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83.まさかの事実!?

田舎暮らしを始めて97日目。




「で、この男は誰なわけ?」


家にやってきて、開口一番それですか?


凛桜は、お茶を注ぐ手が止まった。


「クロノスという者がいるにもかかわらず

あんたって女は……」


仁王立ちしながらその人は呆れたように首をふった……。



今日は朝から魔王様とコウモリさんが遊びに来ていた。


なんでも“ホワイトデー”のお返しを持ってきたらしく

何やら可愛らしい箱を抱えていた。


「ホワイトデーなるものには少し早いが、これをやろう」


そう言って、可愛らしい箱を凛桜に差し出してきた。


魔王様、律儀にお返しをくれるんだ。

嬉しいような怖いような。


「ありがとうございます。

さっそく開けてみてもいいですか?」


凛桜は、栗蒸し羊羹を差し出しながらそう言った。


「あぁ……かまわん」


コウモリさんも何やら小さい袋のようなものを

一所懸命持っており、それを凛桜の手のひらに

ポトリと落とした。


「これは……」


「こやつからのお返しだ。

アメリーニャという花の種だ。

桃色に輝く美しい花が咲く」


「わぁ、コウモリさんまでありがとうございます」


「キュ!」


コウモリさんも嬉しそうに凛桜の周りを飛んだ。


相変わらず魔王様は無表情で、栗蒸し羊羹を食していた。


が、口に入れた瞬間に口角がきゅっと上がったから

お気に召したのは間違いない。


そんな様子を横目にみながら、凛桜はリボンをといて

箱を開けてみた。


取り出してみると……

それは20センチくらいのガラスの箱だった。


表面には緻密な細工がされており

至る所に宝石のようなものが嵌っていた。


(宝石箱なのかな?)


「凄く奇麗ですね。

嬉しいです、ありがとうございます」


「そうか……」


魔王様はうれしそうな凛桜の顔をみてフッと微笑んだ。


(久しぶりに魔王様の微笑みを頂いた。

やっぱりこの男は色っぽい……)


どぎまぎしながら、その箱の蓋を開けると中には

可愛らしい飴がたくさん詰まっていた。


「王都で1番の菓子屋の物だ。

ホワイトデーとやらは飴をお返しするのが定番なのだろう」


「そうですね」


(えっ?魔王様

王都のお菓子屋さんに買いにいったの!?

凄く目立っただろうな……)


すると、箱の奥できらりと何かが光った。

不思議に思いそれを取り出してみるとネックレスだった。


「魔王様これは?」


「あぁ、前に渡したピアスとついになる様に作ったものだ」


確かに前に頂いた紫水晶のピアスと同じ石が

ペンダントトップについているけど……。


「この家にはたくさんの者が集うだろう。

さすれば自然とその魔力に引き寄せられて魔獣なども

よってくるからな、それを避けるためのお守りだ」


(えぅ!?

この奇麗なペンダントも魔王様の魔力の結晶なのかな

ピンチの時は投げろと言う事?)


そんな凛桜の表情を読み取ったのだろう

魔王様は悪い顔で微笑んだ。


「この前のものよりも3倍以上の力を秘めているぞ」


「えっ?」


凛桜がそのペンダントを見つめていると

シュナッピーが突然割り込んできた。


ペンダントを見るやいやな目を輝かせて

食い入るようにそれを見つめていた。


「シュナッピー?どうしたの」


「キューン、グルグルグル……」


今にも食べそうな勢いだ。


「ちょっとシュナッピーどうしたの、そんなに興奮して」


「キューン、キューン」


目がバキバキだよ、あんた。

シュナッピーがこんなに固執するなんて珍しいな。


凛桜が少し困惑しているとその人は言った。


「それはお前のものではないぞ。

決してはき違えるな、いいな」


声を荒げているわけではないが

その声色にシュナッピーはビクつき、そのまま大人しく下がった。


(かなり濃度の高い魔力なのね。

シュナッピーも思わず欲しくなったという訳か)


「どれ、つけてやろう」


そう言って凛桜の頬に手をかけた。


その時だった。


「ちょっと待ったぁぁぁあ!!」


ハスキーボイスが辺り一面に響き渡った。




で、縁側に今二人仲良く……。

仲良くではないな……。


一方はきなこを抱きながら、もう一方はシュナッピーに

懐かれながらお茶を飲んでいる。


(何、この針の筵のような時間。

どうしてこうなった?)


凛桜は顔を引きつらせながら突撃の訪問者

レオナに桃のヨーグルトプリンを出していた。


「太らない素材で作っていますので

レオナさんが食べても安心ですよ」


「ん」


ジト目で凛桜を見ながらも、渋々とそれを受け取った。

が、一口それを食べた途端……態度が豹変した。


「本当!

さっぱりしていて美味しいわねこれ」


レオナは嬉しそうに尻尾を左右に振って

ぱくぱく食べていたが、ふと我に返った。


「て、違うわよ!

