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68.貸してください

田舎暮らしを始めて85日目。




凛桜がキッチンでぬか床を混ぜていると

庭の方からなにやら争う声が聞こえてきた。


「右にまわりこめ!」


「無理だ、こちらには地獄の番犬がかまえている!!」


「…………」


また近衛騎士団ご一行?

餅関係の件でまた来ちゃった?


凛桜はため息をつくと、現場を諫める為に手を洗い

縁側から中庭へとおりた。



「ギャロロロロロ!!」


「ワン!ワワワワン!!」


「はっ!」


そこには、クロノスさんの部下と思われる

トラと狼の青年獣人がシュナッピーと黒豆達を相手に

戦闘を繰り広げていた。


「花弁に気をつけろ!!

相手はシルバーナイフだぞ!!」


「わかっている!!」


今日もシュナッピーの花弁のくないが……

庭を所狭しと飛び交っていた。


「あ…………」


どうしてこの2人が?

カレーの時も餅つき大会にもきてくれた子達よね?


凛桜が不思議に思っているとすぐその後ろから

ノアムさんとカロスさんがやってきた。


「ニシシシ……おぉ、やってるやってる。

って、あいつシルバーランクに進化したッスか!?」


ノアムさんは悪そうな顔で微笑んでいた。


「予想以上の進化を遂げたな。

シルバーか……今後が楽しみだ」


そういいながら、器用に花弁くないをよけるカロスさん。


「自分が標的にならないからって楽しそうだな、あぁ?」


そう言いながら、クロノスさんも笑いながらやってきた。


「ノアムさんも副団長も楽しそうに見てないで

助けてくださいよぉ」


トラ獣人の青年は、シュナッピーの攻撃をなんとか

かわしながら二人に懇願していた。


「何を甘いことを言っている。

これくらい乗り越えないと今日のランチは抜きだぞ。

ほら、右側ががら空きだ」


カロスさんは腕を組みながら、戦闘の様子をみていた。


「えぇ!!

相手はシルバーランクですよ……無理……です」


狼獣人の青年はすでに涙目だ。

その尻尾にはきなこが嚙みついていた……。


「えっと、これは一体なんの騒ぎなのでしょう?」


凛桜が困惑した表情でクロノスを見上げた。


「すまん、すまん。

じつは陛下からの勅命で今日は来たんだ」


「陛下の?」


ひとまず、埒があかないのでシュナッピー達を諫めてから

凛桜は、家の中へ入るように促した。


しかしトラ獣人の青年達は、けっして家の中にあがろうとしない。


縁側の前で手を後ろ手に組んで、直立不動のまま立っていた。


階級社会の厳しさだろうか。


「…………」


ものすごく姿勢のいい立ち姿!!


凛桜はクロノス達が席に着くのを見計らって切り出した。


「規律とかはあるだろうけれども……

今日は特別にあの二人にも寛いで欲しいのだけれども

駄目かな?」


クロノスはその発言に目を見開いた。


「私が慣れないのよ……。

あの二人は帰るまでずっとあの状態でしょう、おそらく……

せめて縁側に座って一緒にお茶を飲むくらいいいでしょ?ね?」


ノアムとカロスは困ったように目をあわせてから

クロノスの顔をみた。


「…………」


クロノスは葛藤しているようだったが………

深くため息をつくと頷いた。


「お前ら今日は特別だ。

縁側に腰かけて、凛桜さんのもてなしをうけることを許可する」


「はっ!ありがとうございます」


そう言われた二人は嬉しそうに表情を輝かせると

ビシッと凛桜にむかって敬礼した。



凛桜は、全員に紅茶と一口サイズのサンドイッチと

レモンケーキを振舞った。


「うまっ!」


ノアムは両手にもって頬張っていた。


「フフフ……いっぱいあるからたくさん食べてね。

お兄さん達も遠慮しないで食べてね」


狼獣人の青年達にもそう声をかけると

嬉しそうに尻尾を揺らしながら礼を返してくれた。


ほっこりしたところで、クロノスが話し始めた。


「今日来たのは、他でもないんだ。

陛下が大変餅を気に入ってな、本格的に備蓄品として

国の事業にのせることになった」


「えぅ!?」


やっぱりか!


国の事業……。


ホットケーキに続いて、第2弾になるんじゃないかと

密かに危惧していたけれども……

本格的に始動しちゃったか。


「そこでな、臼と杵をこちらで生産したいので

いっとき貸してくれないか?

