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80/219

80.状況はちゃんと把握しましょうね……

田舎暮らしを始めて94日目。




朝早く果樹園から凛桜の絶叫が響いた。


「なんじゃぁあああ、こりゃぁあああ!!」



その声の大きさに、いつもの定位置で眠っていた

シュナッピーが一発で目を覚まし……。


縁側でだれて横になっていたきなこ達も

ビクッとなり飛び起きたくらいだ。


昨日の続きではないが、今朝も早くから凛桜は

意気揚々と1人で果樹園に向かっていた。


桃とリンゴがちょうど食べ頃になりそうだからだ。


「楽しみだな~。

ついたらさっそく桃をひと齧りしようかな」


残りはどうしようかな、コンポートにするのもよし

ピーチパイとかも捨てがたいよね。


なんてスキップでもする勢いで果樹園に一歩

踏み入れた時だった……

想像を絶する情景が目の前に広がっていたのだ。


何故か桃の木に実っている食べごろの桃達が

下の部分だけ齧られていた。


しかもりんごも同じように、一部だけ齧られているのだ。


その数、果樹園の3分の1程の木がやられていた。


凛桜は膝から崩れ落ちた。


(どこのどいつよ!!

こんな非道な事するなんて!!

果物に対する冒涜に等しいわ!!)


凛桜は怒り狂っていた。


美味しいところだけ一口齧ったようだった。


どうせなら全部奇麗に食べなさいよ……

って、それも違うけれど、うん。


ないわーこれは、ないわー。


魔獣の仕業なのかな?

クロノスさんの結界を超えられるほどの強い魔獣?


でもそれならば、シュナッピーや黒豆達が

気配を察知するはずだし。


こんな広範囲に被害が出ている所を考えると

1匹や2匹のはなしじゃないよね。


一晩でこれよ?


それにしても酷い……。

もうこの全てが廃棄だよ……。


齧られたところを中心にどす黒く変色していた。

とてもじゃないが、もうたべられないだろう。


と、凛桜が途方にくれていると後ろから声がかかった。


「凛桜、そこにいるの?」


聞き覚えのある声に振り向くと……

巨大白蛇さん親子がシュナッピー達を引き連れて

果樹園に入ってくるところだった。


「白蛇ちゃん……」


凛桜は巨大白蛇の親子を見た途端、気が緩んだのか

ぽろりと涙があふれた。


「凛桜!?どうしたの」


白蛇ちゃんが急いで駆け寄ってきた。


「うー……」


こうなったら涙が次から次へと溢れて止まらない。


「何があったの?

誰が凛桜を悲しませているの?

そんなやつ僕が許さないよ」


そう言って、白蛇ちゃんは怒りの為だろうか

奇麗な美少年の顔から右半分だけが……

恐ろしい蛇に戻りつつあった。


「そう逸るな、息子よ」


その後ろから、優雅に巨大白蛇さんが歩いてきて

2人の前までやってきた。


「だって、凛桜がこんなにも悲しんでる」


「ぐすっ……ありがとう……白蛇ちゃん」


凛桜は泣きながら唇を嚙み締めた。


「悲しいわけじゃないの。

どちらかというと悔しくて涙がでちゃったの」


「えっ?」


凛桜のまさかの発言に、一瞬呆気にとられていた。


「この惨状をみて!!

何処の誰かはわからないけれど……

食べ物を大事にしない人は許せないの!!」


凛桜は拳を握りしめて、そう叫んだ。


「…………」


そこで改めて、巨大白蛇の親子は辺りを見回した。


「なるほど、何者かがこの果樹園を荒らしたのだな」


巨大白蛇さんは、何かを確かめるように

周囲の空気の流れをよんだ。


「ふむ……。

微かだが魔獣の匂いがするな」


白蛇ちゃんも同じように鼻をひくひくさせている。


「匂いでわかるの?」


「あぁ……我々蛇族の嗅覚はかなり鋭い」


そう言えば、蛇は嗅覚が鋭いって聞いたことあるな。

匂いを司る専門の器官が備わっているとかだったかな

確か犬と同等かそれ以上なんだよね。


異世界の蛇族の二人だから、更に凄いのかも。


感心しながら見ていると、巨大白蛇さんが眉を顰めながら

桃の木の下の土を凝視していた。


「何かわかりましたか?」


「あぁ……、ちょっとこれは厄介なやつらかもしれん」


「えっ?」


シュナッピーも何かを感じ取っているのかソワソワしていた。


「きっと今夜も現れるだろう。

その時に我らが一網打尽してやろう」


そう言って、青い目を光らせながら舌なめずりをした。


(ヤバイ、これは完全に捕食する気だ……)


