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91.本当に何処からの情報なのさ!?

田舎暮らしを始めて102日目。




「………………」


本当に一体どういう事なのだろうか?

どうして皆知っているの?


森の情報網ヤバイな。

ヤバいというよりか、アウトよ!!


個人情報保護法とかガッツリ無視ですか?


人の家の中庭の出来事ですよ!!

ご近所さんも住んでいないのにぃ。


噂になる?


誰が見ているの?

家政〇はみたくらいに、詳細を知っているのですが!!


本気でなにかセンサーでもついているのか?

はたまた情報屋の魔獣でも潜んでいるのか!?


くらいの勢いよ。


凛桜は、ルナルドさんがお見舞いにと持ってきてくれた

ふかふかな大きなクッションに寄りかかりながら

昨夜からの出来事を振り返っていた。



昨日あれから……

用心の為にここに泊まって、凛桜の世話をしたいと

駄々をこねたクロノスさんを無理やりカロスさんが連れ帰った。


まぁ、騎士団長ですからね。

仕事はいっぱいある、うん……。


まだ残党が残っているかもしれないし、違法な物の処理や

攫われた人の行方など、調べることは多岐に渡るらしい。


かなり大きな組織らしく、念には念をとの事だった。


それ以上に、この前のように凛桜が高熱に魘されて

倒れたりしないかをクロノスさんは、心配しているのだろう。


確かに黒豆達とシュナッピーじゃ、どうにもできないしね。

今回は軽いとはいえ全身打撲に、肩の傷も深い。


本当に痛いぞ、このやろう……。

許さん!イノシシ変態男。


そこで苦肉の策として考えられたのが……。



凛桜は朝から、椅子に座りながら大きなお握りを握っていた。

かなりの数を握ったはずなのだが追いつかないのだ。


他にも卵焼きや豚汁なども手伝ってもらい

すべて椅子に座って料理を行った。


全身は痛いけれど、お腹は空くのよね。


デザートは缶詰に入った、杏仁豆腐でいいかな

なんて棚のストックを見ながら考えていると


「凛桜さん、お握りもう一個食べていいっスか?」


えっ?まだ食べるの?

10個目だよ!!


「いいわよ」


「やりぃ、めんたいマヨとシーチキン!」


そういいながら、両手で持ちながら満面の笑みで齧り付いていた。


そう、ノアムさんが一晩中

警護にあたってくれることになったのだ。



「凛桜さんになにかあったり

もしくは、()()()()()()()()()()()()()なんかしたりしたら

命がないからな、その事をよく心に刻めよ」


と、クロノスさんにすこぶるいい笑顔で言われたとか……。


後にノアムさんは、同僚に顔面蒼白で語ったという。


“肉食獣の男の本気の威嚇の顔を間近で見たことあるッスか?

あれはシャレにならないくらいヤバイ……。

草食種族だったら、それだけで命を落とすッス“


決して大げさではなく、その瞳は本気だったとの事だ。



そんなクロノスの心配も結局、取り越し苦労に終わるのだ。

何故なら、訪問者が絶えなかったからだ。


実際に、ノアムと凛桜が二人っきりで過ごした時間は

ほとんど皆無に等しかった。



まず1人目は……。


「はぁ……いいお湯だったッス。

蛇口って言うんッスかあれ、ひねっただけでお湯が出るのって

凄い仕組みッスね」


頭をタオルでガシガシ拭きながらノアムがお風呂から

帰ってくると、そいつは縁側で一升瓶を抱えていた。


「よぉ、あのときの猫のあんちゃんか」


「…………!!

フリーゲントープの親父さん!?

どうしたんッスか?」


ボルガはニヤリと笑って、軽く手を挙げた。


「どうもこうしたもねぇよ。

どこかのバカが嬢ちゃんにおいたしたらしいじゃねぇの」


「そうなんすよ」


「心配で見に来たが、ありゃあ相当やせ我慢してるな」


そう言って、痛ましそうに凛桜の顔をみた。


どうやら凛桜は、キッチンでボルガの酒のあてを

用意しているようだった。


「ん?何?

おつまみならもうすぐできるよ?」


そうとは知らずに、凛桜は皿にキムチやさつまあげなど

簡単なものを少しずつ盛っていた。


「ごめんね、簡単な物しか出せなくて」


「気にするな。

うめぇもんは、嬢ちゃんが治ったら

たらふく食いにくるからよ」


そう言って腹を揺らして豪快に笑った。


「フフフフ……わかった。

ボルガさんの好きなものたくさん作るわね。

あ、ノアムさんも何か食べる?

