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70.血統

田舎暮らしを始めて87日目。




「凛桜さん……」


「何?」


「あれは一体何なんだ?」


クロノスは凛桜から、おでんがたくさん盛られた皿を

受け取りながら、なんとも言えない表情で中庭を見ていた。


「シュナッピーのご両親みたいですよ」


「それはわかっている…………。

あいつら、キングとクイーンだよな、おそらく」


「はい、ルナルドさんはそう言っていました」


ルナルドの名前が出たからだろうか

少し不機嫌そうに眉尻を上げた。


その向かいに座っている、カロスさんとノアムさんは

と、いうと……

まだその光景が信じられないのか、終始ぽかんとしていた。


そんなノアムさんの右耳の獣耳の先端は若干焦げていた。

何故なら先ほどシュナッピーと一戦を交えたからだ。


「あいつがキングの系譜だとしても

やっぱり許せないっス」


そう言いながら口をとがらせると……

猫が毛づくろいをするように、何度も獣耳を撫でていた。



先ほど、クロノスさん達が中庭に現れた。


その瞬間キングパパとクイーンママが戦闘モードに

入ってクロノスさん達に向かって構えた。


「おわっ……

なぜこんな所にフラワー種の原種がいるっスか!!」


3人も思わず戦闘態勢をとった。


数分の睨みあいがあったのだが

両者とも一歩も動かなかった。


いや、動けなかったといってもいい。


さすがゴールドとシルバー。

いままでのフラワー種と格が違うな。

一瞬の油断が命取りだ。


今まさに戦闘が始まろうとしていた。


両者はじりじりと距離を詰めていた。


そんななか、畑から黒豆達とシュナッピーと共に

凛桜が中庭の奥から帰って来ていた。


「いっぱいお野菜採れたね。

今日のお昼は何にしようか」


「キューン、キューン」


「ワン!ワフワフ」


「ん?」


凛桜はすぐに異様な空気を感じ取ったのだが

それ以上の素早さでシュナッピーが駆け出した。


「ギャーロロロ、ギャロ、ギャロ」


「シュナッピー?」


睨みあっている両者の間に割って入ったかと思うと

両者それぞれに何かを訴えていた。


「キューン、キューンギャロロロ」


「なんだ?」


シュナッピーの説明が功をそうしたのだろう

両親のフラワー種はすぐにその臨戦態勢を解いたのだが……

その後がよろしくなかった。


キングパパとクイーンママはまずクロノスに

軽く頭をたれて、言葉を発した。


「ダンチョウ」


「…………!!」


クロノスはその発言に目を剥いた。


「しゃ……喋ったッスよね!! 今!!」


あまりの衝撃にノアムが叫んだ。


次にキングパパ達は、カロスの前に行きその大きな瞳で

じっと見つめながら言った。


「フクダンチョウ」


「…………」


カロスも驚きながらフラワー種をただ見つめていた。


そして、ノアムの事は横目でチラッと見てから

ポソッと


()()……」


とだけ呟いた。


「はぁあああああ?」


怒りの為か、ノアムが獣耳から尻尾の先までピンと張って

シュナッピーの事を睨みつけた。


その張本人のシュナッピーは、大きな一つ目を細めて

ニヤつきながら、葉っぱを揺らしていた。


そんな様子に堪えられなくなったのだろう、クロノスが

盛大に吹いた。


「ブハ……ハハハハハ。

お前シュナッピーから、ネコって紹介されたのか」


「プッ……」


カロスもつられて笑ってしまった。


「団長も副団長も酷いっス」


ノアムは既に涙目だった。


「すまん、すまん。

でもネコって、ククククク……」


クロノスは謝りながらも目尻に涙を浮かべながら笑っていた。


シュナッピーは、悪戯が成功したかのように

はしゃいで踊っていた。


「もう……許さないっス」


2人とのあまりの態度の違いにノアムは切れた。


「お前、俺の事なんて両親に紹介したッスか

今日という今日は本気で許さないっス」


「ギョロ……?」


ここから二人の戦闘が始まった。



で、数分後……

クロノス達が止めるまで、2人は戦っていた。


「ライバル……」


それをみてクイーンママがそう密かに呟いていた。



で、今は楽しそうに黒豆達とフラワー種達は

鬼ごっこを楽しんでいる。


「あれって正解なんッスかね」


「どうなんだろうね?

普通だったら植物に追いかけられるって恐怖よね」


苦笑しながら、凛桜はご飯大盛りの茶碗をカロスに渡した。


「何があってあんなレア種がこんなところに?」


「私もわからないのですが、今朝雨戸を開けたら

既に中庭に佇んでいました」


「…………」


クロノスさん達は渋い顔をしながら3人で目を見合わせていた。



凛桜はざっくりだが、昨日の出来事を3人に告げた。


「で、今朝もまた来てしまったという訳ですか。

ルナルド様は、このことをご存じなのですか?」


カロスが心配そうにそう問うと、凛桜は頷いていった。


「また心配して駆け込まれてもあれだから

至急の連絡用紙にかいて飛ばしました」


そう言って、メッセージカード程のおおきさの

美しい紙の束をクロノス達に見せた。


「あー、それって“恋人カード”じゃないっスか」


ノアムがそのカードを指して叫んだ。


「恋人カード?」


凛桜は首を傾げた。


恋人カードとは交換したその2人のみしか使えないし

内容が見えない特別なカードという事を初めてしった。


王都の若者は、日夜このカードを使って

愛を語らっているとの事だった……。


ごめん、空気読めなくて業務連絡のように使用しちゃったわ。


と、同時にクロノスがそのカードの束を凛桜の手から

優しくだが奪い取ると、そのまま炎で燃やしてしまった。


「あのキツネ野郎……油断も隙も無い……」


そう言ったクロノスは怖いほど美しい笑顔を浮かべていたので

部下二人は震え上がった。


(団長……巨大な魔獣を屠った時の顔してるッス!!)


