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86.ギャップが激しすぎやしませんか?

田舎暮らしを始めて100日目。




昨日寝る前に、白い妖精達を見たら灰色になっていたから

明日は雨が降るのかな?

と思いながら就寝しました。


すると予報通り、朝から雨が降っていた。

やはりこの子達の予報は当たるのね。


白い妖精というよりか、お天気の妖精?


今も濃い灰色のまま、ふわふわの綿毛が瓶の中で

くるくると回りながら漂っているのが可愛い。



早いもので、異世界に来るようになって

100日も経ったのね……。

3桁に突入しましたか。


なんて感慨深く感じながら中庭を眺めていると

シュナッピーが、庭の中心で愛を叫んで……。


いや、葉っぱをすべて上に向けて

目をつぶりながら天を仰ぎながら雨に打たれていた。


君はなにをしているのかな?

イケメン俳優なら、まだしも

どういう状況ですか?


「ギュル……クルルルル」


なんだか気持ちよさそうな声をあげている。


規格外の事が多いから、すっかり植物だという事を忘れていたわ。

きっと恵みの雨が嬉しいのだろう。


好きなだけ雨を浴びてくだされ。


反対に黒豆達は、恨めしそうに天を見つめているけどね。

雨だと外で遊べないからかな。



さて、今日はおかずの作り置きでも作りますか。

野菜も果物もぎっしり冷蔵庫に詰まっているしね。


雨の日なら、誰も訪ねて来ないだろう。


ブロッコリーが大量にあったな。

ん……ブロッコリーの塩昆布和えでも作ろうかしら。


簡単なんだけど美味しいのよね、これ。


まずは、ブロッコリーの房と茎を軽く茹でます。

レンチンでもいいけれどね。


茹であがったら、そこにごま油といりごまと塩昆布を

入れて混ぜ合わせます。


更にしらすをトッピングしても美味しい。

ただそれだけの工程でできちゃうのだ。


さて、もう一品はどうしようかな?

と、思っていると庭の方がやけに騒がしい。


えっ?こんな天気の悪い日に誰か来ちゃった感じ?

まさか近衛騎士団と鷹の獣人おじさま一行じゃないでしょうね。


シュナッピーの雄叫び?

いや、違うな。

かなり焦った声が聞こえる。


黒豆達もいつもと違う戸惑いのクゥーン的な鳴き声?


どうしたの?


凛桜が中庭に向かおうとしたその時に……

何か物体がこちらに飛んできた。


んっ?


目の前で、軽いポトという音がした。


「痛い……ちゃ」


か細い声が聞こえたかと思ったら……

そいつはそのまま、まな板の中心に着地した。


「…………」


「…………」


急な出来事すぎて、お互いに数秒見つめあったまま

固まってしまった。


が……

その物体は、次の瞬間……

体に似合わない程の大きな声でこう叫んだ。


「やめてくんろー。

おらを食べても美味しくないっちゃ!!」


まな板にいたのは、小さい人型の妖精さんだった……。

何故か、かなり訛っている……。


が、それを凌駕するほど可愛らしい妖精だった。

大きさはだいたい20センチくらいだろうか。


ふぁ……動くお人形さんだ。


凛桜は、その可愛らしさに感動して見惚れていた。


ふわふわの栗色の髪の毛に、桃色の瞳。

薄いピンクの可愛らしいドレスのような服を纏っており

ガラスの靴を履いていた。


背中には透き通った4枚の羽根があり

七色に輝いている。

しかしその中の1枚が半分なくなっていた……。


怪我をしているのだろうか。

だからうまく飛べないとか?


凛桜が自分の羽を見ていることに気が付いたのだろう。

青ざめた表情でサッと目をそらした。


うーん、どうしたもんかな。

ますます怯えさせちゃったかな……。


妖精さんは、涙を浮かべて懇願していた。


「おら、おらの事を食べるつもりだべ。

おねげえだ、食べないで食べないでくんろ」


そこで凛桜は、ハッと我に返った。


今の状態は、凛桜が包丁を手に持って

妖精さんを見下ろしている状態だ。


それは怖いよね、うん。


怖がらせないように、そっと包丁を横においた。

そんな微かな行動でもビクつく始末だ。


「あぁ……なんでこんな事になったんだっちゃ」


うわ言のように呟きながら……

小さい手を組んで祈る様にして震えている。


凛桜は、妖精さんに優しく声をかけてみた。


「私は蒼月凛桜と申します。人族です。

あなたを食べるつもりはありません。

ここは私の家で、この場所は調理場です。

ところで、あなたは何処から来たのですか?」


そう言いながらにっこりと微笑みかけた。


「えっ?」


妖精さんは戸惑いながらも凛桜を見上げた。


「…………」


妖精さんは何か言おうとして口を開きかけたが

またすぐに口をつぐんで俯いた。


言葉は伝わっているかしら……。

完全に怯えているよね。


その前になんで急に妖精さんが飛び込んで来たんだろう。

家の庭の仕組みは一体どうなっているの?


毎回なんでこうも色々なものが飛びこんでくるかな。


でもこのままじゃ埒があかないから

思い切って聞いてみようか。


「あの……」


「ヒィ……」


凛桜が少し手を動かしただけで、妖精は全身を

震わせて怯えた。


完全に詰んだわ……。


でもだからと言って……

いつまでもまな板の上に座らせておくのもなんだし。


そもそもまな板は座るところじゃないのよ、うん。


でもな……

急に手を出したらそれこそ怯えちゃうだろうし。


あー、どうしたらいいの!!


完全に八方塞がりだった。


と、そこにシュナッピーが縁側から声をかけてきた。


「キューン、ギャロ、グルルギャロ」


よくわからないが、必死に葉っぱを揺らして

こちらに何かを訴えかけてくる。


んーんん?


必死さは伝わるが……

何を言っているのかさっぱりわからん!!


凛桜が戸惑っていると、妖精さんが顔をあげて

目をカッと見開いてシュナッピーを見ていた。


そしてぽつりと言った。


「本当だべか……?」


「ギャローロロ!!」


「でも……怖いっちゃ」


「グル、グルールルル、ギャ」


えぇぇぇぇぇ!?

シュナッピーが言っている事わかるの!?


なんか通じあって、会話しているし。


凛桜は驚きがとまらなかった。


そこにいつのまにかきなこ達も横に来て

お座りをして凛桜達を見上げていた。


そして決心したのか、妖精さんは震えながら立ち上がった。


えっ?


「…………」


ふぅ……と息を吐くとこう言った。


「おら……ジュエルだっちゃ」


ジュエルちゃんっていうのか。

名前も奇麗だな。


“だっちゃ”って語尾も可愛い。

某アニメのヒロインみたいだ。


そのうち、ダーリンとか言い出しちゃうのかしら

などと思った事は内緒だ。


「おら……その……」


やはり怖いのか震えながら必死に言葉を紡ごうとしていた。


「とりあえず、ここから降りませんか」


そう言って凛桜はそっと両手を合わせて

乗るように目で促した。


「…………」


戸惑うように凛桜の顔とシュナッピーの顔を交互にみた。


「グル」


励ますようにシュナッピーが力強く頷いた。

そしてそれをみたジュエルちゃんも頷き返した。


今はシュナッピーが凄くイケメンに見えるよ。

あんた、意外にいい男だったのね。


ジュエルちゃんは、恐る恐る凛桜の手のひらに乗った。




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