75.初めてのおつかい
田舎暮らしを始めて91日目。
昨日は楽しかったな……。
クルミ料理も本当に美味しかったし!!
きっと人気のカフェになるんだろうな……
もし行けるのならば、また行きたいな。
なんて考えながら畑から帰ってくると
そいつらはまたしれっと縁側で寛いでいた。
その横で、シュナッピーと黒豆達も
日向ぼっこをしている。
「…………」
なにこれ……。
凛桜がぽかんと口をあけて、その状況を理解しようと
必死になっていると存在に気が付いたのだろう。
2体とガッツリ目があったかと思ったら
ニヤリと笑って頭を下げてきた。
言わずもがな……
キングパパとクイーンママだ。
「えっと……」
まだ状況が読み込めず、目を何度も瞬いた。
(そう度々遊びに来ちゃう?)
こちらはかまわないけれども……
いやちょっとはかまうかな、うん……。
ルナルドさんのお家、また騒ぎになってない?
そんな2体をよく見ると、なにか体に巻き付いている。
どうやら背中に荷物を背負っているようだ。
キングパパの太い幹には、唐草模様の風呂敷が
クイーンママの幹には、温泉マークの風呂敷が括り付けられていた。
「風呂敷だと!?」
どういうこと?
確実にこれはじいちゃんの風呂敷よね。
前に見たことがあるわ。
ルナルドさんの手に渡っていたのか!
じいちゃん愛用の風呂敷。
すると急に野太い声でキングパパが言った。
「オツカイ二キタ!」
ママも甲高い声でかぶせるように言った。
「オツカイ!!」
2体ともこの風呂敷の中身を受け取れと
目で訴えてきた。
「おつかい……」
2体の身体から、優しく風呂敷をといて縁側におろした。
中身をみてみると……
どうやらこの前注文した、こちらの世界の雑誌が入っていた。
それに添えられて、カードが入っている。
「えっと……なになに……」
拝啓 凛桜様
ファナーニャが初夏の香りを運んでくるのを
感じる季節となりました。
その後いかがお過ごしでしょうか?
本来なら私が凛桜さんの元に伺わなくてはならないのですが
どうしても外せない用事ができました。
困っていたところ、どこから聞きつけたのか
キング達が、初めてのお使いをしたいと強く望んだので
今回の運びとなりました。
まことに勝手ながら、それを決行させて頂きました。
無事に商品を受け取られたでしょうか?
お代につきましては……
いつもの通り“油揚げを使った料理”を頂けると幸いです。
お手数ですが、よろしくお願いいたします。
敬具 ルナルド=アルヴェーン
追伸:キング達にも美味いものを食わせてやったって。
ファナーニャって何?
桜の花的なものかしら。
その前に、この世界でも時候の挨拶ってあるのね。
凛桜が手紙を読み終えて、顔をあげると
2体が心配そうに凛桜を見つめていた。
「お使いにきてくれたんだね。
ありがとう。
ちゃんと商品を受け取りました」
そう言って、2体に魔獣の欠片を2粒ずつあげると
喜んでもきゅもきゅ言って食べていた。
シュナッピーをはじめ、黒豆達も物欲しそうに
こちらをみつめていたので、みんなにもおやつをあげた。
ちなみに今日のおやつは“干し芋”だ。
初めてみるのだろう、キングパパ達は
まじまじとその茶色い物体を不思議そうに見つめていた。
「……………」
おっ、またシュナッピーが両親に説明をしている。
そうだよね、伯爵家のお家のおやつに“干し芋”は
でないよねぇ。
恐る恐る一口齧るキングパパ。
「……………!!」
おいしかったのだろう、いきなり走り出して
華麗なトリプルアクセルをきめた。
この光景前にも見たわ……やっぱり親子なのね。
凛桜は微笑みながら、おかわりを催促する黒豆達に
更に干し芋をあげていた。
その後ろで、クイーンママがぼそっと呟いた。
「ホシイモ……ヤバイ……」
クイーンママの口にもあったようです。
凛桜は、キッチンで唸っていた。
油揚げを使った料理ねぇ。
どうしようかな。
キングパパ達にまた背負わせて帰ることになるよね。
タッパーやジップロックに入れるとしても
汁気が多いものはよくないしな……。
よし、まずは“ねぎと油あげの肉巻き”にしよう。
簡単だけど美味しいのよね、酒のあてにもなるし。
まずはねぎを16等分に切ります。
それから、油揚げを3辺に切り込みを入れて開きます。
破らないように慎重にね!
