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85.白い妖精

田舎暮らしを始めて99日目。




この大量の野菜たちをどうしよう。

凛桜は台所で唸っていた。


昨日クロノスさん達と収穫した野菜達だ。

野菜カレーで消費したとはいえ、まだかなりたくさんある。


野菜の煮びたしでも作ろうか。

それとも南蛮漬けかな?


あ、でも鯵がないわ。

南蛮漬けには鯵が欠かせないわよね。


現在、冷蔵庫の中にあるのは鮭か……。


こんど元の世界に帰ったら、魚介類も仕入れてこないと駄目ね。

この世界の魚介類はちょっと規格外だから。


凛桜は、ホームベース程ある貝を思い出していた。


「まずは、野菜達を素揚げだな。

茄子でしょ、人参、玉ねぎ、ピーマンに南瓜……

あと以外にキュウリも美味しいのよね」


あとはつけ汁か……

色々なレシピや黄金比とかもあるけれども

我が家は、めんつゆとだし汁を1:1でブレンドして作ります。


めんつゆって本当に万能調味料よね。

隠し味にチラッといれるとなんでも美味しくなる気がする。


お酢をいれて、砂糖をいれて、鷹の爪を入れれば完成!

あとは素揚げした野菜と鮭を浸すだけだ。


3~5日くらいは美味しく食べられるからかなり重宝するおかず。


あとは何を作ろうかな……。

野菜を大量消費できるレシピって何かしら。


そのまま、彩り五目きんぴらを作り……

ロールキャベツを作り、大量のコロッケを作り……

たっぷり野菜のレモンマリネを作り終えた時にその人は現れた。


「まいど、元気にしとったか?」


キングパパとクイーンママを引き連れたルナルドさんだった。


「相変わらず、旨そうなもの作っとるな」


そう言いながら、ルナルドさんは縁側に腰を下ろした。

今日も何か背中に大きな箱を背負っている。


「ルナルドさん、こんにちは」


そんな2人のやり取りが聞こえたのだろう

もちろんすぐにシュナッピーときなこ達も飛んできた。


「おぉ、相変わらず元気やな」


2匹と1体にキューンキューン言われながら

懐かれているルナルドさん。


相変わらず動物達に大人気だ。


キングパパ達は、凛桜の顔を見るとニヤリとしながら

頭を軽く下げてきた。


「こんにちは、この前はありがとうね」


「アソビニキタ!!」


キングパパがドヤ顔でそう言い放った。


「キタ!!」


クイーンママも相変わらずのようだ。


「凛桜さんの家に行くと言ったら

ついて行くと言ってきかんのや」


呆れながらそういいつつも、2体を優しくみつめていた。


2体は貴重種の為に、普段は家の奥深くの温室で

育てられているらしい。


何重もの厳重な警備の魔法がかけられており

盗難はおろか、姿をみることもできない仕組みになっている。


だから、本当は単体で外にでる事などはありえないのだ。


きっと本人達もそれまでは外に出たいなどとも

思わなかったとも言える。


しかし神の悪戯なのか、偶然にも外に出られる機会が

訪れてしまった。


そこで凛桜達に出会って、世界がかわったのだろう。

凛桜の家にまた行きたいと訴えるようになった。


だからあの脱走騒ぎの後、ルナルドさんがお父さんに

かけあって頼んだのだという。


彼らの意見を尊重してほしいと……。


今それが叶い、おでかけ訓練をしている途中なのだそうだ。


「だから、単独で家にお使いにきたのね」


「そうなんや。

あの時は心配で心配でしょうがなかったわ。

子供はおらへんのやけど、自分の子供をはじめてのおつかいに

行かせている気分になったわ」


そう言って、大げさに泣くふりをするルナルドさんがいた。


(以外に、いいパパになりそうね)


その横でキングパパ達は、オツカイセイコウ!!

と言ってドヤ顔を決めていた。



軽くお腹が空いているというので

できたてほやほやのロールキャベツを出した。


「油揚げの料理ではないのですか」


「いや、これも美味そうやな。

油揚げ以外の料理もすきやで」


そう言いながら、テーブルについた。


「熱いから気を付けてくださいね」


「おおきに」


外で待機組のシュナッピー達にもおやつをあげた。

期待の籠った目には逆らえないわ。


今日は野菜チップスだ。

さつまいもやジャガイモ、カボチャや人参などを

素揚げしたものだ。


相変わらすシュナッピー達はもきゅもきゅ言って食べている。

美味しいのだろう、3体は既に踊っている。


きっとあとでオカワリって言うのだろうな。



その頃、ルナルドも凛桜の料理に舌鼓を打っていた。


「キャベジに肉を入れて煮込んでいるんやな。

旨いわ、なんぼでも入りそうや」


そう言って、5つほどぺろりと食べた。


ルナルドさん細いのに、本当によく食べるな。

この体の何処に入っているのだろう?


