76.女子が好きなものは一緒
田舎暮らしを始めて92日目。
凛桜は優雅にソファーに座り……
ロイヤルミルクティーを飲みながら
ファッション雑誌(異世界Ver)を手にしていた。
お茶のお供には、レーズンバターサンドを用意しました。
実は干しブドウが好きじゃないのだけれども
これだけは何故か美味しく頂けるのよねぇ。
キングパパ達が初めてのお使いで持ってきてくれた雑誌
図鑑、料理本2冊とファッション雑誌1冊だ。
図鑑は見本通り厳つい表紙だったよ。
写真でみるよりかなりリアルだったよ……。
真っ赤な血のような液体が滴っている
棘がびっしりついた黒いユリのような花が
もうそれがリアルで……。
パラパラと中身をちょい見したけれども
あーうん、可愛いものからグロイ物まで
網羅していたよ。
一冊目からこれを読むのはきついな、うん。
料理本は、薄い雑誌と結構厚めの本がきた。
恐らく薄めの雑誌は、今日の料理的な月刊誌だろう。
分厚い料理本の表紙には……
ふくよかなトラ獣人のおじさまがフライパンを持ちながら
いい笑顔で表紙を飾っている。
あっ!この人……
鷹獣人のおじさまことグラディオンさんと毎回家にくる
料理番のおじさまじゃないか!!
へぇ、この国を代表する有名な料理家なんだ。
「…………」
って、そんなプロにホットケーキやハンバーグを
かなりスパルタ式で教えていたの私ってば!?
ちょっと現実に置き換えたら恐れ多くて
背中に冷汗をかいちゃったわ。
知っちゃったからには、今度顔を合わせるのが
気まずいなぁ……。
気持ちを落ち着かせるために、ロイヤルミルクティーを
一口飲んだわ。
あーこれ、本当に好きだわ。
結構家でもお店みたいな本格的な味を入れられるのよ。
ティーバッグでもいいのよ。
それなりに美味しいものができるのから。
でも私はあえてこの時は、茶葉を使って入れています。
アッサムの茶葉をティースプーンで大山に1杯もって
小さいボールに入れます。
茶葉はケニヤやセイロンウバでも美味しいらしい。
完全に沸騰した熱湯を茶葉が、ひたひたになるくらい注ぐ。
これは茶葉を完全に開かせるための大事な事だ。
次は、鍋に牛乳と水をいれて火にかけます。
だいたいだけれども、牛乳150㏄と水は50㏄くらいかな。
ミルクっぽくしたければ、もう少し牛乳の量を多めにしても
いいかもしれない。
沸騰する直前に先ほど開かせた茶葉をどーんと鍋にいれます。
軽くかき混ぜてから、蓋をして3分程蒸らします。
十分に蒸らしたら、茶こしでこしながら注いだらできあがり!
後は、生クリームを浮かべるのもよし
蜂蜜を垂らすのもよし
好みで色々いれて、自分好みの味にするのも楽しいよね。
この時に大事なのは、ティーカップを温めておくこと
これだけでも格段に美味しさがかわるのだ。
よし、気分もあがったところで、ファッション雑誌から読もうかな。
表紙の形態は、元の世界もこちらの世界も同じようだ。
お人形さんみたいに可愛いユキヒョウのモデルさんが
ポーズを決めて微笑んでいる。
やっぱり獣人さんは可愛いな……。
こちらの世界の人気モデルさんだろうか。
読み進めてみると、流行りの洋服やらコスメの特集。
王都のおしゃれカフェのレポート記事などが載っていた。
どこの世界も女子が好きなことは同じなのね。
そんな事を思いながら次のページを捲った瞬間
凛桜の手が止まった。
「うそぉ…………」
動揺のあまりロイヤルミルクティーを零しそうになった。
それは恋人にしたい男性ランキングの特集だった。
なんと我らの騎士団長ことクロノスさんが第1位に
ランクインしていた。
コメント欄を読むと……
あのクールなまなざしが堪らないとか
どんな女性相手でも態度が変わらないのが素敵とか
侯爵様なのに気さくなど
たくさんのコメントが寄せられていた。
クールな眼差しね……。
凛桜にはいつも笑顔でちょっぴりざんねんなクロノスの姿
しか思い浮かべられなくて苦笑してしまうほどだった。
因みに第2位は、僅差でシリルさんだった。
この二人は毎回1位と2位を争っているらしい。
第3位は、トラ獣人の武官の方か……確かにイケメン。
4位は宰相補佐の狼獣人の方だ。
5位はなんとルナルドさんだった!!
