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88.覚悟はできているんだろうな?

田舎暮らしを始めて100日目の更に続き。




(くぅ……肩が死ぬほど痛いわ!!)


凛桜は悔しいやら痛いやらで涙が零れた。


「クククク……

泣いてるあんたも、いいな」


そう言ってイノシシ獣人の男は……

凛桜を見下ろしながら、嬉しそうに舌なめずりをした。


(クロノスさん!! クロノスさん!!)


凛桜は何度も心の中で、クロノスの名前を呼んだ。


「さて……楽しもうぜ」


そう言って、凛桜の服に手をかけようとした時

イノシシ獣人の男の手が止まった。


「お前……まさか!!」


凛桜の耳元をみて男は固まった。


「そうだよ、そのまさかだよ。

この()()()()に手を出したんだ……

死ぬ覚悟はできているんだろうな!!」


という声が上から降ってきたと思ったら

イノシシ獣人は数十メートル先に吹っ飛んだ。


驚く間もなく何か暖かいものにぎゅっと抱きしめられた。


えっ?この声はクロノスさん?

私……もしかして死んだの?


これって現実?

えっ?んんんん……え?


凛桜は若干パニックになっていた。


クロノスは、凛桜を腕の中から一旦離すと……

しっかりと凛桜の目をみた。


そしてそのまま、いたわる様に頬に手を当てながら言った。


「凛桜さん、遅くなってごめん」


クロノスさんは今にも泣きだしそうだった。

凛桜の頬に当てている手も震えているのがわかる。


「クロノスさん、本当にクロノスさんなの?」


「あぁ……」


そこで安心したのか、凛桜はそのままクロノスの腕の中に

飛び込んでわんわん泣いた。


「怖かったんだから……でも……頑張らないと駄目だし

ジュエルちゃんが……っ……危ないし……

イノシシ男はキモイし……肩は痛いし……。

イノシシ男は変態だし…………」


言葉をつまらせながらも……

涙のにじむ声で罵詈雑言を言う元気はあった。


「そうだな……うん……。

でももう大丈夫だから」


そう言いながら、優しく凛桜の頭を撫でた。


「遅いよ……何度もクロノスさんの名前を

呼んだんだから……」


そう言いながら、クロノスの胸をぽかぽか叩いた。


たった今まで死の恐怖と戦っていたのだ。


クロノスが間一髪のところで現れてくれて

命が助かったと頭でわかっていても……

こみあげる涙が止まらなかった。



「聞こえた……凛桜さんの声が聞こえたんだ」


そう言って、再びクロノスはぎゅっと凛桜を抱きしめた。


「嘘ばっかり……」


「本当に聞こえたんだ」


そう言って愛おしそうに凛桜を見つめた。


「なら、そういう事にしてあげる……」


そう言って、凛桜は再びクロノスの胸に頬を埋めた。



お前ら、この惨状の中でよくイチャつけるよな……。


と、騎士団の面々およびポケットの中で一部始終を

見ていたジュエルがそう思っていた事を2人は知らない。


その後、凛桜は気を失った……。



凛桜が目を覚ましたのは、次の日だった。


「ん……」


寝返りをうとうとした時に、何かモフモフしたものに

身体ごと包まれていることに気がついた。


このモフモフは何?