という相談で今日はきたんだ」


「はぁ……それはかまいませんが」


「餅は美味いし、持ち運びにも便利だろう。

そのうえ長期保存にも適している。

これ以上の保存食はないと仰ってな」


詳しくはまた改めてグラディオンさんを交えて

話に来るそうだ。


一旦今日は、杵と臼を持ち帰るために

トラ獣人の青年達をつれて来たとの事だった。


「今後俺達が見本となって、餅つきの指導をする予定だ」


騎士団だよね!?

町の青年団じゃないんだから……。

餅つきの技を広めてどうする……。


凛桜は、乾いた笑いを浮かべるしかなかった。



その後、臼と杵は一足先に持ち帰られた。


「お前ら気をつけて運べよ。

木でできているからな、決して落とすなよ!いいな」


クロノスさんからきつくそう言われた二人は

真剣な表情で頷きながら帰っていった。


腰には黍団子の如く、杵と臼を運ぶお駄賃といったところだろうか

凛桜が作った、レモンケーキとフロランタンがぎっしり詰まった

袋がぶら下がっていた。


そんな二人とまた戦いたくてうずうずしている

シュナッピーをなんとか取り押さえているのはノアムさんだ。


「ギャロ!ギャロロロ!」


「暴れんなっ、こら」


「シルバークラスになるとはな」


そんな様子をみながら、クロノスさんも驚きを隠せないようだ。


「やはり相当珍しいのですか?」


「そうだな……。

正直いってシルバークラスのぱくぱくパックンフラワーを

生で見るのは初めてだ」


そう言いながら、シュナッピーを自分の元へと呼び寄せた。


「キューン」


嬉しそうに鳴きながら走ってくると

ドヤっと言いたげに葉っぱを揺らしながら踊りはじめた。


「フラワー種は、“血統”が色濃くでる種類ですからね。

恐らく、シュナッピーの両親のどちらかがシルバークラス

なんだと思います」


カロスもそう言いながら、シュナッピーの金属化した

花弁を見ながら頷いていた。


「ルナルドさんがおっしゃるには、お父様が原種を捕まえて

その原種から生まれたのがシュナッピーらしいです」


「ルナルド……。

あぁ、あのキツネ便の男か……」


クロノスはちょっぴり嫌そうに眉尻をあげた。


「お知合いですか?」


「あ……あぁ」


なんだか歯切れ悪そうに頷いて、頭をガシガシとかいた。


凛桜は、目でどういうことでしょう?

と、いうかのようにカロスに訴えた。


「…………」


カロスは困ったようにため息をついたが、やがてそっと語りだした。


「ルナルド様は、ただの商人ではありません。

ああみえて、伯爵家の当主となるお方です」


「つまり貴族出身なのに商人ということですか?」


凛桜が驚いたように問いただすと、カロスは頷いた。


「はい。

ルナルド様の母上の姉君が王族に嫁いでいることもあり

かなり力を持った貴族です。

しかも、団長の母君とも繋がりがあるそうで……」


「あーなるほど」


別に敵対しているわけではないけれども、貴族の柵とか

色々あるんだろうな。


それ以上に、ルナルドさんチャラいからな。

クロノスさんとは性格的にも合わなそう。


こっそりクスっと凛桜が笑うとその通りですと言わんばかり

カロスが同意するように頷いた。


「凛桜さんの思っている通り、あの二人はそりがあわないのです」


「フフフ……。

なんだかわかる気がします」


「なんだ?」


クロノスは不思議そうに首を傾げた。


「いや、なんでもありません」


そんな凛桜に対して何か言いたげなクロノスであったが

話をそのまま続けた。


「確かにあの商会ならレアなフラワー種を持っていても

不思議ではないな。

それ以上に不思議なのが、それを譲り受ける権利を得た

凛桜さんの爺様の方だな」


「そうッスよね。

いくら金を積んでも手に入らないのが通常ッスよね。

本当に何者なんっスか?凛桜さんのじいちゃん」


ノアムも同じ結論に達したらしい。


「よくわからないけれども。

じいちゃんは孫の私から見てもかなり豪快な人だったよ」


「お会いしたかった」


「クロノスさんなら、じいちゃんと凄く気があった気がします」


そういいながら二人は微笑みあった。


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