しかも、10位にはカロスさんまで入っている。
それにランク外だったが、注目ルーキーの所に
ノアムさんが入っていた。
可愛い、弟に欲しい!
などお姉さま方からの人気が絶大との事だった。
それはなんかわかる気がする。
あの人懐っこさにやられちゃうのよね。
凄い!知り合いがこんなにもランク入りするなんて!!
次のページにはクロノスさんとシリルさん特集が組まれているし。
あーこのインタビュー記事が対照的なのがなんだか
2人の性格を表しているな。
クロノスさんのそっけなさに対して、シリルさんの丁寧な回答。
好きな食べ物はなんですか?
クロノスさん:うまいものがいい。
シリルさん:リシャール亭のシャンピニオンの蒸し焼き
テラコーヌソースを添えたものが好きですね。
好きな女性のタイプは?
クロノスさん:考えたことはないな。
シリルさん:笑顔の素敵な方がいいですね。
欲を言えば一緒に向上していける間柄だと
なおいいですね。
万事がそんな感じだった。
インタビュアーの人困っただろうな。
クロノスさんの仏頂面が目に浮かぶわ。
おう……
次は恋人にしてほしいこと特集か……。
なになに、上手な求愛の毛づくろいの仕方!?
獣耳の付け根や尻尾の先から優しく撫でながら
スキンシップをはかりましょうだと!
そのまま頬を寄せ合いながら尻尾を絡ませましょう。
その時に耳元で甘い声でなくのも効果的。
なんだかちょっとエロイな……。
「あーこれはかなり仲良くなってからでないと
難しいっスよ、上級者むけッス。
でもやられるとかなりグッとくるッス」
「そうなんだ……
って、えぇぇぇぇぇぇ!!」
いつのまにか隣にはノアムさんが座っていた。
「ノ……ノアムさんいつからそこにぃ?」
かなり驚いたせいで声が裏がえってしまったほどだ。
「何度が声をかけたんッスけど
凛桜さんが団長のページを食い入るように見つめていたから
そのまま見守っていたッス」
そういって、かなりいい笑顔で親指を立てていた。
「やだ……」
凛桜は恥ずかしそうに両手で顔を仰いだ。
「この時大変だったんッスよ。
騎士団の応接間でインタビューを受けたんスけど
団長がだんまりを決め込んじゃったッス。
こんなもの出たくないってへそを曲げちゃって」
「あーなんかわかるわ」
「カロス副団長にも一言欲しかったらしいッスけど
訓練があるって逃げちゃったから
その分、更に団長にしわ寄せがいったんッス」
ノアムはため息をつきながらも、レーズンサンドを
ガブリと一口齧った。
「クロノスさん大人気なのね」
「騎士団長で侯爵様なうえに独身だからじゃないっスか。
団長めちゃくちゃもてるんっスよ。
本人はその気は全くないんッスけどね」
ノアムは口をとがらせながら拗ねていた。
「俺なんかランク外で可愛いとかしか言って貰えないのに
なんだかずるいっス」
そう言って不満そうに尻尾を左右にぶんぶんふっていた。
「フフフ……そうね。
ノアムさんはカッコ可愛い感じだからな」
なんか大人の男の人なのに頭撫でたくなっちゃう感じ?