(これはまた、帰ってから荒れるな団長……)


恐怖と同時に2人は大きなため息も一緒についた。


「えっ?えっ?」


凛桜は戸惑うようにクロノスをみた。


「あんなものは必要ない。

何かあれば俺に言ってくれればいい」


「あ?う……うん」


凛桜は少々顔を赤らめて狼狽えながらも頷いた。


そんな二人の様子を見ながらまた密かに

クイーンママが呟いた。


「ルナルドトダンチョウ、コイノライバル……」


キングパパも同意するように頷いていた。



「しかし、本当にいるんっスね。

ゴールドクラスのぱくぱくパックンフラワーって」


デザートのスノーボールクッキーを食べながら

中庭でキラキラ光る黄金の花弁を凝視していた。


「やはり血統って重要なものなの?」


「そうだな。

ふつうのぱくぱくパックンフラワーから貴重種が

生まれる確率は0に等しい」


「シュナッピーがシルバーと分かった時には

どちらかがシルバークラスで、後は普通の原種かと

思っていましたが……

まさかキングとクイーンの子だったなんて

今でも信じられませんよ」


カロスも中庭のフラワー種から目が離せない様子だった。


()()()()()()()()()()()()()からな」


クロノスは苦々しい表情でそうぽつりと呟いた。


凛桜はその言葉の真意を確かめたかったが

何故かその時は、深く追求できなかった。


その後、クロノスは家の周りの結界の様子を

見に行ってくれていた。


それにシュナッピーを始め、キングパパ達も同行して

いるようだった。


カロスさんは、黒豆達と一緒に果樹園に桃を

採りに出かけていた。


凛桜とノアムはというと、さっき収穫してきた

野菜を水で洗っていた。


そんな中、不意にまじめな顔でノアムが切り出した。


「凛桜さん、さっきの団長の発言が気になるッスか?」


「えっ?」


「さっきからこころあらずって顔してるッスよ」


まったくもってその通りだった為に、凛桜が決まりわるく黙りこむと

ノアムは軽く自嘲しながら言った。


「俺の親父は、ライオンの獣人で子爵家の当主なんッス。

ネコ種族の貴族は基本的に、ハーレムを築くことが多いっス」


「うん?ハーレム……」


いきなりなんの告白なのだろう?

疑問いっぱいの凛桜に構わずノアムは続けた。


「俺のおふくろは、親父の第2夫人なんッス。

商人の出身なので貴族じゃないから、身分も低いんっス。

そのうえ同じネコ科とはいえオセロット種という他種族で……」


他人事のように淡々と語るノアムがいた。


「…………」


凛桜が若干心配そうな表情をしていることに

気が付いたのだろう。

ノアムは慌てて、否定するように手を振った。


「あ、だからといって虐げられたとかないっスよ。

異母兄妹もたくさんいるんスけど……

家族は割と仲良くやっているほうッスから」


そういうと凛桜はホッと胸を撫でおろしたようだった。


「でもそういう訳で……俺は純血じゃないっス。

だから学園や王宮では窮屈な思いをしたのも事実なんっス」


「ノアムさん……」


「団長と副団長がいなかったら、もしかしたら悪いやつらと

つるんで駄目になっていたかもしれないっス」


表情とは裏腹に、重々しい声色に凛桜は息を飲んだ。


「えっ?」


「ほら、団長って変わっているじゃないっスか。

普通だったら、近衛騎士団や王宮に入ってもっと高い位に

ついていてもおかしくない人っス」


確かにそうかも。

シリルさんと同期っていってたよね。


「それなのに、何を好んで第一騎士団とは言え

きつい汚れ仕事の騎士団なんかにいるんだかあの人。

侯爵様なんッスよ、本当は俺なんかがおいそれ口をきける

身分じゃないんっス」


そう言いながらも嬉しそうに尻尾を揺らした。


「それなのに、あの人は身分や種族なんて関係ないって

心から本気で思っている人なんッス。

騎士団の大半が身分の低いものです。

それなのに、皆が団長を慕うのはそういう人だからなんッス」


「フフフ……クロノスさんらしいわね」


「カロス副団長もああ見えて、伯爵家の次男ッス。

もちろん正妻のお子さんッス。

と、言っても熊種はネコ種族と違って一途なので……

ほとんどの熊獣人の貴族には愛人はいないっスけどね」


そう言って、ぺろりと舌を出した。


ネコ種って、そんなに節操ないのかしら。


クロノスさんもユキヒョウだから……

ネコ種と言えばネコ種。

たしかネコ科ヒョウ属だったっけな。


クロノスさんにもハーレムがあるのかしら

もしかして近い将来作るのかしら。


それとももうあるのかも!!

結婚してなくても、ハーレムは作れるもんね。


そう思うとちょっと……いや、かなりモヤっとした。


そこにクロノス達が帰ってきた。


「なんの話だ、楽しそうだな?」


そう言いながら凛桜の顔を覗き込んだ時の

にやけた笑顔に無性に腹が立った。



「この……エロ侯爵……」


そう言いながら、凛桜はプイと顔を背けながら

シュナッピー達を連れだって畑へと逃亡した。


完全に八つ当たりである。


「凛桜さん? エロ侯爵って一体……。

ノアムお前一体、凛桜さんに何を言ったんだ?」


「知らないっス、俺は無実ッス」


ノアムも凛桜の後を追うように、縁側から飛び降りた。


「待て、コラ!」


「いやッス」


そんな様子を見ながら、クイーンママは一言呟いた。


「カオス……」と。




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