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74/220

74.そういうのじゃないです……

田舎暮らしを始めて90日目(午後)。




「こじんまりした店だが、いい店だな」


クロノスは店の中をキョロキョロと見まわしながら

呑気なセリフをはいていた。


「そうなの、自慢のお店なの」


ルルちゃんが無邪気に相槌をうっていた……。


お店の中は、すべて樫の木で作られた家具で統一されていた。


ランプやテーブルクロスがドングリの形になっているのも

可愛らしい。


2人掛けのテーブル席が4つ、4人掛けのテーブル席が3つ。

そしてカウンター席が3つあった。


調味料入れも、ドングリを抱えたリスの形なのも

女子人気がでそうだな。


凛桜も思わずにっこりしてしまう程の可愛さだった。


が、そんな中……

リス獣人の夫妻の視線は、クロノスと凛桜の手に注がれていた。


なんなら、こっそりだが……

クロノスと凛桜の顔と手を何度も交互に見直していたと

言った方が正解かもしれない。


「…………」


凛桜と目があうと、それはいい笑顔で力強く頷いてくれていた。


みなまで言うな……

わかっていますよ、えぇ。

と言わんばかりの生暖かい視線。


違う、違う、そういうのじゃないです……。


と、言いたいところだが、それはそれで

変な空気になりそうなので言えないし。


どうしよう、完全に誤解しているよねぇ。

凛桜は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。



机の上には、これから出すであろうお店の料理が

所狭しとテーブルいっぱいに並べられていた。


「ぐぅ……」


誰かのお腹の音がなった。


「あっ!」


お兄ちゃんが恥ずかしそうにお腹をおさえた。


「もしかして、私たちが来るまで待っていてくれたのかな?」


凛桜が優しくそういうと、真っ赤になりながらコクリと頷いた。


「フフフ……私もお腹ペコペコだよ。

ソフィアさん、お料理をさっそく頂いてもいいですか?」


「はい、いっぱい食べてくださいね。

団長様もどうぞ」


「あぁ、遠慮なく頂こう」


こうして、ようやくクロノスは繋いでいる手を離してくれた。


もちろん、凛桜の隣の席に当たり前のように座ったのは

言うまでもないが……。



「食器もすべてドングリやリスさん柄なんですね。

可愛いです」


凛桜が感動したように言うと、ソフィアさんは

普段の可愛らしい表情から想像できないくらいの

ちょっぴり悪い顔でニヤリと微笑んだ。


「ウフフ……可愛いのは正義ですから」


と言い放った。


リス獣人の可愛さを最大限に発揮させるという事ですね。

その為の演出なんですね、うん。


ルルちゃんのエプロンとカチューシャも

可愛すぎて悶絶しそうだし。


ソフィアさん、なかなかのやり手プロデューサーだわ。


後ろで旦那さんが苦笑しながら、頭を掻いていた。


もうこれは、ご飯屋さんというよりか

リスカフェですよ、えぇ。



そんな中、ソフィアさんのクルミ料理は本当に美味しかった。


「とても美味しいです」


「あぁ、美味いな」


クロノスと凛桜は、すべての料理を堪能させて貰った。



無事に食事会も終わり、今はソフィアさんとカウンターの中に

入りランチに出そうとしているメニュー開発に

取り掛かっています。


どうやら店の中ならば、クロノスさんと多少離れていても

大丈夫なようだった。


「私と主人の2人だけで切り盛りしなければならないので

ランチメニューは、定番のものを2つ用意して

あとは日替わりを1つ入れたものにしようかと思っています」


「いいですね。無理のないメニューがいいと思います」


「そこで、日替わりに出す目玉商品に成りえる

クルミ料理を何か、凛桜さんに教えて頂けないかと……」


「そうですね……」


凛桜は、クルミを見つめながら考えていた。


(あまり手の込んだものは駄目よね。

それと作り置き出来るものがいいよね……)


基本的に、ランチを中心とするお店にするとの事だった。

夜は営業しないそうだ。


その代わりに、朝早くからお店の一画にある小さなカウンターで

クルミパンのサンドイッチとナッツのクッキーと

飲み物を販売するらしい。


「メインになるクルミ料理か……。

そうだ、クルミとキノコのピザなんかどうですか?」


「ピザとはなんですか?」


凛桜は、開店祝いに持ってきた材料の中から

強力粉とドライイーストを取り出した。


「これを使って作るのですが、まずは私が生地と具材を

作りますので窯を貸していただけますか」


「はい、どうぞ」


凛桜は、素早く生地を作り、具材を乗せると

窯にピザ生地を入れた。


「焼けるのに10分程かかりますので

その間に他のメニューも考えましょう」


「はい、お願いします」



そんな様子を微笑ましく見ながら……

クロノスは、リス獣人の兄妹から質問責めにあっていた。


「団長様が悪いドラゴンを倒した時のお話を聞かせてください」


お兄ちゃんが尊敬の眼差しを送りながら

クロノスにお願いをしていた。


「いいぞ。

あと団長様はやめてくれ、クロノスさんでいいぞ」


「クロノスさん……」


「お前たち、クロノス様だ!

