61.ランクづけ
田舎暮らしを始めて78日目。
今日は朝からしとしと雨が降っていた。
昨日は衝撃的な事実を聞いて、頭では理解したのだが
なんとなく落ち着かなくて、傘をさして中庭に降りた。
シュナッピーは、相変わらずの蛹状態だった。
(シュナッピー、無事に成長してね……)
そう思いながら、シュナッピーを撫でていると
そこにクロノスさん達がやってきた。
「ちわッス」
「おはようございます」
「凛桜さん、こんなところで会うなんて珍しいな」
三者三様の挨拶を受けながら、凛桜も挨拶を返した。
「おはようございます……」
心なしか凛桜の挨拶に元気かないのを感じ取ったのか
3人は心配そうに凛桜の顔を見た。
そして凛桜の視線の先をみて、その理由を悟った。
「早いな……もう第二形態に入ったのか」
そう言ってクロノスさんは、シュナッピーの干からびた
部分を確かめながら触った。
(やっぱり皆知っている事実なのね!)
「何色になるか楽しみですね」
カロスさんもそう言って目を細めた。
「せいぜい、紫くらいじゃないっスかね」
口をとがらせながらノアムさんが言った。
「いや、この身体能力と知能の高さからいくと
案外ブロンズかもしれない」
カロスさんがそう言うと
ノアムさんはさらに面白くなさそうに言った。
「これ以上強くなられても困るッス」
いや……
ちょっと待って……
また何か知らない事実が出てきそうで怖いんだけど。
凛桜はため息と共に肩をすくめた。
いつも通りとでもいうのだろうか?
そのままの流れで、朝食を食べることになった。
この前も思ったが、みんな朝早く家へ来る人たちは
確実に確信犯だな。
うちは民家ですよ!!
ここ重要ですから!!
本来ならばモーニングサービスは、しておりません。
朝食を出さないという選択肢はあるのかしら。
凛桜は、嬉しそうにいそいそと席に着く
3人をみながら少し呆れながら冷蔵庫の扉をあけた。
ガッツリと食べたいというノアムさんのリクエストで
かなりボリュームのある朝食になった。
白米にピーマンの肉詰めと唐揚げ、豚汁、だし巻き卵
長芋の梅干し和えときんぴら牛蒡を出した。
デザートにはチーズケーキを添えました。
3人は何杯もご飯をおかわりしながら
美味しそうに食べてくれました。
「やっぱり凛桜さんの飯が一番だな」
お茶を飲みながら、クロノスさんは満足そうに尻尾を揺らした。
「俺、凛桜さんのご飯でしか満足できない身体になってるっス」
ノアムさんも5個目のケーキを食べながら獣耳をピコピコ動かした。
あやしい言い方やめてくださる?
凛桜は苦笑しながら、カロスさんには桜餅を出していた。
カロスさんは、今日も安定の和菓子好きだ。
熊耳がこれでもかって、嬉しそうに高速で動いていた。
「ところで、……
先ほど皆さんが話していたシュナッピーの事なんですが
もう少し詳しく教えてください」
凛桜は、自分の分のチーズケーキと紅茶を用意して
ガッツリと聞く体制を整えた。
「シュナッピーの……?
ああ、花びらの色の件か……」
クロノスさんは、一瞬考え込んだが
すぐに合点がいったというように頷いた。
「他にも何かあったら教えてください。
食中魔界植物の事は何も知らないので……」
凛桜は、真剣な表情でクロノス達に頭をさげた。
そんな様子に、3人は顔を見合わせた。
「そうですよね。
私たちの中では常識であっても凛桜さんには
初めて見ることや聞くことばかりですよね」
カロスさんは、しみじみそう言って微笑んだ。
「そうなんですよ。
シュナッピーの今の姿を初めてみたときに
心臓がとまりそうになりました……」
凛桜は思い出しているのか、うっすらと目尻に
涙が浮かんでいた。
「何か私が間違ってしまって……
シュナッピーが枯れてしまったのかと……」
「凛桜さん……」
クロノスは、さりげなく凛桜の横に座り
そっと凛桜の涙をぬぐった。
「…………!! フフフ……」
そんな行動に最初は驚いた表情をしていた凛桜だったが
やがて嬉しそうに微笑んだ。
「どうした?」
若干……笑いをかみ殺している凛桜に
少し困惑したように、クロノスは獣耳を下げた。
「いや……違うの、ごめんなさい……フフフ
クロノスさんも魔王様も全く同じ行動を取るんだなって」
(魔王だと!!)
クロノスの額に怒りの筋が浮かんだ。
周りの空気が2~3℃下がったのは気のせいじゃないはず。
凛桜は、昨日起こったことを簡潔に3人に話した。
「魔王……」
少し黒いオーラを背中からだしながら、クロノスは
何かぶつぶつ言っていた。
「俺が一番に、凛桜さんの涙をぬぐいたかった!