その油あげを8等分に切ったら、ビッグビッグサングリア
(ふつうは豚バラ薄切り肉 16枚くらいかな)に
のせて更にその上にねぎをのせて巻きます。
心配ならば……
崩れないように、爪楊枝で仮止めしてもいいかも。
中火で熱したフライパンにごま油をひき、並べて焼きます。
私は面倒くさがり屋だから、爪楊枝で仮止めしないで
巻き終わりを下にして焼いちゃうけどね。
豚バラに火が通ったら……
めんつゆ、みりん、すりおろしにんにくに、砂糖
酒を入れた液をまわしいれる。
本当は七味唐辛子とかいれても美味しいのだけれど
辛いの苦手なんだよね。
ルナルドさんは、辛い味が好きかもしれないから
別にオプションとして一緒に入れておこう。
凛桜は大量に作ると、大き目のタッパーにつめた。
「ふぅ……あとは何にしようかな」
その後も、なすと油あげの梅みそあえやシンプルに
油揚げの入っている五目炊き込みご飯のお握りなどを作った。
作っている途中に、もちろんシュナッピー達の
ちょうだいコールは凄まじかったので(特にクイーンママ)
今、縁側に奇麗に並んで五目御飯のお握りを貰う
順番待ちをしております。
強さの順なのか……
きなこ、キングパパ、クイーンママ、シュナッピー、黒豆
となっております。
「きなこ……あんた本当に最強なのね」
キングパパより上って一体!?
何があった?
私の知らないところで一戦交えたの!?
その本人のきなこはドヤ顔でお座りをしている。
まぁ、いいや。
全員にお握りを配りおえると、自分も遅い朝食として
作ったおかずとお握りを食べた。
相変わらず柔らかいものはゴリゴリ言って食べるのね。
そんな事を思いながらキングパパを見ていると目があった。
「コレ、ウマイ!!」
そう言って、葉っぱを揺らして踊った。
「フフフ……ありがとう」
「コレ……コレ……」
キングパパが何か必死に言おうとしているが
言葉がわからないらしい。
「ん?」
するとシュナッピーが徐にキューンキューン鳴いて
その大きな瞳で凛桜を見つめた。
「おかわりが欲しいの?」
そう言うと、シュナッピーは首がもげるんじゃないかくらい
縦に首を振った。
「もう……しょうがないな、あと1つだけよ」
そのやり取りを見ていた、キングパパは
そうそう!これこれと言わんばかりに叫んだ。
「オカワリクダサーイ」
もちろんクイーンママも同様に叫んだ。
「オカワリ!!」
あまりにも大きな声だったので、ちょっとビクッとなったよ。
「オカワリ!オカワリー」
わかったから連呼しないで。
皆にもう1つずつ五目御飯のお握りのお代わりを上げながら
凛桜は遠い目になった。
キングパパ達に、新しい言葉を教えてしまった。
いいのだろうか……。
しかも“おかわり”って……。
ゴリゴリいいながら、五目御飯を食べるキングパパ達は
その後も小さい声で“オカワリ……オカワリ”と
練習するように呟いていた。
それをみていたシュナッピーは
「オ…………」
まで言ったのだが、それからは発声できなかったようだ。
よかった、生まれて初めての第一声が“オカワリ!”
はちょっと嫌だな。
なんて密かに胸を撫でおろしていた凛桜だった。
後に伯爵家でも“オカワリコール”が響き渡る事に
なるのだが……。
「どこで覚えたんや?」
と、ルナルドが首を捻っていたことを凛桜は
知る由もなかった。