表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/219

81.えっ?友達なの!?

田舎暮らしを始めて94日の深夜~95日目の早朝。




フリーゲントープという空飛ぶモグラ達が

うちの果樹園を荒らしていた……。


どうやら夜中に土の中から這い出してきて

木に生っている果物を食してから

また日の出と共に、土の中へ帰っていくらしい。


だからクロノスさんの結界も越えられたのね。


土の中は常にたくさんの生物が生息しているし

1匹1匹はさほど大きな魔力を帯びていない。


でもこいつは違う。

かなり他の子よりも大きいもの。


凛桜は、目の前の巨大モグラを見つめていた。

60センチはあるかな!?


他の子達は10センチ前後なのに。


イカツイ……。

昔気質の現場監督と言ってもいいくらいの風貌だ。


モグラのくせに腹巻しているし。

その上に丸眼鏡サングラス……。


「…………」


巨大白蛇の親子にモグラ達はすべて捕獲されたのだが

どうもおかしい……。


(なんだろう、このふてぶてしさ……

大きさ、力を見ても勝てる見込みのない相手と

対峙していると思うのだけれども……)


相変わらずフリーゲントープのボスらしきモグラは

胡坐をかきながら悪態をついている。


「白蛇の旦那よ、これは横暴じゃねえか。

俺達は盗人じゃねぇぞ」


そんなことまで言い出した。


(はい?まだ言うか!)


凛桜は目を剥いた。


「ほう……」


巨大白蛇さんは愉快そうに目を細めた。


「盗人猛々しいとはこのことだね。

ねぇ、もう食べちゃってもいい?」


白蛇ちゃんは目を三角にして怒りながら

フリーゲントープ達を睨みつけながら大口をあけた。


その迫力に、ミューミュー言いながら檻の中の

フリーゲントープ達が慄き泣き喚いた。


「おっと、白蛇の坊や。

それは聞き捨てならねえな。

そっちがその気なら、こっちもそれなりにやるぞ」


「はぁぁぁぁ?」


これには流石の凛桜も堪忍袋の緒が切れた。


「あんたね、いいかげんにしなさいよ」


「あぁ?」


ボスモグラはそこで初めて凛桜の方をみた。


「なんでぇ、お嬢ちゃん。

左右にイヌッころなんか引きつれて。

水戸黄門かってんだ」


フン、と鼻を鳴らしながら嘲笑した。


(えっ?

今このモグラなんて言った!?

水戸黄門?

えっ?えぇぇぇぇえ!!)


何の事なのかわからなかったんだろう

巨大白蛇親子は首を傾げている。


「あなた……もしかして……」


凛桜は絶句していた。


「俺達はな、ここの土地の正当な持ち主から

いつでもここの果物を食べていいという

お墨付きを貰ってんだ」


鼻息荒く噛みついてきた。


「正当な持ち主だと?」


巨大白蛇さんが訝しむようにモグラを見下ろした。


「あぁ、ブルームーンというくえねぇじじいだ」


はい、じいちゃんの知り合いきた!!


凛桜がげんなりした顔でボスモグラを見つめていると


「そういえば、最近見てねぇな。

またどこか旅にも出てんのか、あのじじい」


そう言って苦笑した。


「その方とはどういうお知合いで?」


凛桜がそう問うと、巨大モグラは歯をみせながら笑った。


()()()()()よ。

じじいが出してくる酒は珍しい酒でな。

確か日本酒とかいうやつだったな、これが美味いんだわ。

その酒を飲みながら、女の話やら賭け事の話……

くだらねえ事を話ながらよく一杯やったもんよ」


(じいちゃん、モグラと酒を酌み交わしてたんかいっ。

話の内容が下世話すぎる!!

