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82.幻の種族なんですよね?

田舎暮らしを始めて96日目。




今日は珍しく、夕方になってからクロノスさん達が来た。


どうやら臼と杵を返しに来たらしい。

そう言えば貸していたわね。


無事に生産ラインに乗せることが出来たので

お礼と共に戻ってきたのだった。


今回のお礼は、モフモフのリアルファーを使った

ピ〇チューとイー〇イのぬいぐるみだった。


「…………」


毛並みがリアル過ぎやしませんか?

目には宝石が嵌っているし……。

一体なんの魔獣の毛なんだろう。


とりあえず抱きしめてモフモフしてみた。


「陛下がたいそうあの動物を気に入ってな。

国一番の人形制作師に作らせたものだ。

陛下も同じものをもっているらしいぞ」


「そうなんだ……。

ありがとうございますとお伝えください」


若干半笑いで答える凛桜であった。


きっと貴重な材料と労力が詰まっているんだろうな。

制作にかかわった全ての人にお礼を言いたい。


まさかこんな得体のしれない人形制作を

依頼されるなんて、夢にも思わなかっただろうに。



と、急にクロノスが咳払いをした。


「コ……コホン……。

ところで凛桜さん、あれはなんだ?」


引きつった表情である一点を見つめるクロノス。

カロス達も同様にそいつを凝視していた。


「あー、やっぱり気になりますよね」


凛桜も同じようにその方向を見ていた。


そこには、寝転びながら熱燗をあおり

アタリメを食べながら、時代劇をみているボルガがいた。


「あれって、フリーゲントープですよね」


確かめるように何度も瞬きをするカロス。


「えっ?あの幻の種族のフリーゲントープっスか!?

俺、実物をみるのは初めてっス」


ノアムも興味深々で見つめていた。


「そうなの。

どうやら祖父の飲み友達らしくて」


「えっ?飲み友達ですか!?」


カロスもノアムもかなり驚いているようだった。


「本当に凛桜さんの爺様は規格外だな……」


そんな熱い視線に気が付いたのだろう。

いきなりむくりと起き上がると面倒くさそうに

頭を掻きながら言った。


「あっ?なんだ兄ちゃん達」


クロノス達を順番にみた。

そして何かを悟ったのか……

凛桜の顔を見ながらニヤニヤしながら更に続けた。


「おっ!あれか、凛桜のこれか?

どいつだ、まさか全員か?

かー、お前も隅におけねぇな」


そう言って、豪快に笑いながら膝を叩いた。


「いや、違うから。

クロノスさん達に失礼でしょう、このエロモグラが」


酷く冷淡な声色でそう告げた。


「照れんなよ」


全くこたえてないらしく、愉快そうな声でそう言ってくる始末。


「照れてないわ!」


3人は目が点になっていた。


まさかフリーゲントープがこんなにも親父キャラ

だとは思わなかったのだろう。


現実と思い描いていたギャップの差が激しかったのだろう

3人はしばらく固まっていた。


ボルガは思案するようにクロノスの顔を見ていたが

その正体を思い出したのだろう。


やがてポンと膝をうって言った。


「おっ、兄さん確か現在の騎士団長だろ。

見たことあるぜ」


その言葉でクロノスは我に返った。


「あ……ああ

第一騎士団団長のクロノス=アイオーンだ」


「アイオーン家の者か……

昔、一戦交えたことがあるぜ。

確か、オーガスト=アイオーンとか言ったかな」


「うちの爺様だ……」


驚いたようにクロノスは目を見開いた。


えっ?あなたお幾つですか!?

そんなに長寿なの、フリーゲントープって?