危うく騙されるところだった。

この男は誰なのよ!!」


そう言いながら、縁側をバシバシ叩いた。


言われた魔王様は動揺することなくレオナを見つめていた。


「な……なによ……」


流石のレオナも美丈夫な潤しい男に見つめられて

若干赤くなり狼狽えていた。


そしてぽつりと言った。


「フ……面白い」


「は?」


「えっ?」


凛桜とレオナは首を傾げた。


「色々な者をみてきたが、お前のような面妖な輩もいるのだな」


そう言って目を細めた。


「…………!!」


レオナはこぼれんばかり目を見開いていた。


美しいとか可憐などと言う賛辞は浴びるほど受けてきた者だ。

まさかその逆を言う評価を言われたことはないのだろう。


唇をわなわなと震わせながら拳を握っていた。


「失礼ね、この完璧な私の何処が面妖なのよ」


そう言ってレオナは魔王様に詰め寄った。


「言葉のままだが?」


2人はそのまま睨みあっている……。


ちょ、ちょっと待って?

この流れは何?


えっ?えっ?


1人置いてきぼりを食らっている凛桜は困惑していた。


すると魔王様はパチンと指を鳴らした。


と、同時に大量の水がレオナに降り注いだ。


「ちょ、何しやがるてめぇ!

つめてーじゃねーかよ!!」


びしょ濡れになったレオナさんは……

かなりドスの聞いた声でそう叫んだ。


「魔王様!!なんてことを。

大丈夫ですか?

今、なにか着替えられるものを持ってきますね」


そう言って凛桜が家の中に入ろうとしたが

それをレオナが手で遮った。


「えっ?」


頭から雫を垂らしながら俯いていたレオナだったが

開き直ったのだろう。


次の瞬間、信じられないことを言った


「いい、面倒くさいからここで脱ぐわ」


そう言って、ドレスに手をかけた。


「いやぁぁぁぁ、駄目だから。

女の子が人前でそれはアウトだから!!」


焦る凛桜をしり目にレオナは潔くドレスを脱いだ。


「やーめーてー」


凛桜はそのままレオナに抱き着いた。


「おわ……」


2人は地面に倒れ、凛桜がレオナを押し倒す形になった。


「って、ててて。

いきなり飛び込んで来ないでよね」


「ごめんなさい、だって」


そう言いながらレオナをみた瞬間息が止まった。


「…………!!」


そう、全く胸がなかった。

まっ平だ!!


Aカップだからとかそういう問題ではない。


この体は()()()だ!!


「ったく、他人で俺を男だと見破ったのは

あんたが初めてだよ」


そう言いながら、いらだたし気に頭をガシガシかいた。


「男の人なの?」


凛桜はまだ現実を受け入れられなかった。


あの可憐な美人さんが男?

この国のトップモデルさんが男?


「どうしてわかった?」


そうレオナが問うと、魔王様は苦笑しながら言った。


「男と女では波動が違うからな。

他の者はしらないが、我の目はごまかせん」


そう言って、何事もなかったように

桃のヨーグルトプリンを一口食べた。



とりあえずそのままではまずいので

家の中に上がってもらい、何か着られそうなものを

クローゼットから探していた。


その間、レオナはタオルで髪を拭きながら

しかめっ面をしていた。


「なぁ、あの人は一体何者なの?」


レオナはこっそり凛桜に聞いてきた。


「あの人は、魔王さまです」


「へぇー魔王ねぇ」


一回は軽く流したレオナだったが、凛桜の顔を二度見した。


「今なんて言った!?」


「だから魔王様です、あの方」


「はいっっっっ!?」


レオナは信じられないくらい残念な顔になっていた。

それくらい驚いたのだろう。


「あんた、魔王とも付き合ってるの?

クロノスと魔王を二股!?

人族の固定観念って、どうなっているわけ!!」


かなりの勢いで詰め寄られて捲し立てられても……。

困るのですが……。


男の娘だったあなたがそれを言いますか!?


「いや、どちらも違いますから。

全くの誤解です!!

魔王様は祖父の友人なんです」


凛桜は苦笑しながら答えた。


「恐ろしいわね、人族は」


顔面蒼白にしながら、いやいやと言わんばかり

頭を振っていた。


「フッ…………」


その様子を見ながら、更に楽しそうな魔王様。

否定してくださいよ、魔王様。


「怖いわ……人族って何気に最強なの?」


いや、なんか違うから。

人の話を聞けよ!!



結局その日は、何も決着も納得もしないまま

2人はそれぞれ帰っていった。


それでもお土産は2人ともしっかりと

持って帰ったけれどもね。


言わずもがな、魔王様は栗蒸し羊羹を5本とお茶の葉を。

コウモリさんの為に、新鮮な桃を4つ。


レオナさんは、桃のヨーグルトプリン3つと

鶏ささみと梅しそのロール巻、おからとつくねのハンバーグを

持って帰る事になった。


帰り際……

何故だがよくわからないが、励ますようにコウモリさんが

人差し指をぎゅっと握ってきた。


「キュ……」


ありがとう、ほっこりしたわ。

この中で一番常識人は、コウモリさんなのかも知れない……。


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