90.数十年越しの約束
田舎暮らしを始めて101日目の更に続き。
もう、うちの中庭が……
何がなんだかわからないことになっていますが!!
ひとまず妖精の女王様がいらっしゃったので
誘拐犯だという誤解はとけたようだった。
その妖精の女王様一行は、ジュエルちゃんを逃がした後
偶然そこを通りかかった、ルナルドさんWithキングパパ達に
助けられて事なきを得たようだった。
植物大会議の帰り道の出来事だったらしい。
その後ずっと、ジュエルちゃんの気配を追って
探しまわっていて、家を見つけたとの事だった。
だから~なんなのよ……。
その怪しい世界規模っぽい会議は!
一体議題はなんなのさ!!
気になって仕方がないから
あとでルナルドさんに聞いてみよう。
そんな事を思っていると、妖精の女王様が
じぃ~っと凛桜の顔を見つめていた。
「…………?」
「………………」
めちゃくちゃ見られていますが……。
「あの……何か?」
するとずいっと凛桜に顔を近づけてきた。
「へっ?」
「あなた~もしかして、まーちゃんの娘さんでしょぉ~」
まーちゃん?
まーちゃんって誰よ。
ん?
もしかしてうちの母親か!!
あの人、眞由香って名前だったわ。
だから、まーちゃんか。
そう言えば、結婚祝いに妖精の女王様から蜂蜜もらった
と言っていたな。
その女王様がこの方か!!
理解するまで数十秒かかったが、なんとか凛桜は
返事を返す事ができた。
「あー、はい、まーちゃんの娘の凛桜と申します」
「やっぱり、波動が~似ているな~と思ったの。
やっぱり~私達~縁があるのねぇ」
そう言って、嬉しそうに手を叩きながら柔らかく微笑んだ。
「凛桜さんの家系は最強だな
妖精族とも繋がりがあるのか!?」
それまで横に並んで静かに話を聞いていた
クロノスさんが驚いたように凛桜の顔を見ていた。
「本当は、私が一番驚いているんだから。
まぁ、確かにうちの家系って最強よね」
そう言って、互いに目を合わせ、微笑みあっていた。
そんな仲睦まじい二人の様子を、ニコニコと
見ていた女王様だったが、ハッとして急に真面目な顔になった。
「勇敢なユキヒョウの戦士よ
挨拶が遅れてもうしわけない。
娘を助けてくれてありがとう。
この恩義は忘れません。
今後あなたに何かあったら、すべての妖精が力になるでしょう」
そう言って、クロノスに頭を下げた。
その様子に、騎士団側がざわつきながらもわいていた。
団長に妖精の加護が加わったぞ!!
戦士にとって、これほど心強いものはない。
皆のキラキラした尊敬の眼差しに
若干居心地悪そうなクロノスであった。
「他の皆様もありがとう」
絶世の美少女の女王様に微笑まれて、騎士団の青年達は
見惚れていたが、カロスの咳払いにキリっと顔を引き締め
全員が、胸に手を当てて敬礼を返した。
クロノスも恐縮しながらも、騎士団代表として
片膝をついて一礼をしながらこう返した。
「私をはじめ、部下たちにまで……
ありがたいお言葉を頂き、恐縮しております。
私は自分の大切な者を守る為に戦っただけです。
その結果、姫様をすくう事につながったに過ぎません。
だから、何もお礼を言われるような事はしていません」
その言葉を聞いた妖精の女王はフッと微笑みをもらした。
「本当にいい男ねぇ~あなた……。
凛桜ちゃんの大事な人じゃなかったら~
うちの娘の~旦那さまに~したかったわ~」
そう言ってにんまりと笑った。
「えっ?」
「母上様!!」
クロノスさんとジュエルちゃんが同時に困惑した声を上げた。
凛桜も密かに内心ドキッとしたくらいだ。
えっ?クロノスさん!
妖精族に婿入りさせられちゃうの?
もしくはジュエルちゃんが、クロノスさんのハーレムに!?
凛桜の複雑な顔を見て悟ったのだろう。
カロスだけが凛桜がまたとんでもない勘違いをしている事に
気が付いていた。
凛桜さん、それ違いますから……。
と言えたら、どんなにいいだろうとキリキリ痛む胃を押さえた。
そこにキングパパが止めの一言を
ドヤ顔をしながら大きな声で言い放った。
「ダンチョウハ、リオノツガイ!!
「リオハ、ダンチョウノツガイ!!」
クイーンママもかぶせて叫んだ。
その後、信じられない位の沈黙が流れた……。
同時に、一気に凛桜とクロノスに視線が注がれた。
いやぁぁぁぁぁ!!
やめて~みんなもうそのネタやめてよ。
そんなことされると……
始まるものも始まらなくなっちゃう!?
いや、それも違うな。
まだ心が追いつかないからやめてよ。
何回心臓を止まらせる気!?
