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72.一体どういう仕組みなのさ!?

田舎暮らしを始めて89日目。




約束通り、クロノスさんが朝一番で家に来てくれた


今日はお休みの日なのかな?

いつもと違ってラフな服装だ。


制服姿のクロノスさんもカッコいいけれど

普段着もいいな……。


上はシンプルな白いシャツに、下は皮のパンツ。

チラッと首元に見えるネックレス。


右手にはバングルのようなものもつけている。


(スタイルの良い人は何を着てもカッコいいのね)


きなこ達やシュナッピーに懐かれながら

クロノスは凛桜の肩に手を置きながら言った。


「カロスから聞いたぜ、とりあえずどういう状況か

一旦確認させてくれ」


「うん」


と、そこに元気な声が響いた。


「はよッス」


「おはようございます」


カロスさんとノアムさんだ。


「お前らなんでここに?」


不満そうに眉尻を上げながらクロノスさんが唸った。


「なんか面白そうな実験をするって聞いたッス」


「…………」


カロスはバツの悪そうな顔をしながら目をそらした。


「休みの日まで、お前らの顔はみたくないんだが」


「いいじゃないっスか。

問題解決するには人数が多い方がいいっスよ。

ほら、よく言うじゃないですか。

3()()()()()()()()()()()()ってね」


得意満面の笑みでノアムはそう言い放った。


「文殊の知恵だ、バカ猫」


いつも通りのカロスさんの鋭いツッコミが決まったところで

ひとまず朝食を食べる事になった。


何故ならば、ノアムさんの腹の虫が盛大に鳴り響いたからだ。



今日の朝食は、白ご飯、アジの開き、卵焼き

ほうれん草のおひたし、豚汁にうめぼしと味付け海苔だ。


ザ・和食な朝ごはんだ。


「美味いっス、休みの日にも凛桜さんの飯が食えるのは

最高っス! あ、ご飯のお代わりいいっスか?」


「はい、どうぞ」


ノアムは尻尾を揺らしながら、炊飯ジャーの蓋を自らあけて

てんこ盛りにご飯をついだ。


「俺らの分も残しておけよ」


「いやッス」


そう言いながら、ご飯をかき込んで食べていた。


「お前な……」


「フフフ……本当に仲がいいのね」


凛桜は、追加のホッケの干物をクロノスに渡しながら微笑んだ。


「いつもこんな感じで騒がしくてかなわん」


そう言いながらも、クロノスの獣耳も嬉しそうに

ピコピコ動いていた。


「俺の屋敷にも飯を食わせろって来たこともあるくらいだからな」


「は?」


クロノスの発言にカロスは目を見開いた。


「朝の鍛錬の途中に団長の屋敷の前をたまたま

通ったからッス。いい匂いがしてたんでつい」


ニシシと悪戯っ子のような笑顔を見せながらカロスは

親指をたてた。


「お前……本当にとんでもないバカ猫だな。

どこの世界に侯爵様の家にふらっと飯を食いに行くやつがいるか」


お手上げだというように手をあげてカロスは呆れていた。


「普通に入れたッスよ」


ノアムはしれっとそう言った。


「そういう問題じゃない。

常識を考えろといっている。

普通は門番に取り押さえられて、詰所行きだ!バカ猫!!」


またもやカロスさんの雷が落ちた。


「じゃぁ、今度は副団長の屋敷にするッス」


頭を摩りながら口をとがらせるノアム。


「はぁ……そういう事じゃないんだが……」


「ノアムさんがこの中では最強ね」


クロノスと凛桜は目を合わせながら呆れたように微笑んだ。




凛桜達は中庭に立っていた。


「それでは行きますよ」


凛桜は、そのまま門から外に一歩踏み出した。


そのまま姿が見えなくなったと思った瞬間

中庭に姿を現した。


その他にも、池の後ろ、鶏小屋の小道、倉庫の横

あらゆる所から外に出たのだが、一瞬で中庭に

戻ってきてしまうのだった。


「ん……本当に出られないのだな」


クロノスは思案するように顎に手を置いた。


「あっ!」


閃いたというように、ノアムがポンと手を打った。


「どうした?」


「それならば、俺たちの誰かと一緒に外に出るっていうのは

どうっスか?」


「そうだな、試してみる価値はあるな」


まずはノアムと一緒に中庭の奥向かった。


初めて森らしきものが見えた。


2人で手をとりあって喜んだが……

200mほど進んだ所で、凛桜だけが中庭に戻された。


「駄目だったッスか……」


ノアムはがっかりしたように獣耳と尻尾がシュンと下がった。


「では、次は私が」


また同じように横に並んでカロスと共に中庭の奥に踏み出した。


すると今度は、はっきりと森の景色が奥まで見えた。


「カロスさん!」


「ああ」


喜んだのもつかの間……

そのまま二人で、森の先へと800mくらい進んだ所で

凛桜だけ、またもや中庭に戻った。


「なかなか厳しいですね」


強面のカロスさんだか、こころなし残念そうに獣耳が

へにょっと後ろに下がった。


「次は俺だな」


クロノスはそのまま自然に凛桜の手を取ると

中庭の奥へと入っていった。


今度もはっきりと森の様子が見て取れる。


「かなり森の奥にあるのですね、家は」


森は鬱蒼と茂っていて、森の深さが伺えた。


「あぁ、普通はここまでなかなか人は入ってこない地域だ。