典型的な親父だな、このモグラ……)


「水戸黄門や暴れんぼうなんとかとかいう

どらまとかいうのもよく一緒に観た仲よ。

ありゃぁ、よくできたからくりの箱だよな」


(なにをしてんのよ、親父2人で……

時代劇好きのモグラって……一体……)


「初めてあったのも、ここの桃の木の下だったな。

“夜の花見”とかいうやつをしていたよ」


じいちゃんらしいわ。

何処の世界にモグラと一杯やる人がいるのよ。


「そこで意気投合してな。

そこから会うたびにちょいちょい2人で一杯やってたぜ」


そう言って豪快に笑った。


どういう事だと巨大白蛇親子が凛桜に目で訴えてきた。

凛桜も困ったように眉尻を下げた。


「そういや、あんたも人族だな。

じじいの知り合いか?」


「私はブルームーンのじじいの孫です。

蒼月凛桜といいます」


「じじいの孫か、そう言えば目元が似てるな。

じじいは元気か?」


ボスモグラは急に表情が柔和になり

親しみの籠った瞳に変わった。


「じじい……祖父は数か月前に亡くなりました」


「…………!!」


ボスモグラは目を見開いた後、空を見上げた。


「じじい……空の彼方にいっちまったか」


そうぽつりと言うと急に大声で泣き出した。


「じじい……寂しいじゃねぇかよ……。

もう一度……もう一度あんたと……酒を酌み交わしたかった。

じじいぃ…………っ、ちくしょう……」


それにつられて檻のモグラ達も一斉に鳴き始めた。


(えっ?えぇぇぇぇぇ、感情の起伏が激しくない!?

どういう心境?)


巨大白蛇親子の二人も突然の出来事にあっけに取られていた。


モグラ達はひとしきり泣いた後……

全員が凛桜に向かって頭を下げた。


「そんなこととは露知らず、すまなかった嬢ちゃん」


「いえ……。

私もまさかモグラさん達が祖父の友人とは知りませんでした。

そんな約束を交わされていたんですね」


「ぐす……ああ」


そこで巨大白蛇さんに頼んで、皆を解放して貰った。


「そういうことでしたら……

またいつでも食べにきてください」


凛桜がそう言うと、また顔を歪ませながらボスモグラは

凛桜の手を取って泣き出した。


「かたじけねぇ……」


(けっこう爪がするどい……

握るのがちょっと怖い……)


ドキドキしながら手を握り返した。



夜明けも近いので、ひとまずモグラ達はまた

土の中へと帰っていった。


(やっぱり光には弱いのね……)


モグラ達は身体が小さいので、一気に果物をたべられないので

2~3日かけて1個食べるらしい。


なので、残りの果物もちゃんと食してくれるとの事だった。


最後にボスモグラは言った。


「俺はこの群れを率いている“ボルガ”だ。

じじいにかわってよろしくな、嬢ちゃん」


「はい」


「白蛇の旦那、坊主もすまなかった」


「あぁ」


「…………」


坊主と言われて白蛇ちゃんは面白くなかったのだろう

こくりと頷いただけだった。



「なんか、お騒がせしてすみません」


凛桜が2人に謝ると、巨大白蛇さんはクスッとわらった。


「いや、面白い知り合いが出来た。

こちらこそ礼を言う」


その発言に凛桜も白蛇ちゃんも不思議そうな顔をした。


「なぜですか、父さん、あんな無礼なやつ」


「ククク……確かにそうだな。

だが、フリーゲントープのボスは

めったに遭遇することはない」


「えっ?」


あんな柄の悪い親父モグラが!?


「それに、フリーゲントープの肝は貴重でな。

少量でビッグサングリアの息の根を一発で

止めることが出来るほどの猛毒だ。

その筋の者なら、喉から手が出るほど欲しいものだろう」


(ヒィィィ、怖い、怖すぎる)


それを聞いて何か考え込む白蛇ちゃん。

無表情なのがまた更に怖い。


あっ、今ちょっと悪い顔で微笑んだ。

白蛇ちゃん、皆仲良くね!ね!


密かに凛桜は心の中で平穏を願った。


「フリーゲントープがいつく土地は、通常よりかなり

魔力の帯びた作物ができるのだ。

それに、珍しい薬草をやつらはいくつも巣の中で栽培している。

知り合いになっていて損はない」


「そうなのですか……」


それでも白蛇ちゃんは納得いっていないようだった。


だからうちの果物は魔力が豊富だって魔王様も

言っていたのか!!

今さらながら納得だよ。


この後、卵尽くしの朝食を食べて

大量の煮卵と卵たっぷりの蒸しパンをお土産に

巨大白蛇親子は帰っていった。


「凛桜……

ご褒美は今度また2()()()()()()()に貰いに来るね」


危うい発言とは正反対に……

爽やかな笑顔を浮かべながら白蛇ちゃんは手を振っていた。


「あ……うん……」


(一体何を乞われるのだろう)


内心ドキドキしていた凛桜であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