。


「そうっスか……」


その迫力に、少し尻尾の先が震えたが

ノアムは平然と答えた。


「それでも息子の怒りが収まらくてな。

あやつの()()()()()()()()()と……

宥めるのに苦労をしたわ……」


楽し気にそう語る瞳の冷たさに、更に震えたが

ノアムはいたく冷静を務めて無言で頷いた。


凛桜さん、とんでもない奴らに愛されているッス!!


団長、あなたのライバルは意外に強力かも

知れないっス……。



そのころ白蛇ちゃんは、人型になり

相変わらず凛桜に甘えていた。


「そうだ、これ」


手のひらサイズの貝を渡してきた。


「何?これは」


「ん、僕の鱗と父の鱗で作った軟膏だよ。

傷によく効くから使って」


エリクサー並みの軟膏!!

頂いちゃったよ。


「凛桜の身体に傷なんかつけて

あのクソイノシシ……」


なんだか白蛇ちゃんの背中の後ろに

巨大な禍々しいものが見えるのは気のせいだろうか。


「そうだ、僕が塗ってあげるよ」


そう言って、すばやく凛桜の服に手をかけて

肩を思いっきりはだけさせた。


「し…白蛇ちゃん!?」


まさかの大胆行動に、凛桜は真っ赤になった。


(団長!!

俺、凛桜さんの身体の傷見てないっス)


ノアムは慌てて、顔を両手で覆った。


「息子よ、そうやすやすと妻以外の女人の

肌に直接触れてはいかんぞ……」


窘めながらも巨大白蛇さんは楽しそうだ。


「傷は早く治した方がいいじゃない。

それに凛桜は将来僕の……」


そこにいた男たちが度肝を抜かれていると

横からシュッと素早く何かが凛桜の身体を覆った。


「あかんよ。

こんな大勢の男たちの前でこんなことをしたら」


ルナルドが自分の首に巻いていた

薄いマフラーのような布で凛桜の肩を隠した。


「イノシシ、コロス!!」


「ブッコロス!!」


物騒な発言と共に、キングパパとクィーンママもやってきた。


「ルナルドさんにキングパパ達!?」


「大変やったな、凛桜さん。

身体の方は大丈夫か?」


また何か増えた!!

もう俺無理っス、こんな連中相手に俺1人では無理っス。


カロス副団長でもいい……。

誰か、誰か来てほしいっス。


ノアムはその場にひざまづいて項垂れた。


そんな、ノアムを励ますように何者かが

肩にポンと手をかけた。


驚いて顔をあげると、それはシュナッピーだった。


「お前……!!」


「グルルルル……」


昨日の敵が、今日の友になった瞬間だった……。

かどうかは定かではないが、慰めてはくれているようだ。


誰かきてくれ……。



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