凛桜は内心ドキドキしながらも、よろしくお願いしますと

頭を下げたのだった。


そのまま、家に戻り……

お約束のように卵尽くしのランチを食べた。


その後は、各々自由に過ごし……

夜になったので、夕飯も卵メニューでいいかと聞いたところ


今日はあとで()()()()()()()()事になるので

軽くゆで卵だけでいいとおっしゃるのでその通りにした。


後でガッツリ……

深く追求することは控えました、はい。


更に夜がふけたころ、巨大白蛇さん達と共に

果樹園に足を踏みいれた。


かなり気配に敏感だということで、きなこ達はお留守番だ。


凛桜は気配を悟られないために、蛇モードの白蛇ちゃんの背中に

乗っている状態だ。


シュナッピーは果樹園から1匹も逃さないように

入り口で待機を命じられた。


どうやら素直に指示に従うようだ。


2人には、戦いに負けてガッツリと身を齧られた

という過去があるから、きっと逆らえないのよね。


妙にしおらしいシュナッピーがそこにはいた。


頑張ったら、後で魔獣の欠片あげるからね。

そう言って、優しく頭をなでた。


キューン、キューン言いながら甘えて鳴いていたよ。


するとそれを横でみていた白蛇ちゃんまでもが参戦してきた。


「凛桜、僕も頑張るから……

ご褒美が欲しい」


そう言って甘えるように上目づかいで見つめてきた。


こんな美少年にそんな懇願されたら

お姉さん……困ってしまうわ。


ハートを打ち抜かれながらも、凛桜はにっこりと

微笑んで頷いた。


「もちろん、いいわよ。

何がいいのかな?巨大卵焼きとか?

あっ、それともバケツプリンとか?」


凛桜がそういうと、少し拗ねたように言った。


「そんな子供みたいなご褒美が欲しいわけじゃないから」


「えっ?じゃあ……なんだろう?」


「フフフ……それは後で……ね……」


意味深にそう言うと、今度は妖艶に微笑んだ。


その時、先に進んでいた巨大白蛇さんから声がかかった。


「お前たち、軽口はそこまでだ。

気配が濃くなってきた、そろそろ現れるぞ」


「はい……」


3人は果樹園の入り口にある、おおきなリンゴの木の陰に

息を潜めて隠れていた。


今日は満月がぽっかりと浮かぶ星の奇麗な夜だった。


凛桜は、月が奇麗だな。

などとぼんやり考えながら空を見上げていると

なにか黒い影がシュッと横切った。


えっ?

今何か飛んだ?


気のせいかと思っていたが、次々と何かが空を横切っている。


最初は2~3匹だったが、それがあっという間に

数十匹に増えていた。


(何これ、モモンガ的なやつ?

空からくる魔獣なの?)


凛桜が不思議そうにそれらを見つめていると

やがて至る所から、シャクシャクと果物を齧る咀嚼音が聞こえてきた。


「やはり、あいつらか……」


そう呟くと、巨大白蛇さんは人型から蛇モードに戻った。


口を大きくあけたかと思ったら……

目に見えないなにか空気の波動みたいなものを果樹園全体に発した。


すると木の上にいたであろう、その魔獣達がポロポロと

そのまま地面に大量に落ちてきた。


どうやら波動に当てられて、目を回しているようだ。


そのまま巨大白蛇さん達は、器用に尻尾を使い

その魔獣を袋の様なものに詰めていった。


数にして、大きな袋が3つもできた。


そして、その中でもひときわ大きな魔獣を縄で縛り

そのまま凛桜の家へと連れてきた。



「…………」


家の明かりの下でみたそいつは、モグラのような魔獣だった。


袋の中の魔獣もすべて巨大白蛇さんが作り出した

結界の檻の中に入れられた。


ざっと50匹はいるだろうか……。

毛色がピンクのものや青いものがいた。

それよりも、後ろに羽のようなものが生えているのは何故?


まさかあれで飛んでいるの?


しかも、ひときわ大きい青いモグラもどきは

丸いサングラスのようなものをかけているし。


これでヘルメット被ったら、工事現場にある

看板に描かれているお約束なモグラの出来上がりだよ。


いる?それ?

夜に活動するってことは、君たち夜行性でしょう。


ツッコミどころは満載だけれども

ひとまず巨大白蛇さん達の話を聞こう。


「凛桜の果樹園を荒らしていたのは……

やはり“フリーゲントープ”だ」


「えっと……」


いや、名前だけ言われてもわからない。

勉強不足ですみません……

後で魔獣図鑑を見てみます。


凛桜の微妙な表情をみて、白蛇ちゃんが空気をよんだのだろう

詳しく説明してくれた。


「こいつらはね、普段は地中に暮らしているんだけど

子育て期にだけ地上にあがってくるんだよ」


「はぁ……」


「今がその時期なのかもしれん。

しかし人目につくところにはめったに出てこない

大人しい臆病な魔獣なのだが……」


そう言って、おそらくボスであろう魔獣を

横目でチラリとみた。


力の差は歴然だったので、しおらしく謝るのかと

思っていたら……

そいつはふてぶてしく、巨大白蛇さんを睨み返した。


そしてドスの聞いた声でこう言った。


「縄をほどけや、コラァ!!

聞いてんのか、この白蛇野郎」


うそでしょう、この状況わかっていますか?


(また喋る魔獣きちゃったよ……。

どうしてこう、みんな口が悪いかな……)


凛桜は終始ぽかんとしているばかりだった。


「ほう……我にそんな口をきくとはな……ククク……

よっぽど命が惜しくないとみえる……」


そう言いながらもひどく愉快そうに巨大白蛇さんは

モグラ魔獣を見下ろしていた。


スプラッタ的な展開は、ここではお控えください。

そう祈るばかりだった。




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