凛桜は、気を失いそうになった
「勘弁してくれ……」
クロノスも頭をかかえて情けない声をあげていた。
そんな団長をみて、このヘタレがと思っていた
部下が2人いや騎士団の全員が思っていた……。
「ウフフフフ……初々しいわね」
女王様はそんな空気をもろともせず、終始ニコニコしていた。
妖精の女王様怖い……。
伊達に女王の名を名乗っている人じゃないのね。
凛桜は、たった30分そこらの出来事に
全ての体力と気力を奪われた気がした。
そして、またもやこの方達が叫んだ。
「オヤツクダサーイ」
「クダサーイ」
「………………」
自由か!
自由すぎやしませんかね、植物達よ。
「キューン」
「ワンワンワン」
一斉に、いつものメンバーがオヤツくれと言わんばかり騒ぎ出した。
「わかったから、ひとまず落ち着いて。
用意しますから、皆さんもオヤツタイムにしましょう」
凛桜は、クロノスに支えられながらキッチンへとむかった。
「俺達も手伝います」
カロスさんとノアムさん、そして騎士団の面々も動いてくれた。
「ありがとう、助かるわ。
それじゃあ、騎士団の皆さんは妖精さん達にクッキーを
配ってくれますか」
「えっ?あんなに数いるっスよ」
ノアムはざっと中庭を見回して心配そうに眉尻を下げた。
「おそらく、300枚くらいはあると思うんだけど……
足りない分は、甘いあられを配ってください」
「了解っス!」
「騎士団の皆さんは、キャラメルリーフパイを
食べてくださいね」
「ありがとうございます」
カロスの指揮の元、おやつ配りが始まった。
「キングパパ達には、これだよ」
そう言って、凛桜はマドレーヌをあげた。
またもやシュナッピーがキングパパ達に
マドレーヌとは何か説明しているらしい。
黒豆達は、クロノスさんからジャーキーを
貰ってご機嫌のようだ。
「そして、女王様とジュエルちゃんにはこちらを」
凛桜は、小さく切った水羊羹をだした。
「あら~これは、水羊羹ね。
嬉しい~これは、まーちゃんとの思い出の食べ物なの。
まさかまた食べられるなんて嬉しいわ」
そう言って、妖精の女王様はいたく感動しているようだった。
実は母から聞いていたのだ。
縁側で涼みながら水羊羹を食べていたら
妖精の女王様が急に現れ、その美味しそうなものを
一口頂戴と言われた事を。
それが二人の初めての出会いらしい。
その時の事を思い出しているのだろうか
心なし女王の瞳が潤んでいるように見えたのは
気のせいじゃないはず。
すったもんだはあったが、無事になんとか場が収まりそうだった。
そしてついにお別れの時がきた。
「凛桜さん……おら……おら……」
ジュエルちゃんは名残惜しそうに凛桜の人差し指を
ぎゅっと握って泣いていた。
「ジュエルちゃん、よかったらまた遊びに来て。
きなこ達もシュナッピーも待ってるから」
「うん、また遊びにくるっちゃ。
シュナちゃん、きなこさん、くろまめさんもありがとう」
そう言って、それぞれにぎゅっと抱き着くと
そのまま妖精の群れの方へと帰った。
騎士団の面々も帰る準備が整ったものから
引き上げているようだった。
「凛桜ちゃん、本当にありがとね~」
「あ、女王様、これ母から預かっている物です」
「なにかしら?」
女王は手渡されたものをみて、思わず涙を零した。
「これ、千代紙ね。
まーちゃん、約束をおぼえてくれていたのねぇ~」
そう言って、嬉しそうにぎゅっと胸に抱きしめていた。
「大事にするわと伝えてくれる?」
「はい、必ず。
女王様ももしよかったらまた遊びに来てください」
「えぇ、ありがとう」
そう言ってふんわりと笑って飛び立とうとした時だった
が、急に戻ってきたかと思ったら……
凛桜の耳元に顔を近づけて、小さな声で囁いた。
「ユキヒョウの戦士との縁を大事にね」
「えっ?」
「またね」
そう言って手を振りながら、空へと消えて行った。
女王様の言葉をどうとらえていいのかわからず
無言のまま空を見つめていると
いつのまにか、クロノスが横に並んで立っていた。
「お帰りになられたか……。
今日はなんだか疲れたな」
そう言いながらも……
そっと横顔を覗き見ると、穏やかに微笑んでいた。
「そうだね、なんか一気に10歳くらい歳を
取った気がするわ」
「だな」
そう言って、クスクス笑いあっていると、後ろにいた
キングパパ達がまた叫んだ。
「マドレーヌ、オカワリ!!」
「オカワリ!!オカワリ!!」
「………………」
ルナルドさん、あまり自由にさせるのも
どうかと思いますけど……。
「凛桜さん、俺も腹減ったッス。
親子丼が食いたいッス!!」
ノアムさんまで参加してきた!!
後ろで鬼のような形相をしているカロスさんがいるから!!
だからですね、うちはご飯屋じゃないってば。
そう思ってクロノスさんを見上げるが……
クロノスさんもお手上げだという様に肩をすくめていた。
「マドレーヌ!!」
「親子丼!!」
まだ言うか!!
皆さん忘れているかもしれませんが
私……一応、病人ですからね!