まだ、あまり調査も進んでいないからな。

どんな魔獣が出るかもわからん」


そう言いながら、2人は手を繋いだまま

どんどん森の奥へと進んでいった。


「クロノスさんが家を見つけたのは、その調査の為に?」


「あぁ、陛下からの極秘勅命でな。

何日もこの辺りを調査していた」


「フフフ……、だからあんなにボロボロの姿だったのね」


初めて会った時の事を思い出し、凛桜は思わず声をあげて

笑ってしまっていた。


「あぁ、あの時は面目ない」


クロノスも恥ずかしそうに微笑んだ。


15分程歩いただろうか、急に目の前が開けた。


「ここは、だいたい凛桜さんの家と王都に続く道の

中間地点になるな」


2人の目の前には、小ぶりだが澄んだ美しい湖が広がっていた。


周りには奇麗な花が咲き、リスのような小動物やキツネらしき

動物たちが寛いでいた。


夢のような光景につい、クロノスの手を離してしまい

凛桜は1人、湖の近くまで駆け寄ってしまった。


次の瞬間……


「えっ?」


周りの景色が急に揺らいだかと思ったら……

強烈な力に引っ張られるような感覚に陥った。


気が付くと、中庭に1人佇んでいた。


いきなり現れた凛桜に、カロス達は一瞬固まった。

ちょうど黒豆達と遊んでいたらしい。


シュナッピーまでが固まって大きく目を見開いていた。


「おかえりなさいッス?」


首を傾げながら、ノアムはそう言った。


「団長はどうしたのですか?」


最初に我に返ったのはカロスだった。


「それが……」


凛桜自身も何が起きたのかわからず、困惑気味だった。


しばらくして、獣体のクロノスさんが慌てた様子で

中庭に駆け込んできた。


「凛桜さんは帰っているか?」


全速力で走ってきたのだろう。

ユキヒョウは息を切らせながらそう叫んだ。


「クロノスさん!!」


凛桜はそのまま、ユキヒョウに抱き着いた。


「お……おう」


(はぁ……モフモフ……最高)


凛桜はそのまま、ユキヒョウの胸元に顔を埋めた。


「凛桜さん?」


困ったような声が頭上から降ってきた。


「ご……ごめんなさい、つい、モフモフ欲に負けちゃって」


凛桜は、恥ずかしそうに目を伏せた。



お茶をしながら、改めてクロノスさん達と先ほどの事を

検証していた。


「凛桜さん1人では駄目だが、俺達……

つまりこの世界の者と一緒ならば、辛うじて出られるみたいだな」


「そうですね」


「うまっ、このチョコチップカップケーキ美味いっス」


ノアムは両手でもって齧り付いていた。

相変わらず一人だけマイペースである。


「…………」


カロスはそんなノアムを怪訝な顔で睨んだ。


「でも、俺と団長では、出られる時間にかなり差があったっス。

何が原因なんッスかね?

その節が正しいのなら、シュナッピーと一緒でもいいという

事になるッスよね……」


いきなりまともなことを言い出した。


「確かにな」


そこで、念のためシュナッピーとも一緒に外に出てみた。


結果、短時間しか出られなかった。

だいたい、ノアムさんと一緒というところだろうか。


「何が原因なのでしょうかね」


凛桜は、シュナッピーに魔獣の欠片を一欠けらあげながら

クロノスをみつめた。


「そうだな……」


そこに思い出したかのようにカロスが言った。


「そういえば、魔王が言っていました。

自分ならば、煉獄の果てまでも凛桜さんをつれていけると」


魔王という言葉に、クロノスは一瞬眉をしかめたが

その発言で何か確証を得たようだった。


「うへぇ……魔王ハンパないっスね」


ノアムが嫌そうに呟いた。


「おそらくだが。

持っている魔力の大きさに比例するのかもしれないな」


クロノスはきなこを撫でながらそう言った。


「魔力ですか」


「そうだ、この中なら俺が圧倒的に魔力を持っている。

魔王となれば、それこそ計り知れないだろう」


「あー、それを言われると辛いっス」


ノアムが悔しそうに顔を顰めた。


魔力はその人の強さ。

鍛えてどうなる物ではない。


それこそ生まれつきのものだ。

純血であり身分が高い者の方が強い傾向がある。


「確かにそう言われれば、そうかもしれませんね。

凛桜さんは魔力が全くありませんから、その魔力を

俺達が代わりに補わないといけないという事かもしれませんね」


「ならば、どうして凛桜さんは急に戻ってきたんッスか?」


「あぁ、奇麗な湖があったからついクロノスさんの手を

放しちゃったの。

そうしたら、急に何か強い力に引っ張られちゃって」


凛桜は申し訳なさそうにクロノスを見た。


「と、いう事は……。

魔力を供給する為に、距離があいてしまうと駄目だということですか」


「えぇ!

そうは言ってもずっと手を繋いでいるなんて無理じゃないっスか」


「確かに……」


凛桜も頷いた。


(俺はずっと手を繋いでいてもいいけどな)


なんて思った事は内緒だ。



その後、何回か検証をした。


出た結論が、クロノスさんと1m以内ならば離れていても

大丈夫なことがわかった。


「これならば、なんとかなりそうですね」


「そうだな」


異世界さんよ、一体どういう仕組みなのさ!

凛桜は空を見上げながら、遠い目になった。




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