凛桜が寝ぼけながら、モフモフに頬をスリスリしていると

上から声が降ってきた。


「目が覚めたか?」


目を擦りながらよくみてみると、そこには大きなユキヒョウが……。


「クロノスさん?なんでここに!?」


凛桜が飛び起きようとしたが、全身に激しい痛みが走った。


「あう……」


そのまま、再びクロノスの毛皮に突っ伏した。


「無理をしない方がいい、肩に傷がある上に

全身打撲だからな、1週間くらいは安静にしないとな」


「えぇ……そんなにかかるの?」


凛桜ががっかりと肩を落としている所に

カロスとノアムがやってきた。


「凛桜さん、気分はいかがですか?」


「はよッス、凛桜さん」


それにともない、黒豆達も遠慮がちにすり寄ってきたり

シュナッピーも心配そうに縁側からこちらを覗いていた。


「みんな無事だったのね、よかった」


また涙が溢れてきた。


「そうだ、ジュエルちゃんはどうなったの?」


「おらは、ここにいるっちゃ」


そう言って、ノアムの肩にジュエルちゃんがちょこんと座っていた。


「よかった……」


「凛桜さんが命がけで守ってくれたおかげだ。

本当にありがとう」


そう言って、ぺこりと頭を下げた。


庭では騎士団の面々が、色々と作業をしていた。

所謂……現場検証的なものだろう。


後から落ち着いて聞いたところ……

あのイノシシ男達は、凶悪な闇の獣人ハンターとして

指名手配されていた男達だったのだ。


いつもギリギリのところで逃げられており

煮え湯を飲まされていたのだが、ついに御用となった。


ノアムさん曰く、凛桜が気を失った後のクロノスは

まさに魔人だったらしい。


心底味方でよかったと、その場にいた全員が

恐怖に慄いたとか……。


凄まじい怒りはなかなか収まらなく

イノシシ獣人や配下の魔獣を

これでもかと攻めたてたらしい……。


トップが捕まればあとは脆いものだ。

アジトも発見され、壊滅状態に追い込まれたのだった。


そしてあのイノシシ獣人の男は……

捕まった後に、更に死よりも怖い目にあったらしい。


誰かが拷問などをしたわけではないのに

罪人が収容される塔の地下室で狂ったように

恐怖で泣き叫んでいるとの事だった。


そうなる前日に、男の部屋の前に一匹の()()()()

飛んでいるのが目撃されたのを皮切りに……


()()()が這っていたとか、()()の蔓がびっしりと

部屋中を覆っていたとか……。


ある時には、()の咆哮が轟いたり……

おびただしい()()()の集団をみたなどと

様々な噂が密かにささやかれている。


が、真相は闇の中だ。


さんざん人を苦しませてきた者へ

誰かが罰を下したのだろうか……。


今日もまたほら、その男の部屋の前には何者かが

来る靴音が響いている……。


それは……()()()()()()()……

()()()()()かもしれない……




凛桜は、獣体のクロノスに寄りかかりながら

中庭を見ていたが、ハッと気が付いたように

カロスに言った。


「カロスさん、ノアムさんもそして騎士団の方達も

徹夜で作業しているでしょう?

冷蔵庫の中に、作り置きのおかずが詰まっているから

手の空いた方達から食べてもらって。

場所はわかる?」


そう言いながら、立ち上がろうとしたがクロノスの

尻尾が腰に巻き付けられて止められた。


「こんな時まで、人の心配をしないでいい」


「だって、申し訳ないじゃない」


「そうッスよ、凛桜さんはゆっくりと団長の腕の中で

休んでいてくださいッスよ」


ノアムがしたり顔でそう言うと、凛桜とクロノスは

赤くなって狼狽えた。


「バ……バカ、変なことをいうな……」


「…………」


「いいっス、いいっス、皆もわかっているッス」


「だから!!」


「本当に仲がいいっちゃ。羨ましいっちゃ。

番とはこういうものなんだべな」


ジュエルがしみじみとノアムの肩で頷いていた。


「ジュエルちゃんまで……」


凛桜が恥ずかしさのあまり、クロノスの腹毛に顔を埋めた。


確かに皆疲れていたし、そう言ったノアムが

一番腹の虫を鳴らしていた。


なので、お言葉に甘えて朝ごはんとして

凛桜の作り置きおかずを思う存分味わっていた。


ジュエルも小さく切って貰って、美味しそうに頬張っていた。


「美味しいっちゃ。

おら、この甘いシャンピニオンが好きだべ」


キノコの甘辛煮か……。

やはり森で採れるものが好きなのかな?


ちまちまと一所懸命に食べる姿が可愛い!


その横で、トラ獣人の青年が鶏ハムを丸ごと齧っていた。


「美味い……美味すぎる」


狼獣人の青年は、飲むようにラタトゥイユを食べている。


「美味い……この味好きだ」


あら、意外に肉食じゃなくて野菜好きなのかしら?


おおかみさんだからてっきり甘酢の肉団子にいくかと思ったら

野菜の煮込みにいきましたか。


その甘酢の肉団子は、リス獣人の青年が夢中で食べていた。

反対の手には、骨付きの鶏モモ肉の照り焼きが握られている。


ワイルド肉食系のリスさん降臨……。


ノアムも煮込みハンバーグが入ったタッパーから直接食べていた。


「あっ!ノアムさん、それ噂のハンバーグじゃないですか。

宮廷でしか食べられない、幻のメニューですよね!!

独り占めはずるいですよ」


サイ獣人の青年ときつね獣人の青年に詰め寄られていた。


「ニシシシ、早いものガチッスよ。

欲しかったら俺と勝負ッス」


「えー、無理じゃないですか、それ」


そんなやり取りを呆れて見ながらもカロスは

カリカリの大学芋を黙々と食べていた。


カロスさんの甘いもの好きは健在と……。


凛桜が嬉しそうに周りを見回していると

ふとクロノスと目があった。


「部下にまで気を配ってくれてありがとう」


とても穏やかな優しい瞳だった。


「私はこんなことしかできないから……」


「十分すぎるくらいだ」


そう言って2人で笑いあっていると

シュナッピーの雄叫びが聞こえた。


えっ?また何か事件なの?

少しくらいはゆっくりさせてくれませんかね……。


私、一応……病人なんですが……。


凛桜は天を仰いだ。



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