お風呂上がりのアイスとか最高よ」


「頂くッス!!」


黒豆達も加わり、3人で談笑していたのだが

疲れと緊張もあったのだろう……

凛桜がうつらうつらしてきた。


もしかしたらまた熱が出てきたのかもしれない。


「嬢ちゃん、そろそろ休んだ方がいい」


「でも……」


凛桜は嫌だという様に無言で首を横にふった。

そして、スエットの端を両手でぎゅっと握った。


「眠たく……ない……」


そう言いながらも、目をしぱしぱさせている。

かなり眠気を我慢していることは、一目瞭然だった。


そんな凛桜の様子にボルガは、優しい声で

諭すように言った。


「大丈夫だ、俺達がここにいる。

何も怖いことは起きねぇよ。

それにあんたには最強の男がついているだろう」


そう言われて凛桜は、目を大きく見開いた。


ノアムも満面の笑みでボルガに同意するかのように頷いた。


「だから安心して休め」


黒豆達もいつになく真剣な眼差しで、凛桜を見つめている。


「ん……、わかった。

おやすみなさい」


子供みたいな我儘を言ってちょっぴり恥ずかしかったのか

頬を染めながら素直に頷いた。



そして数分後、隣の部屋から穏やかな寝息が聞こえてきた。



「ふう……やっと寝たか」


ボルガは腹巻からキセルを取り出すと爪で火をつけた。


「当たり前っスけど、怖かったんスね」


「あぁ、特に嬢ちゃんは平和な国の住民だろ。

危険はあるだろうが、俺達みたいに常に命のやりとりを

してきた訳じゃねぇからな。

本人は平気だと思っていても、そうとう堪えているんだろうよ」


そう言って深くたばこを吸ってから

灰を中庭にポンと落とした。


「なんかわかる気がするッス。

俺も、初めて魔獣と戦った時、興奮と恐怖で

その晩は眠れなかったッス」


「そういうこった。

眠るとその時の情景が蘇るんだろうよ」


「…………」


「でもまあ、あんな事は2度と起きねぇがな。

あの男とその周辺にはきっちりと落とし前を

つけてもらったからな」


そう言ったボルガは、凶悪な顔で微笑んでいた。


その氷の微笑に一瞬ゾクッとしたノアムだったが

すぐにノアムも獰猛な顔をして答えた。


「そうらしいッスね。

あいつの元には、()()()()()()()()があったって

看守が言っていたッスよ。

何処の誰なんッスかねぇ……」


「さあな……」


わかっている癖に2人は、わざとらしく会話を続けた。


「本当は、すぐにでも団長が八つ裂きにしたいでしょうが

こちらも色々と大人の事情があるッス」


「お上仕事は、難儀なこった。

男にとって……

死ぬのも地獄、生きるのも地獄ってか」


そう言って、2人は意味深に微笑んだ。


その時だった、庭の奥の方からカサッと微かな音が聞こえた。

と、同時に2人は臨戦態勢をとったが

現れたのは意外な人物だった。


「なんでぇ、やっぱりあんたか。

来ると思ったぜ」


そこには息を切らせたユキヒョウが佇んでいた。


「団長……、驚かせないでくださいッス」


「すまん……」


そのまま音もなく、縁側からユキヒョウが家の中にあがった。


「嬢ちゃんは今さっき寝たところだ。

きっと今頃は魘されているだろうから、行ってやんな」


ユキヒョウは無言で頷くと、そっと隣の部屋に入った。


苦悶の表情を浮かべている凛桜の枕元にそっと寄り沿った。


その暖かさとモフモフを感じたのだろう

無意識に凛桜は、すり寄って幸せそうに呟いた。


「クロノスさん……」


「凛桜さん……」


クロノスはそっと頭を摺り寄せてから、凛桜の腕に尻尾を絡ませた。



「さてと、俺はそろそろ帰るぜ。

じゃあな、嬢ちゃんの事頼むぜ」


そう言って、ボルガは一升瓶を抱えながら夜の闇に消えた。



そして朝の食卓へとつながるのだが……。


ノアムが12個目のお握りを食べようとしている時だった。


ふと凛桜が言った。


「ねぇ、昨日の夜中にクロノスさんって来た?」


「ごふぅ……」


ノアムは鮭お握りを思いっきり喉に詰まらせた。


「大丈夫?」


急いで麦茶を手渡す凛桜に、涙目で胸を叩きながら

大丈夫だと目で合図しながらもノアムは首を横に振った。


「そうだよね、やっぱり夢か。

なんか凄くリアルだったんだよね」


ノアムは気まずそうに目を逸らしていた。


去り際にクロノスに言われたのだ。

ここに来たことは凛桜さんとカロスにも内緒だと……。


「それまでは怖くて眠れなかったんだけど

クロノスさんの夢をみたあたりから凄く安心できて

ぐっすりと眠れたんだ」


そう言った凛桜の顔は、幸せそうに蕩けていた。


(はいはい、朝からごちそうさまッス)


ちょっぴりイラっとするやら、羨ましいやら

ノアムはそのままリンゴを丸齧りした。


(もう、お前らもう結婚してしまえ!!)


心の中でそう悪態をつきながらも、頬が緩んでいた。




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