「なかなか骨のある男だったぜ」


その時の事を思い出しているのだろう

うんうんと頷いていた。


「そうですか、爺様と面識があったのですね」


ボルガはクロノスを上から下までじっくりみると

瞳を光らせて好戦的な口調で言った。


「兄さんもなかなかやりそうだな。

どうだ、一戦やるか」


「はいっ?」


聞き捨てならないことを言われて、クロノスは

ぎょっとしながらボルガを見下ろした。


「くー、団長とフリーゲントープの一戦ッスか

見たいッス!!」


目を輝かせて尻尾を左右にふって興奮するノアムがいた。

カロスも静かに拳を握っていた。


「ちょ、ちょっと待って。

家では争いごとは禁止ですよ」


凛桜が慌てて止めると、ボルガがつまらなそうに言った。


「ちぇ、なんでぇ。

男のロマンがわかんねぇ嬢ちゃんだな」


「わからなくて結構です。

そういう事言う人には、もう日本酒は出しませんよ。

今日だっていきなり来て、いつものくれよって。

()()()()()()()()()のですからね!」


「そりゃねえだろう、殺生な。

な、兄さんからも言ってくれよ」


そう言われて困ったように眉尻をさげるクロノス。


「いや……その……」


歯切れの悪いクロノスに呆れたような視線を投げると

ボルガは詰め寄って言った。


「なんだい、天下の騎士団長ともあろう男が

もう番になる前から、尻にひかれてんのかい」


「えっ?いや、凛桜さんとはそういうのでは」


真っ赤になりながらしどろもどろになっていると

更に詰め寄られていた。


「なに、ぐだぐだ言ってんだ。

気に入った女がいたら、迷わずモノにしろ。

そうしないとすぐに横からかっさわれてしまうからな」


そう言って、にやつきながらクロノスの足を

バシバシ叩いて鼓舞していた。


「はぁ……」


鼻息荒くそう言われ、クロノスは若干引いていた。

カロスに至っては、絶句の表情でボルガをみていた。


「フリーゲントープの親父さん言うっスね。

ほんと、その通りっスよね。

押しは大事ッスよね」


ノアム1人だけが賛同していた。


「お、兄ちゃん若いのに話が分かるじゃねぇか」


何気に二人は意気投合して、ハイタッチを決めていた。


「黙れ、エロモグラ。

これ以上いったら、この家を出禁にするからね」


「気が強い女だな、全く。

うちの母ちゃんより怖いぜ。

ま、そんな女も嫌いじゃないけどな」


そう言ってドヤ顔を決めていた。


もういいから、帰ってください。

そしてできれば、もう訪問は果樹園だけに留めてください。

凛桜は心の底からそう願った。



が、その後もボルガは、時代劇のでーぶいでーを

見せてくれと言って……

ちょくちょく遊びに来るようになるのだった。


でーぶいでーって……

じいちゃんのDVDコレクションの巻数と内容を

バッチリ把握していますよね!?


「嬢ちゃん、今日は“魔王”を飲ませてくれや」


日本酒の銘柄も詳しすぎて引くわー。

先日は、“越乃寒梅”だったっけなぁ……。


「かー、五臓六腑にしみわたるねぇ」


そういいながらCMにでも出られそうな飲みっぷりで

日本酒を堪能していた。


器用におちょこから日本酒を飲むモグラ

シュール過ぎる……。


おつまみは焼き鳥がいいというから

今日は焼き鳥をお出ししましたよ、えぇ。


すると何を思ったのか急にボルガは言い出した。


「なぁ、嬢ちゃん。

今度から俺の事は“弥七”と呼んでくれ」


「はっ?」


いや、あなたボルガさんでしょうが。


「カッコいいよな、風車の弥七」


そりゃそうでしょう、隠密だもの。

ピンチの時に現れて、バッサバッサと敵を倒して

サポートするのが仕事の一流の忍びですよ、弥七様は。


「くぅ~シビれるねぇ」


「…………」


時代劇に影響され過ぎだから!!


「そんな目をしても呼びませんよ、ボルガさん」


「なんでい、呼んでくれよ、な、な」


目の前でじたばたして拗ねているモグラが一匹……。


本当に幻の種族のボスなんだろうか……。


じいちゃん、友達のクセが強すぎますから……。


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