そこだけはお父さん譲れないぞ」


旦那さんは慌てて訂正を入れていた。


侯爵さま、勘弁してくださいよ。

と泣きそうになりながら無言で訴えてきたので

クロノスも渋々それを受け入れた。


ルルちゃんはすっかり打ち解けたのか

膝の上に座ってキラキラの瞳でクロノスを見上げていた。


そんな容赦ない子供たちの行動にどぎまぎしながら、

ソフィアさんの旦那さんは、クロノスさんに赤ワインを注いでいた。


その間も、ああでもないこうでもないといいながら

凛桜達のクルミ料理のメニュー開発は進んでいた。


「あ、そろそろピザが焼けたみたいですよ。

熱いので気をつけてくださいね」


そう言って、ソフィアに1枚ピザを手渡した。


「パンに似てますが、薄くてもちもちしていますね」


一通り眺めると、ぱくりと一口齧った。


「…………!!」


美味しかったのだろう、獣耳と尻尾がピンと立った。


「どうですか?」


「美味しいです」


今度は尻尾が左右に大きくふられている。


「ピザは冷めても美味しいですし、前もって下準備できるので

その点でも作りやすいかと」


「それはいいですね」


後は、どうしようかな。

本当はクルミおこわとかも美味しいんだけれども。

この世界ってお米がないんだよね。


皇帝様にひっそりお米を渡しているくらいなのに

急にこのお店でそれをだしたら問題になるよねぇ。


困ったな……。


「あ!

えっと、お肉とピーマンとかありますか?」


「お肉ですか?なんでもいいでしょうか?」


「できれば、ヒューナフライシュのような

鶏肉がいいのですが」


するとソフィアさんは困ったように眉尻を下げた。


「ヒューナフライシュは難しいです。

ただのフライシュならなんとか用意できますが」


ソフィアさんの話だと、ヒューナフライシュは

結構高級な肉の部類に入るらしい。


それを出すのは採算があわないという事か……。


そうか、ノアムさんやシュナッピーが普通に

狩ってきてくれていたけれど、あれはイレギュラーの事だったのか。


そう考えると、キングヒューナフライシュって

かなり貴重な肉なのね。


「わかりました。

では用意できる材料で作りましょう」


凛桜は、フライシュとピーマンのクルミ炒めを作って見せた。


「これは、いいですね。

美味しいしボリュームがあるので人気が出そうです」


「よかった。

男性の方もくると思いますので、こういうガツンとした

メニューも必要かと」


「そうですね、そういう事も考えないといけませんよね」


「因みになんですけど、実は開店祝いにヒューナフライシュと

うちの畑で採れた野菜も持ってきているんです」


凛桜は10キロ近いヒューナフライシュの肉と

籠いっぱいの野菜をソフィアに渡した。


「えっ?こんなにたくさん!?」


ソフィアさんは目を剥いていた。


「小分けにして冷凍しているので、いる分だけ解凍して

使って頂ければと」


凛桜がそう言うと、ソフィアさんは目を潤ませて

凛桜の手を握り、声をつまらせながら言った。


「本当になんとお礼を言っていいかわかりません。

凛桜さん、本当にありがとうございます」


そんなソフィアの様子に驚いて、凛桜の方がうるっと

きてしまい……。


「ソフィアさん、困ります……

頭を上げてください」


そんな2人の様子に、男性陣も集まってきてしまい


「あなた……」


「凛桜さん……」


それぞれがそれぞれの相手に慰められるという

奇妙な状態が出来上がっていた。



その後も、いくつか料理を提案しながら

なんとか形になりそうだったのでお披露目会はお開きになった。


「凛桜さん、侯爵様。

今日は本当にありがとうございました」


リス獣人一家は、凛桜達に頭を深々とさげた。


「いえ、こちらこそ楽しい1日をありがとうございました」


「美味かったぜ。

ここはうちの団の若手の巡回コースだ。

ここの店を紹介しておくからな。

何かあったら遠慮なく言ってくれ」


「ありがとうございます」


そんな中、ルルちゃんはクロノスを恥ずかしそうに見つめながら

母親のスカートをぎゅっと握っていた。


「2人ともありがとな」


そう言って、クロノスが兄妹の頭を撫でると

2人はくすぐったそうにしていたが、喜んでいた。


「また来てくれる?」


ルルちゃんが、懇願するようにクロノスを見上げた。


「あぁ……」


クロノスは優しく微笑んだ。


「ルル、いっぱいお料理をお勉強して

凛桜お姉さんみたいになります……だから……」


ルルちゃんは急にもじもじとし出した。


(やだ!この子天使だわ……)


あまりにも可愛すぎる発言に、密かに凛桜が萌えていると

お兄ちゃんが爆弾発言をぶっこんで来た。


「ルルはクロノス様が大好きだもんな。

大きくなったらクロノス様みたいな素敵な騎士様と

結婚したいって言っていたな」


「お兄ちゃん!!」


ルルちゃんは、デリカシーのない兄の発言に怒り

尻尾と獣耳を逆立てながら反撃を返した。


「お兄ちゃんだって、凛桜さんみたいな素敵な人と

結婚したいっていつもいってるじゃない!!」


今度はクロノスが目を剥いた。


そこに父親の冷静なツッコミが入った。


「2人ともどうして……

()()()()()()()()とか()()()()()()()な人なんだ?

そこは普通、本人じゃないのかい?」


すると今までいがみ合ってた二人が嘘みたいに

ハモった声で言った。


「「だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()」」


(えぇぇぇぇぇぇぇ!!)


そんな2人の仲を引き裂くなんてできないよね。


ねー。


って、無邪気に言われても!!


言われた2人はただ真っ赤になって狼狽えるしかなかった。


子供って恐ろしい……。

親御さんたちも、それは納得というように深く頷かないで!!


本当に、そういうのじゃないです……。



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