獣耳もピコピコ動いて可愛いし。
獣耳もできればふわふわな所を触りたい……。
そんな事を思っていたからだろう。
「凛桜さん、さっきのページに書いてあることを
実行しようとしてないっスか!?」
そう言いながら、焦ったように獣耳を両手で押さえた。
「えっ?」
「駄目っすよ!」
その拗ねたような焦った顔が可愛すぎて
凛桜の悪戯心に火がついてしまった。
「フフフ……そう言うとますますやりたくなっちゃうじゃない」
そういいながら凛桜は、悪い顔を浮かべながら
じりじりとソファーの端にノアムを追い込んだ。
「凛桜さん……冗談きついっスよ」
ノアムは真っ赤になって狼狽えながら慌ててソファーから
降りようとした時にそれは起こった。
そんな2人の様子にきなこが遊んでいると勘違いして
2人の間に飛び込んできたのだ。
「おうわぁ……」
「きなこ!?」
驚いた拍子にソファーから落ちそうになった凛桜をかばい
2人してそのままラグの上に落ちた。
「いたぁぁ……」
「大丈夫ッスか?」
「うん……ノアムさんは大丈夫?」
「ッス……」
凄い至近距離でノアムさんの声がすると思ったら
ある意味、凛桜はノアムに押し倒されたかっこうになっていた。
(うわぁ……ノアムさん睫毛長いな。
それにやっぱり凄い奇麗な顔してるけど……
大人の男の人なんだなぁ……)
そう意識したとたん、みるみるうちに顔が赤くなった。
「凛桜さん……やっぱりどこか痛かったッスか!?」
ノアムはそのまま心配そうに、凛桜の頬に手を添えた。
そんなときに2人の背後から信じられない程低い声と
熱い熱の塊のようなものが降ってきた。
「ノアム……何やってんだ、
凛桜さんの上からどけやコラ、あぁ?」
その瞬間、獣耳の先端から尻尾の先まで震えながら
そっと凛桜から手を離して後ろを振り返ると……
凶悪な顔をしたユキヒョウが仁王立ちしていた。
その横には冷ややかな顔をしたヒグマが立っていた。
その眼には、お前には失望したぞという色が浮かんでいた。
「いや、違うんッス。
これは不可抗力なんッス」
ノアムは信じられない速さでクロノス達に頭をさげた。
「言い訳は後できこう」
「団長、俺……無実ッス」
穏やかな声だったが、副音声で“生きて帰れると思うなよ”
と、聞こえた気がした。
その間にカロスは凛桜を起こしていた。
「大丈夫ですか、うちのエロバカ猫がすみません」
「いえ……本当に不可抗力なんです」
「いいんですよ、あんなバカ猫をかばわなくても」
「いや、本当に違いますから」
その後、数十分かけてクロノス達に説明をした。
「紛らわしい事をするな、全く」
クロノスに軽く小突かれただけですんだノアムだったが
この時は本当に生きて帰れないかもと思ったと
後に語ったとか……。
そして……
「凛桜さん、なぜこの雑誌を」
今度は違う意味でクロノスが目をしろくろさせていた。
「恋人にしたいNO.1ってすごいですね」
「やめてくれ」
「カロスさんも10位、おめでとうございます」
「はぁ……」
「これは没収する、いや、させてくれ」
なさけないほど獣耳を下げてクロノスは懇願していた。
「いやよ、まだ半分しか読んでないし」
「いや、本当に駄目だ」
クロノスは頑なに読むのを阻止しようとしている。
「あーあれッスか!?」
思い出したようにノアムが叫んだ。
「あれですね」
カロスも渋い顔になっていた。
「なんでよ、これは私が正当に手にいれた本です。
返してください」
そんな事を言いながら、クロノスから雑誌を返してもらおうと
必死に食らいついた時だった。
思わずクロノスが手から雑誌を床に落としてしまったのだ。
神の悪戯だろうか……
その拍子に問題のページが開いてしまった。
「あっ!?」
そこには信じられないものが掲載されていた。
「………………」
それをみた凛桜は、しばらく固まっていた。