そんな事を考えていたからだろうか……

知らぬ間に食い入るように体を見ていたらしい。


「フッ……。

なんやこの中身に興味あるんか?」


そう言いながらルナルドさんは、髪をかき上げながら

色っぽい仕草で、服の第一ボタンを外した。


「えぅ……いや、ちがいますぅ」


凛桜は赤くなりながら狼狽えた。


「あまり熱い視線やったから溶けるかと思ったわ。

あんたが望むなら、なんぼでも見せたるで」


そう言ってウィンクをしながら

更にもう1つボタンを外そうとしていた。


「お……お気持ちだけでいっぱいですぅ?」


凛桜はしどろもどろになりながら答えた。


「可愛らしい反応やな。

冗談やて、ほんまにからかいがいのある人やな」


そう言って目を細めた。


(イケメンの冗談、質が悪い……)



と、縁側からオカワリコールが響いていた。


「またあいつら言うてるわ。

いつからかオカワリを要求するようになってな」


ちょっと困ったように眉尻をさげた。


「…………」


すみません、教えたの私です多分……。

凛桜は心の中で謝った。


おかわりコールがやみそうもないので

ルナルドさんに許可をもらい

更に野菜チップスを皆にあげることになった。


「キューン、グルルルルグル」


こらこら君たち自分の好きな野菜ばかり食べない。


一番人気は、やはりさつまいものチップスだ。

それだけは取り合いになっていた。


シュナッピー、人参も食べなさい……。

そっとキングパパの方によせるんじゃありません!


パパもしかたがないなという顔で食べない!

甘やかしていては、強い子にはなれませんよ。

って、私はおかんか!!


そんな横でママが無言で、ジャガイモチップスを

貪り食べていた……。


それぞれ好きな味があるのね。



凛桜が食後のデザートとしてフルーツゼリーを

出しているとルナルドが思い出したように話始めた。


「そうやった、つい和んでしもうたが

ちょっと待っててや」


そう言って、縁側に何かを取りに戻った。


「これ、ホワイトデーのお返しや」


そういって何やら小さい箱を差し出してきた。


「ありがとうございます。

開けてもいいですか?」


「ええよ」


凛桜がリボンを解いて、箱を開けると何やら瓶のような物がみえた。


取り出してみると丸いフラスコのような形をした瓶だった。

底は平らになっているので置けるようだ。


上にいくにつれて細くなっており……

入り口はコルクのようなものでふさがれていた。


中には液体が入っており、ふわふわした白い綿毛のようなものが

いくつも浮かんでいた。


「これは何ですか?」


「アナーンジュや。

別名“雪の天使”ともいうんやで」


「確かに白くてふわふわしてかわいいです」


水の中にいるのにもかかわらず、ふわっふわの球体だった。

白いマリモのふわふわ版?


「前に凛桜さんが欲しがっていたものや。

このこらは、天気によって姿が変化するんや」


「そういえば天気予報が分かる物が欲しいと

前にお話ししましたね。

覚えてくれていたのですね」


凛桜は嬉しそうに微笑みながらルナルドを見上げた。


「俺は可愛い子との約束は守る男やで」


そう言って口角を上げた。


気障なセリフが嫌味にならないのは

ルナルドさんの人徳なんだろう。


そこに間髪入れず……


「マモルオトコ!!」


「オトコ、オトコ!!」


キングパパ達の声が後ろから聞こえてきた。


思わずコントのようにずっこけるルナルドさん。


「お前らなんやそのツッコミは……

かっこつかへんやんか」


そう言いながら恥ずかしそうに頬をかいた。



アナーンジュは寒い地方にしかいない

妖精のようなものらしい。


めったに姿を現さないので手に入れるのは

難しい種族だそうだ。


しかし、ルナルドさんが偶然遭遇して

契約を交わすことに成功したので

ルナルドさんの家に何体かいるのだという。


最近、新たに増えた個体がいるので

数体が特別に我が家に来てくれる事に

なったとの事だった。


天気が晴れていると通常の白い色のままで

雨が降りそうな雲が近づいてくると灰色になるそうだ。


雪になりそうになると青くなり……

雷や嵐がくる前日には、黄金に光って点滅するらしい。


確かに天気予報にはうってつけの生物だわ。


「気のいい子達ばかりやから、可愛がってやって」


そう言ってルナルドさんは愛おしそうに瓶をゆらした。


「はい、大事にしますが……

えっと、妖精さんなんですよね」


「そうや」


「この子たちは今後、この中で増えたりするのですか?」


「いや、ここは雌ばかりだから増えない」


(雌と雄がいるんだ!!

どこで判断するんだろう?

ただの綿毛にしかみえないけど)


「餌てきなものはいりますか?

このお水も定期的に替えたりします?」


「基本的には、どちらも必要ないんやけど……

この魔法の苔をたまにあげたって。

いわゆるおやつやな。

かなりよろこんで食べるで」


そう言って、ルナルドさんは懐から黄金に光る

粉が入った小瓶を凛桜にみせた。


「ここからあげるんや」


コルクをはずして、黄金の粉を瓶の中に入れた。


すると、綿毛たちが何やらそれに群がって

嬉しそうにくるくるまわっている。


そして数秒もしないうちに、黄金の粉はすべて消えた。


「な」


「わかりました。

これ以外にも何か食べるかも知らんが

そこは凛桜さんにまかせるわ。

まだ生態が詳しく解明されていない種族なんや。

色々実験してみてや」



それから数時間、キングパパ達やシュナッピー達と遊んだ後

凛桜が作った大量の野菜のおかずをお土産に貰い

ルナルドさん達は帰っていった。


天気予報をしてくれる雪の天使を手に入れた!!




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