その場にいて優しく慰めたかったのに
魔王め……」
クロノスのぼやきにあわせるかのように
声色を変えながらノアムがこっそり呟いた。
「変な心の声を、勝手にあてるのをやめろ」
カロスは苦笑しながら、軽くノアムを小突いた。
「だって、確実にそうじゃないっスか
団長のやきもちがさく裂しているじゃないっスか」
2人は無言でクロノスの方をみた。
ギリィィィィ
牙を剥きだしながら唸っていた。
「…………」
そこは触れちゃいけない大人の領域だぞ!
2人は悟ったように目を見合わせて頷いた。
そこに凛桜が、コーヒーとエクレアを持ってきた。
3人がそんな事を繰り広げている間に
お茶のおかわりを取りにいっていたらしい。
「どうかしたの?」
するとシュッとどこに収納したのか、爽やかな笑顔で
エクレアを受け取るクロノスがいた。
「いや……それは大変だったな」
何事もなくカッコつけてコーヒーを飲むクロノスがいた。
(団長……切ないっス)
(せめてもの男心ですかねぇ……)
部下二人はそんなクロノスの様子を見ながら遠い目になっていた。
その後、第二形態の詳しい話を聞いた。
今までのシュナッピーはいうなれば
幼稚園児~中学生くらいの状態だったらしい。
そして今回の第二形態期を経て……
今度は高校生から20歳前くらいまで成長する感じかな。
あともう一回、最終形態があるらしい。
完全体の大人になるらしい……。
完全体ってなんだよ……。
最終形態って……やっぱりラスボスじゃん!!
もう残りHPもMPもない状態で、かつかつ倒して
ガッツポーズ決めていたところに
最終進化しました!!
という表示をみて項垂れる気分だわ……。
まだ進化するのねぇ。
「それで色がどうこう話してましたよね」
「あーそれっスか。
第二形態になると、顔まわりというか
首周りとでもいうべきか悩むんっスけど
花びら見たいなものが、現れるんっスよ」
なんだと、ここにきて急に植物らしさが加わるのか?
今さら過ぎやしないか?
「その色がフラワー種の強さの証なんッス」
ノアムが口の横にチョコをつけながらいい笑顔でそう言った。
「強さの証?ですか……」
「あぁ……。
俺も見たことはないが、ゴールドの花びらをつけるものが
1~2%といると言われている。
いわゆるフラワー種のキングだな」
「キング……」
「次にシルバーが5%前後で、ブロンズが6~8%だな。
ここまでは希少種だ」
オリンピックのメダルか!
と、凛桜は密かに心の中でツッコミをいれていた。
「その後が、紫で10~12%くらいだな。
次に赤になり15%前後という所だな……
ここまでくらいが力の強いものだ」
「かなりはっきりとした階級制度なのですね」
凛桜は感心したように話をきいていた。
「残りは、白だったり黄色だったり、桃色だったり
はたまた2色が混合していたり、様々な色があるという具合だ」
「なるほど」
「で、シュナッピーは、かなり幼体の頃から
潜在能力と知識が高かったので、紫かもしくは
ブロンズくらいまではいくのではないかと考えています」
カロスは期待するかのように、シュナッピーの方向をみて
微かに微笑みながらそう言いきった。
「シュナッピーは、そんなにできる子だったんですね」
なんだか我が子を褒められたかのように
嬉しくなってしまう凛桜であった。
「数日後が楽しみだな」
クロノスも同意するように笑った。
3人はそのままお弁当をお土産に、仕事へと戻っていった。
今日のお弁当は、ドライカレーだ。
つけ合わせに、ほうれん草のバター炒め。
エビフライにプチトマト、味玉だ。
デザートには、杏仁豆腐を2個つけた。
これは昨日、大量に作ったので……
小さいカップ容器に入った物を、8個程余計に渡した。
なんでも、この後、騎士団の中でチームごとに
対抗戦を行うらしく、優勝チームへのご褒美にするとの事だ。
杏仁豆腐がご褒美になるのかしら?
なんて思っていたら……
「俺が優勝したら、杏仁豆腐を独り占めしていいっスか?」
とノアムさんがクロノスさんに詰め寄っていた。
「いい訳ないだろう、バカ猫。
すでに凛桜さんから、それぞれに2つ貰っているだろうが」
さっそくカロスさんの雷が落ちていた……。
あと、すっかり忘れていたが
クロノスさん達が今日来た目的は……
陛下のお忍び餅つき大会の日程についてだ。
明後日にして欲しいが、大丈夫か?
という確認の訪問だったらしい。
楽しみにしているという内容の直々のお手紙を頂いた。
なので、陛下にも杏仁豆腐を10個献上することにした。
きっとまた最初に鷹獣人のおじさまが2個程
召し上がるのだろう。
もちろんOKなので、さっそく準備に取り掛かろうと思う。
私も陛下に会えるのが楽しみだわ。